14.14-35 仕上げ35
今日一日だけ仲間が加わる、という担任教師の発言に、クラスメイトたちは一瞬だけ疑問を感じるものの、さほど時間を掛けることも無く、見学者なのだろう、と理解する。というのも、学院に見学者がやってくる事は稀にあったからだ。
ただ、それは、入学予定者が見学に来るのではなく、入学予定者の親か、あるいは国の偉い人物がやって来る場合が多かった。もちろん、入学予定者本人がやって来る事は無いわけではないが、学院の立地が山の中なので、遠路遙々やって来る者は、殆どいなかったようだ。
ゆえに、クラスの中は大盛り上がった。ハイスピアが招き入れた人物たちは、自分よりも幼く見える者たちばかりだったからだ。ただ、3人ほどはメイド服を着た獣人で、更に年齢もかなり低そうだったので、少しだけテンションは下がったようである。その3人が入学者予定者である可能性は極めて低く、他の2人の付き添いである可能性が高いと言えたからだ。
そして残る2人の内、片方を見たクラスメイトたちの目から、急激に輝きが失われていく。……と言うより、混乱が広がっていく。その人物は、既に入学している人物のはず……。しかも、同じクラスメイトのはずの人物だったからだ。
皆の視線がテレサに集中する。すると、居たたまれなくなったのか、テレサが見学者の1人に向かって問いかけた。
「……なぜコルテックスがここにおる」
テレサは思わず溜息を吐いた。以前、教師に化けてやってきた時も、今回、生徒の格好をしてやってきた事も、事前に聞かされていなかったからだ。ワルツなどは頭を抱えて、机に突っ伏しているほどだ。
「いえいえ〜。ストレラお姉様を学院長室前に放置した酷いお姉様がいると聞きましてね〜?マグネア様を説得するついでに、私も見学をする事にしたのですよ〜」
「マグネア殿は、よく許可したのう……」
「お願いしましたら、わりとすぐに許可してくださいましたよ〜?」
そんなテレサとコルテックスのやり取りを聞いて、クラスメイトたちの間で小さなざわめきが起こる。コルテックスは以前、エネルギアに乗って学院に乗り付けた事があり、その際、学生の皆に姿を見られていたので、クラスメイトたちも知っていたのだ。
ただ、その際、彼女は、ドレスを着込んでいたために、学生服を着ている今のコルテックスとは雰囲気が大きく異なっていた。そのせいか、クラスメイトたちは、コルテックスを見ても、すぐには気づけなかったらしい。学生服を着たコルテックスを見て、"あのとき"の彼女だと気づく者もいれば、異様にテレサに似ている事に動揺する者もいて……。中には、テレサが影武者なのではないかと疑う者さえいたようである。
そんなこんなで、もう一人の見学者の影がかなり薄くなる。それがストレラの作戦なのか、コルテックスの作戦なのかは不明だが、ストレラはすまし顔を浮かべて、静かに事の成り行きを見守っていたようだ。そのせいで余計に、彼女の影は薄くなっていく。
しかしそれもここまで。担任教師のハイスピアが、各々の紹介を始めたからだ。
「えっと、こちらの方が——」
最初はコルテックスだ。見学者の中で階位と呼べるものが一番高いのは彼女だからだ。
「私のことは皆さん、知っていると思いますので、紹介は結構ですよね〜?今日は、飽くまで、お姉様方の授業参観に来ただけです」
というコルテックスの発言に、声には出さずに『帰れ!』と口を動かすワルツ。しかし、コルテックスは素知らぬ顔。
ゆえに、紹介はそのまま進んでいく。次はストレラの番だ。
「次に、こちらの方は——」
「ストレラと申します。今日は、コルテックスと一緒に、学院の見学と1日学生体験にやって参りました。皆さん、よろしくお願いいたします」
そんなストレラの発言を聞いて、ワルツたち以外の学生たちがハッとする。彼女がコルテックスのことを呼び捨てにしたからだ。コルテックスは国王レベルの人物。そんな彼女のことを呼び捨てに出来るとすれば、同じ国王レベルの人物か、それ以上の人物しかあり得ないからだ。
その結果、教室内がシーンと静まった。そこにいる2人の人物は、自分たちが思っていたような、年齢の近い見学者などではなく、外国の偉い人々なのだと気付いたのである。
そんな中、ハイスピアがほっこりとした表情で、最後の3人に水を向けた。
「そして次の3人が——」
「アンジェリカです!」
「ベチェットなの!」
「キャティア?」
と、凍り付きかけていたクラスの中が、可愛らしい3人の少女たちの声で、一気に明るくなる。
……そして、その直後に、一気に恐怖に包まれることになった。
ボフン!
『三人揃って』
『ポチなの』
『よろしく?』
三つ首の巨大な猛獣——ケルベロス。上級冒険者ですら遭ったこともないような化け物が教室の中に現れた時、学生たちは言葉どころか、息を吸うことすら忘れてしまったようだ。
そしてここに来て、ようやく彼らは気付く。……朝方、異様な空気がクラスの中に立ちこめていた本当の理由は、これだったのだ、と。




