6中-04 雨の町並み-前編4
今もなお雨を滴らせる、どんよりとした曇天の下で・・・
「まさか、こんなところに難関があるとは・・・」
プロティー・ビクセンの第1王城跡地まで戻ってきたユキが、デフテリー・ビクセンの第3王城へと繋がる転移魔法陣を前に固まっていた。
「・・・まぁ、政府が管理してるものだから、一度、機能している王城に入らないと、別の王城に行けないっていうのは当たり前よね・・・」
と、そんなユキを前に、納得げに呟くワルツ。
・・・要するに、件の食堂があるという第5王城を内包している空間に入るためには、街から直行する転移魔法陣が無い以上、一度、デフテリー・ビクセンの第3王城へと戻らなくてはならなかったのである。
となると、必然的に、ユキは妹達に顔を見られることとなり、連行されるのは間違いないだろう。
・・・そうなれば、しばらくの間、彼女は陽の目を見られなくなってしまうのではないだろうか。
「・・・無理して行こうとしなくてもいいのよ?」
目に見えてプルプルと震えだしたユキに、ワルツ達は苦笑を浮かべる他なかった・・・。
「い、いえ!ここまで折角、ご足労頂いたのです!ここは何が何でも・・・」
「いや・・・そこまでしなくても・・・。なんだったら、ビクセンじゃなくて、近くの街とか村でもいいんだからね?」
「・・・えっ?」
そんなワルツの提案に、ぽかーん、といった表情を浮かべるユキ。
どうやら、町の外に出ることまでは考えていなかったらしい。
「あの・・・よろしいんですか?外を移動するための馬車などはお貸しできませんが・・・」
「私たちが自力で移動することに対して遠慮してるみたいだけど・・・美味しい食事を提供してくれるなら、どこへでも連れていってあげるわよ?」
「えっ・・・は、はい・・・」
ワルツの、『美味しい食事』と言う言葉に、プレッシャーを感じたのか、難しい表情を浮かべるユキ。
そしてしばらく悩んだ末、
「・・・では、この街からほど近い村に、オムレツで有名なお店がありますので、そちらに向かいましょう」
と、ようやく火関連ではなさそうな、まともな店を候補に上げることにしたのであった。
・・・そんな時のことである。
「・・・ん?」
ワルツは急に立ち止まると、廃墟と化していたビクセンの町の方へと視線を向けた。
「どうしたの?お姉ちゃん」
「・・・いえ、何でもないわ」
ルシアの質問にそう答えながらも町並みへと向けた視線を細めるワルツ。
・・・だがそれも一瞬のことで、彼女は直ぐに表情を元に戻すと、まるで何もなかったかのように振る舞った。
「じゃぁ、早速行きましょうか。私もお腹が減ったわ」
「はい。申し訳ないですが、よろしくお願いします」
そう言って、頭を下げるユキ。
するとユリアが徐ろに口を開く。
「いやー、多分無いと思うんですけど、定休日だったりしないですかね・・・」
「それ、完全にフラグじゃない・・・」
『えっ?』
「いえ、独り言よ。気にしないで・・・」
・・・こうしてワルツたちは、フラグを立てたユリアのせいなのか、それとも炎に縁が無さすぎるユキのせいなのか・・・営業している食堂を探して、ボレアス国内の村々を巡る旅へと旅立つことになったのである・・・。
そして4時間後、同じ場所で・・・。
「いや・・・ここまで来ると凄いとしか言えないわね・・・」
「まさか、7件回って、全部定休日だとは思っても見ませんでした・・・」
「いや・・・ユリア?貴女、行く前に、予想してフラグ立ててたじゃない・・・」
「・・・フラグですか?」
「そうフラグ。・・・たまにあるのよ。『もしかして○○だったりしてー』、なんて言葉に出したら、本当にそうなることが・・・」
「あー、確かに。そういう経験って、よくあるかもしれないですね」
「よくあるの・・・?」
「えぇ。最近のことだと、例えば、ユキさんが実はシリウス様の影武者だったりしてー、なんて後輩ちゃんと話してたんですが・・・あ、でもこれは当たりませんでしたねー。もしもユキさんが影武者なんてしていたら、外遊で他国に行っても相手の国の国王に会えなかったり、食料が調達できなくて行き倒れたり・・・あと、そのせいで他の閣僚に舐められそうですからね・・・。その他の例だとすると・・・あれ?どうしたんですか?ワルツ様?」
