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14.14-41 仕上げ41

「(私、何をしているのかな……)」


 木材を運びながら、アステリアは悩んでいた。やることなすこと、すべてが裏目に出ているように思えたのだ。木材の一件も、悩まずにさっさと運べば良かっただけ。その他にもワルツたちと共に行動をしている中で、自分の行動が(ことごと)く空回りしているようにしか思えなかったのだ。


   カコン……


「ふぅ。これで最後の木材ですね」


 アステリアが置いた木材が最後の木材だったらしい。一応、乾燥しているとは言え、それを運ぶというのは相当な肉体労働になる訳で……。乾燥炉から車両へと木材を運んだ学生たちの中には、グデッとその場にへたり込んで、肩で息をする者もいたようである。


 ただ、アステリアは、元が獣だったためか、そこまでは疲れてないようだった。マリアンヌも似たようなもので、魔女は元々筋力がある種族らしく、細い腕で重い木材を軽々と持ち上げて、一人で木材を運んでいたようである。


 ちなみに、ABC姉妹は、人の子どもの姿に戻って、3人で木材を運んでいたようである。彼女たちも元が獣だったためか、たとえ子どものような見た目であっても、3人で運べば問題なく運べたらしく、他の学生たちよりも早いペースで、木材を運んでいるようだった。しかも、元が1匹の魔物なためか、声かけをせずとも3人の息はピッタリとあっていて、効率よく木材を運べていたようである。


「もう無いです」

「次はどうするの?」

「みんな疲れてるから休憩?」


 親しい年上の人物に問いかけるかのように、アステリアへと話しかけるABC姉妹。もしかすると、彼女たちは、匂いでアステリアの正体が魔物だと気付いているのかも知れない。


 対するアステリアは周囲を見渡してから、こう答えた。


「まだ休憩はしなさそうですよ?ほら、騎士科のお兄さんたちが、鉄の馬車……列車と言うんでしたっけ?あれを動かそうとし始めていますし……」


 どうやら騎士科の学生たちは、交代で休むことにしたらしい。現状、車両を動かすには、4つある自転車のペダルのようなものを漕がなければならないので、4人がペダルを漕ぎ、4人が休憩する、というローテーションを組むつもりのようだ。


 そんな騎士科の学生たちや、次の乾燥炉の準備をし始めている魔法科の学生たちの姿を見て、アステリアがポツリと零す。


「皆さん、すごいですね……」


 そう口にするアステリアの表情は暗い。皆、頑張っているというのに、自分は何をしているのだろうか……。そんな焦りが、彼女の表情から滲み出ていた。


 彼女の表情に気付いたのか、ABC姉妹が揃って不思議そうに首を傾げていると——、


「アステリアさん。ちょっと良いかしら?」


——彼女はマリアンヌに声を掛けられた。


「はい?なんでしょうか?」


「あなた……少し、気を張りすぎではなくって?」


「気を張りすぎ……?」


 アステリアは、マリアンヌが何を言っているのか分からない様子で、思わず質問の意図を聞き返す。


「それはどういう……」


「あなた、焦っているでしょう?」


「えっ……」


「傍から見ていれば、すぐに分かりますわ?これ以上無いくらい、ハッキリと」


「…………」


 顔や態度に出していたつもりの無かったアステリアは、マリアンヌの指摘を受けて、言葉を失った。誰にでも分かるくらい焦っているということは、その焦りはワルツたちにもバレているということ。ワルツたちに迷惑を掛けたくないと思い、必死になって自分に出来る事が無いかを探し続けていたアステリアの行動は、むしろ、余計にワルツたちに心配を掛けることになっていたのだ。そのことに気付いたのか、アステリアは目を見開いて固まった。


 対するマリアンヌは、クスッと笑ってから、再び問いかけた。


「そんなに、焦っていることを知られたくなかったの?」


「あ、いや……その……」


「聞きたいのだけれど、あなたが焦っているのは、多分、自分に力が無いと思っているからですわよね?では、いったい何と比較して、自分に力が無いと思っているのかしら?」


「何と……?」


「それを整理した上で考えて欲しいのだけれど、あなた……何になるつもり?化け物?」


 アステリアが焦っているのは、ワルツたちと共に生活する中で、周辺の者たちが皆、大きな力を持っているためである。そんな者たちは、例外なく、一般常識で言って"化け物"と呼べるような力を持っている者たちばかり。そんな者たちと比べて、自分は非力だと嘆くのは的外れなことなのでは無いか……。それがマリアンヌの指摘だった。


 マリアンヌの指摘は正論だと言えたが、アステリアとしてはそう簡単に受け入れられるものではなかったのか、眉を顰めて言い返す。


「ですが、ワルツ様方に衣食住を提供されているというのに、何のお返しも出来ないという状況を、このまま受け入れることはできません。それでは、ただの遊び人になってしまいます」


「ふふっ、遊び人……良い言葉ね」


「えっ……?」


「良いんじゃないの?遊び人でも。もしもそれを許してくれないというのなら、疾うの昔にあの家から追い出されているはずですもの。でも、今でも追い出されていないということは、現状がゆるされているということ。それほど心配するような事ではありませんわ?今を謳歌しませんと勿体ないですわよ?ねぇ?皆様?」


 と、ABC姉妹に問いかけるマリアンヌ。対するABC姉妹は、マリアンヌの問いかけを理解しているのかしていないのか不明だが——、


「「「ねー?」」」


——と揃って同意の声を挙げたようだ。


魔神「ニート?許されないわね」


皇女「え゛っ」

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