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14.14-33 仕上げ33

「「   」」


 マリアンヌとアステリアは固まった。ピタリと時間を停止したかのようだ。ABC(ポチ)姉妹がケルベロスだということは分かっていても、実際にその姿を見るのと聞くのとでは、驚きようがまるで違ったのだ。


 三つ首の巨大な犬——だというのに、メイド服を着ているケルベロスを前に、マリアンヌたちが固まっていると、ケルベロスが——、


   ボフンッ!


——と元の姿(?)に戻る。人の姿に戻った3人は、アステリアが変身したときとは異なり、服が破れているようなことは無く、元通りの服装に戻ったように見えていた。どうやら何かしらの特殊素材かエンチャントが掛かっている特殊なメイド服を着ているらしい。3人の服が、変身すると1枚の犬用の服(?)に戻ってしまう点からも、普通の服を着ているとは言えないだろう。


 そんな3人は、瞬きばかりを繰り返して返答しないマリアンヌとアステリアを前に、困ったように互いに顔を見合わせる。


「んー、やっぱり、元の姿を見せてしまうとダメです」

「驚いて固まってしまうの」

「挨拶するとダメ?」


 と、元の姿に戻っての挨拶がダメなのではないか、と3姉妹が考えていると、ワルツとの会話を切り上げてきたストレラが、困ったように自身の頬に手をあてながら近付いてくる。


「元の姿で挨拶をするのは重要なこと。むしろ、自分の姿に嘘を吐いちゃダメよ?いつか正体がバレたときに、大事になるんだから」


 その言葉に——、


「はいです!」

「はいなの!」

「はい?」


——と元気よく返答するアンジェリカ、ベチェット、キャティアのABC姉妹。マリアンヌたちの反応を見て、自分たちの行動が間違っているのではないかと不安になった彼女たちだったが、(あるじ)であるストレラの言葉を聞いて、沸き上がってきていた憂いを晴らせたようである。


 一方、憂いしか無かったのは、マリアンヌたちの方だ。彼女たちにとって、魔物とは、それ以上でもそれ以下でもない恐ろしい生き物。特にこの大陸においては、魔物は強いと言われており、魔物と争うなど、例え上級の冒険者であっても自殺行為だと言われていた。魔物の近くにいれば、取って喰われるだけ……。それがこの大陸の常識であり、仲良くしようと言われても、簡単に頷けるわけがなかったのだ。……少なくともマリアンヌにとっては。


 ただ、ストレラの言葉は、アステリアの心に刺さっていたようである。むしろ、心を抉っていたと言っても良いかも知れない。彼女の正体は、大狐の魔物。人の社会の中で、人に変身して暮らすという意味では、ABC姉妹と同じ立場であると言えたからだ。


 アステリアとABC姉妹とで大きく異なる点は、自分の正体を隠しているか、それとも否か、という点だ。正体を明かしているABC姉妹は、ある国の使者となり……。そして正体を明かしていないアステリアは、奴隷に身を落とすことになったのである。そこに直接の関連性が無いとしても、アステリアの中では、取り返しが付かないほどに大きな差のように感じられていて……。今まで自分を偽って生きてきた事を、彼女はこのとき、静かに後悔していたのである。


 まぁ、その隣にいる魔女(マリアンヌ)も、ある意味で自分の正体を偽って生きてきた存在だと言えなくなかったが、彼女の場合は、ケルベロスの姿を見てからというもの、驚きのあまり、頭が真っ白になっていて、人の話が頭に入ってくるような状態になっていなかったようだ。


「ほ、ほ、本物の、ケ、ケルベロス……」


 マリアンヌは余程、ABC姉妹の本当の姿に驚いてしまったらしい。腰を抜かして、その場にへたり込んでしまう程だった。


 そんなマリアンヌに、ポテンティアが手を差し出す。


『マリアンヌさん?大丈夫……いえ、大丈夫ではなさそうですね。……失礼します』


 ポテンティアはそう口にすると、へたり込むマリアンヌのことを、ヒョイと軽々と持ち上げた。体格的には、ポテンティアの方が小柄だが、機械である彼にとっては、マリアンヌを持ち上げる程度、造作も無い事だったらしい。


 マリアンヌも、ポテンティアに持ち上げられるのは吝かではなかったのか、最初こそ慌てていたものの、次第に落ち着きを取り戻して、恥ずかしそうに顔を伏せていたようである。どの辺りが恥ずかしかったのかは不明だが、最低でも2つ以上の理由で羞恥を感じていたようである。


 そんな2人の姿を見ていたストレラが、首を傾げて問いかける。


「ねぇ、ポテ。貴方、少し変わった?」


『僕が、ですか?』


「なんて言うか、貴方って、もっと機械的な性格をしているのかと思っていたのだけれど、マリアンヌさんのことを心配したり、持ち上げたり……。もしかして、マリアンヌさんに惚れた?」


 というストレラの指摘に、マリアンヌは尚更に顔を赤くするが、ポテンティアは冷静に返答する。


『さるお方から、沈黙は金なり、と学んでおりまして、その返答に明言することは出来かねます。しかし、レディーが困っているときに手を差し伸べるのは、紳士として当然の事だとも考えております』


「ふーん。でも、あれ?貴方の性別、男だったっけ?」


 ストレラのその問いかけに対してポテンティアは答えず……。ただ静かに、微笑みを浮かべたようだ。"沈黙は金なり"を有言実行するつもりらしい。


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