口を開けたまま唖然として固まっているワルツとルシアに、気付いた様子のユリア。
(こ、これが、女子力・・・?!いえ、むしろ死亡フラグね・・・)
・・・と言えるかどうかは別として、どうやらユリアの直感は馬鹿にできないらしい。
ところで。
ユリアから、ジャブとフックとストレートを受けたはずのユキは、この会話の中に参加していなかった。
もちろん、妹に捕まって何処かへと連行されていった、というわけでも、存外に打たれ強かった、というわけでもない。
今でもワルツの真隣りにいて、口をへの字に結んで佇んでいる。
では、どうして黙っているのかというと・・・
「ぐすっ・・・」
・・・そう、自分のあまりの不甲斐なさに、ユリアにイジられる前から涙腺が崩壊していたのである。
「うん・・・ユリアも程々にね・・・」
「え?・・・あ、はい・・・」
ユリア自身としてはユキを傷つけたつもりは無かったが、彼女を挙げた例に少し言い過ぎな部分があったかもしれないと思い返し、口を噤むことにしたようである。
やはり、ユキのことをライバル視している部分があるのだろう。
一方、ワルツとユリアがそんなやり取りをしている間、ルシアがユキのフォローに回る。
「ねぇ、ユキちゃん。そんなに気にしなくてもいいよ?ちゃんとご飯は食べれたんだし・・・」
結局昼食は、プロティー・ビクセンに戻ってきてから、メインストリートでかろうじて営業していた屋台で購入した串焼きになったのである。
串焼きが好物(?)のワルツや、普段から稲荷寿司以外にあまり買い食いをしないルシアにとっては、本当にそれで十分だったのだが・・・ユキにとっては、案内役として殆ど役に立てていないことに、相当な責任を感じているらしい。
その上、ワルツに、自分のカッコ良いところ(?)を見せようとしたのである。
彼女の今の状況を例えるなら・・・綿密に計画を立ててデートを遂行したにも関わらず、未知の力によって尽く失敗した彼氏の図・・・と言えるだろう。
「ごめんなさい・・・」
恐らく、生きていること自体を謝罪しているだろう様子のユキ。
「んー、困ったなぁ・・・どうしたら元気になってくれるかなぁ・・・」
そんな彼女を前に、ルシアはしばらく悩んだ後、
「・・・うん、試してみよう!」
そう呟いてから、近くの瓦礫に手を当てた。
すると、
ガタガタガタガタ・・・
瓦礫が何やら振動を始める。
「・・・うん、行けそう!」
そんな瓦礫の様子に、ルシアはこれからやろうとしていることに確信を持つ。
そして彼女は・・・魔力を開放した。
ドゴォォォォォ!!
『?!』
俯いていたユキも、反省していたユリアも、そんなユリアの身に権力的な危険が及ばないかを心配していたワルツも、未だに串焼きを頬張っていたシルビアも、皆、驚愕の視線をルシアに向けた。
何故なら・・・
ドガガガガガ!!
ただでさえ、全壊状態にあった王城がこれ以上壊れる部分が無いくらいに崩壊を始めたからである。
唯一無事だったのは、ワルツ達が立っていた第3王城へ繋がる転移魔法陣の周囲くらいだろう。
「ちょっ!?ルシア!何して・・・」
「あ、動かないでね?お姉ちゃん」
真っ白な魔力が周囲で濁流を巻き起こし、街の直上の曇天を吹き飛ばした結果、真っ赤な夕日の光が王城跡地へと注ぎこむ。
・・・その様子は、まるで炎に包まれていた、と表現しても過言ではなかった。
そんな様子に、泣いていたユキですら我を忘れて眼を奪われていると、次第に見える景色に変化が生じ始める。
ボゴォ・・・ボゴボゴボゴボゴ・・・
水が沸騰するようにして、瓦礫の石材が内側から盛り上がり、形を変え始めたのである。
・・・それだけではない。
木材を原料とする家具の破片や、粉々になったガラスの破片、さらには、潰れて拉げてしまった武具などが、変形した瓦礫の石材と1つに混ざり合って、まるでスライムのような不定形の形に変化していったのである。
「んー、細かいところは分かんないから、あれでいっか!」
真っ白になったルシアが、そんな適当な様子で呟くと、
ドバァン!!
