14.14-40 仕上げ40
「えっと、じゃぁ運びましょうか」
「運ぶです!」
「運ぶの!
「運ぶ?」
ボフン!
アステリアの呼びかけに応じ、ABC姉妹は、早速、ケルベロスの姿になり、木材を運ぼうとするが——、
「あ、あのっ、ちょっと待ってください!皆さん……って、言えば良いのかな……皆さん、この木材をどうやって運ぶつもりですか?」
——アステリアには目の前のケルベロスが、具体的にどうやって木材を運ぼうとしているのか、想像できなかったようである。
「まさか、1本つづ、囓って持ち上げるわけ……ではないですよね?」
ABC姉妹が3つの首で3本づつ木材を持ち上げたとしても、乾燥炉の入り口は狭く、長い木材を外に出そうとすれば、入り口で引っ掛かってしまうのは明白。犬が大好きな木の棒を口にくわえたまま柵に引っ掛かるような展開になるのは間違いなかった。犬——もとい、4足歩行動物の身体の構造からして、縦に荷物を持つためには背中に背負うしかないはずなのだ。
指摘されて初めて気付いたのか、ポチたちはお互いに首を傾げる。
『そういえば、どうやって外に出そう?』
『咥えるのは難しいし、量がありすぎるの』
『引っ張る?』
すると、今度はアステリアが問いかける。
「えっと……ここにいる皆さんの中に転移魔法が使える方はいらっしゃらないでしょうか?」
木材を囓って持ち上げても、ロープで縛って引きずっても、力技で解決しようとすると、傷が付いてしまうのは確実。無傷で車両前まで運んで載せるためには、転移魔法が手っ取り早かった。
しかし、残念な事に、誰も首を立てに振らない。転移魔法が使える学生がいても、木材を転移させられるほど強大な魔力を持っている者はいないからだ。
その場に居合わせたストレラは、アステリアが求めているような転移魔法陣を使えるが、ニッコリと笑みを浮かべるだけ。どうやら彼女に手伝うつもりは無いらしい。授業参観の保護者役(?)に徹するつもりのようだ。
「誰も転移魔法は使えませんか……。公都側の"駅"のように水を使ったリフトがあるわけでもありませんし……」
そう言ってアステリアは考え始める。今、ここにあるものを使って、木材を車両まで運ぶにはどうすれば良いのか……。
彼女が悩んでいる間、クラスメイトたちやABC姉妹も方法を悩んでいたようだ。だが、どれも力技による移動方法ばかり。良い案は中々浮かんでこない。
マリアンヌも悩むが、彼女にもあまり良い案は浮かばなかった。
「(転移魔法を使える方をお呼びするか、それとも輸送のためのリフトを作れる方をお呼びするか……。でもそれをしてしまえば、私たちがこの場を任された理由が無くなりますわよね……)」
単純に助けを求めに行くのも、手段の一つではある。しかし、もう少し悩んでみるべきでは無いか……。
マリアンヌはそんなことを考えていると、アステリアは何かを思い付いたのか、不意に「んん?」と声を上げる。
「そういえば、ポチちゃん……様方は、転移魔法陣が読めるのでしたよね?」
その問いかけに対し、ABC姉妹は同時に首を立てに振った。
『読めるです!』
『でもゼロからは書けないの』
『雰囲気で分かる?』
「書くのは難しくても、あの入り口にある魔法陣を書き換えて、木材を転移させられるようにする、というのはできないでしょうか?」
乾燥炉の扉に付いている魔法陣を、本来の転移魔法陣として使用すれば良いのではないか……。そう考えるアステリアだったものの、ABC姉妹の表情は、犬の顔のままで、険しかった。
『たぶん……できるです』
『でも、変えたら元に戻せないの……』
『この魔法陣、細かすぎ?書いた人、頭おかしい?』
「あ、頭……えっと、元に戻せないのは厳しいですね。では写して書いて、それを改造するのはどうでしょう?」
『インクがあればできるです!』
『でもインクが無いの』
『……血でも出来る?』
「血……ですか……」
流血までして木材を運ぶことを、ワルツは求めるだろうか……。アステリアは悩んだようである。
他に何か良い方法は無いか……。アステリアたちが悩んでいると、騎士科の学生たちがやって来た。どうやら、車両の観察が飽きてきたらしい。
そして彼らはこんなことを言い出した。
「よし!じゃぁ、運ぶか!」
「だな!」
「2人で1本、いくぞ!」
「「そぉいっ!」」
と言って、悩むアステリアたちに話しかけるとこと無く、木材を運び始める騎士科の学生たち。
そんな彼らの姿を見て、アステリアたちは思わず肩を竦めたようだ。……変身することなく、人の姿のままで、皆で協力して運べば良かっただけなのではないかということに気付いたのだ。
なにしろ、木材は乾燥していて、2人でもどうにか運べるくらいの重さまで軽くなっていたのだから。




