14.14-39 仕上げ39
以前、乾燥してから切断すると説明しておったのに、この話では逆になっておったゆえ、修正したのじゃ。
「昨日のことですけれど……ワルツ様が、魔法陣を少し書き換えたのですわ?」
乾燥炉自体の存在も、クラスメイトたちにとっては、かなりオーバーテクノロジーと言える代物だったが、マリアンヌの説明は、そのオーバーテクノロジーを更に昇華させるような内容だった。
「この中に大木を入れて、魔法陣に魔力を注ぎ込むと乾燥が始まる、というのは、昨日、ワルツ様が説明されましたけれど、逆に魔法陣の機能が止まるときにも、自動的に木材をてn——切断する機能が働くようにできているのですわ?」
マリアンヌは危うく転移という言葉を使いそうになる。ワルツから炉に描かれた魔法陣が転移魔法陣である事を口止めされていたわけではないが、ワルツ自身は自分が使う転移魔法陣の特性について、他人に言いふらして回っているわけではないことを思い出したのだ。まぁ、複雑で緻密な魔法陣を真似て改ざんするなど、そう簡単にはいかないはずだが、下手な事を言わないことに越した事はないと言えるだろう。
ゆえに、クラスメイトたちから見ると、乾燥炉の扉に描かれていた魔法陣は、乾燥と切断を自動で行う、木材加工専用の魔法陣のように見えていたようだ。実際には、部屋の内部の空気を転移させて木材を乾燥させる機能と、木材を決まったサイズでほんの数ナノメートルだけ転移させる機能が組み合わせられているだけの、やはりただの転移魔法陣なのだが、詳細を知らなければ、ハイテク魔法陣にしか見えなかった。
ゆえに、その場にいたミレニアなどの魔法科の学生たちは、マリアンヌの説明を聞いてからというもの、驚いたように魔法陣に見入っていったようだ。
「ワルツさんが使う魔法陣は、すべて同じように見えるのですが、どうやって機能を追加されているのかしら?」
「いや……よく見ると微妙に違うみたいよ?ほら、この部分の長さとか、魔法文字の跳ね具合とか」
「……誤差じゃねぇか?」
人によっては少し違って見え、また別の人にとってはまったく同じに見える……。クラスメイトたちが、魔法陣を見て、あーだこーだと議論していると、彼らの会話を中断させる人物たちが口を開く。
「これは転移魔法陣です!」
「微妙に調整されているの」
「安全が考慮されていない……?」
魔法陣を見たABC姉妹が、不意にそんな事を口にし始めたのだ。
その発言に、クラスメイトたちは驚いた。自分たちよりも小さな少女たち——いや、何を考えているのかよく分からない魔物たちが、魔法陣の核心に迫る発言を始めたからだ。
マリアンヌも焦ったようである。自分はそこにある魔法陣が、転移魔法陣であることをバラさないよう注意しながら発言していたというのに、ABC姉妹が堂々と喋り初めたのだから、大慌てである。
「えっ……ちょっ……皆さん?それ話して良いことですの?」
マリアンヌは小声でABC姉妹へと問いかける。すると3人の少女たちは、皆一斉に首を傾げた後、まったく同じタイミングで口を押さえた。どうやら、マリアンヌの発言から、自分たちが言ってはならない事を言ってしまったのだと悟ったらしい。
「言っちゃいけないことだったです?」
「でも、見たら、誰でも分かる簡単な魔法陣なの……」
「使い方の問題?」
「あ、うん……あなたたちにとってはそうなのですわね……」
ABC姉妹の発言を聞いて、マリアンヌは察したようだ。……やはり、ABC姉妹もまた、自分たちが浸かっている"常識"から大きく外れた存在。彼女たちは大陸の外の存在なのだから、"常識"や文化、思想が異なって当然なのだろう、と。
そう察したマリアンヌは、思考を切り替えて作業を始めることにしたようだ。深く考えて悩んでも仕方がないと判断したらしい。
「さぁ、アステリアさん?運びますわよ?騎士科の殿方たちが、木材の積み込みを待っていますわ?」
と、口にするマリアンヌの視線の先では、騎士科のクラスメイトたちが、公都に繋がる線路に乗せられた車体を何やら注意深く点検(?)している姿が見受けられたようである。どうやらマリアンヌは、そんな彼らの姿を見て、いつでも発車できるように彼らは彼らで準備をしているのだと考えたらしい。
ちなみに、実際にはそんなことはなく、単に好奇心から、車体を確認しているだけだったりする。車両という鉄の塊が、ペダルを漕ぐだけで、高速に移動出来る仕組みが、彼らには理解出来なかったのだ。
彼らが持つ疑問は、魔法科のクラスメイトたちが抱える疑問と同じ次元の話。クラスメイトたちは皆、例外なく、ワルツのオーバーテクノロジーに興味津々だったようだ。