スライムのような物が、一気に弾けた。
それも、ワルツ達の頭の上を覆い隠すようにして。
「・・・」
「っ?!」
「これ大丈夫ですか?!」
「もごぉぉぉぉ?!」
思わず、身の危険を感じてしまう仲間たち。
「うん、動かなければ大丈夫だよ?」
仲間たちとは対照的に、事も無げに呟くルシア。
ゴゴゴゴゴ・・・
そして、周囲を謎の物体が覆い尽くしてから、1分ほど経った頃。
「はい、完成!」
真っ暗な空間の中で、元の姿に戻ったルシアは声を上げた。
「な、な、な・・・」
「あの・・・ルシアちゃん?何ですか、これ・・・」
「ングッ・・・?!」
「これはねぇ・・・外に出れば、分かると思うよ?」
『はあ・・・』
そもそも、外に出ることは出来るのだろうか、と思わなくもない仲間たち。
だが、この空間にも出入り口はあったようで、ルシアが壁(?)に近寄って手を翳すと・・・
ギィィィィ・・・
という音を立てて、巨大な扉が開き、内部の空間に再び赤い光が差し込んできた。
どうやら、木のようなもので作られた扉が付いていたらしい。
そんな扉の隙間から、迷うこと無くルシアが外に出ていくので、彼女を追って仲間たちも外に出てみると・・・
『えっ・・・』
彼女たちの背後には・・・
「ごめんねー?ユキちゃん。ビクセンのお城の形がよく分かんなかったから、ミッドエデンの王城を建てちゃった!」
ルシアにとって見慣れた姿の王城が鎮座していたのである・・・。
要するに彼女は、ビクセンの王城をリサイクルして、ミッドエデンの王城を魔法で建ててしまったのだ。
「これで、機嫌直してくれた?」
と、ユキに問いかけるルシア。
そう、全ては、ユキの機嫌を治すための、ルシアなりの心遣いの結果である。
「・・・」
・・・まぁ、機嫌を治す以前の問題で、彼女には意識がない様子だったが。
「んー、やっぱり、元のお城じゃないと納得してくれないかなぁ・・・」
「いや、そんなことは無いと思いますよ?・・・っていうか、ユキさんのためだけに、お城を建てるなんて・・・流石はルシアちゃんです」
「えへへ・・・」
ユリアに褒められて、嬉しそうな表情を浮かべるルシア。
・・・だが、彼女は直ぐに異変に気づく。
「・・・?お姉ちゃん?」
そう、いつもなら、真っ先にルシアに声を掛けるはずのワルツが、町のほうを向いたまま、途中から反応を示さなかったのだ。
「・・・ワルツ様?」
ユリアもそれに気付いたのか、彼女に声を掛けるが・・・
「ごめん、みんな。ちょっと急用ができちゃったから、先に帰っててもらえるかしら?多分、日付が変わる前に戻ると思うから」
ブン・・・
そんな言葉だけ残して、ワルツは空気に溶けるようにして、姿を消したのである。
「・・・どうしたんだろ・・・お姉ちゃん・・・」
姉に褒めてもらえなかったのか、少しだけ悲しげな表情を浮かべるルシア。
「ワルツ様には、ワルツ様なりの苦労があるのでしょう。私たちは心配しなくても大丈夫だと思いますよ?」
「そっかなぁ・・・」
そんなユリアの言葉に、昨日ワルツが部屋の片隅でいじけていた理由を思い出したルシアは、再び明るい表情を取り戻した。
・・・ところで
「あの・・・ルシアちゃん?できれば、喉に食べ物をつまらせて青くなっている後輩ちゃんのことを、どうにかしてもらえると助かるのですが・・・」
人知れず死にそうになっていたシルビアを救う手段はあるのだろうか・・・。
主殿の話によると、なにやら、Ylvisの“The Fox”という曲を聞く度に、ルシア嬢が踊っている様子が脳裏に浮かぶらしいのじゃ。
ま、そのことはさておきじゃ。
今週は双子座流星群が見えるらしいのじゃ。
流れ星というのは地球が宇宙を漂う塵の中に入ることで、降ってくるものらしいのう?
それで、主殿と流れ星について話しておったのじゃ。
何千年何万年何億年の間ずっと同じ場所をグルグル星が行き来しておるのに、どうして毎年、流れ星は降ってくるのじゃろうかと・・・。
いい加減、全部落ちきってもおかしくないと思うのじゃが・・・
ん?何じゃ?心が澄んでいる者にしか理由は分からない?
そうじゃったのか・・・では、ドライブをしながら曲を聞いてニヤけておる主殿は心が綺麗ということなのじゃな。
・・・もう寝よう。




