14.14-32 仕上げ32
次の日の朝。
「おはよう、姉さん。今日はよろしく頼むわね?」
「よろしくです!」
「おはようなの!」
「よろしく?おはよう?」
昨日、ストレラが宣言していた通り、学院の見学をするために、ストレラと3人のメイドたちがワルツ邸にやってきた。タイミングは、丁度、ワルツたちが家を出発するくらいのタイミングで、ワルツはてっきり、ストレラたちが来ないものだと思っていたようだ。
「あら、よくこの時間に出発するって分かったわね?昨日、伝えていなかったと思ったけれど……」
「コルテックスが教えてくれたわよ?何だかやたらと早く出発するって」
「なるほどね……。確かに、あの娘なら知っているか……」
と、ストレラの説明に頷いた後、ワルツは、ストレラが連れてきた3人のメイドたちへと目を向けた。
彼女たちは度々家にやって来るイブよりも少し小さいくらいの年齢で、イブと同じく犬の獣人のように見えていた。学院に通う年齢としては、年齢が低すぎるように見えていたが、今回の件を画策したストレラとしては、3人の見学、あるいは留学を真面目に考えていたようだ。
そんな3人の姿を見たワルツは、ハッと思い出す。
「あぁ!この子たちどこかで見たことがあると思ったら、ケルベロスの3姉妹ね?」
「あ、覚えてた?」
「ケルベロスのアンジェリカです!」
「同じくベチェットなの!」
「……キャティア?」
ケルベロスの3姉妹が一斉に名を口にする。
それを聞いたワルツは、もう一つ思い出したことがあったようだ。
「たしか、ABC姉妹とか呼ばれていたわよね……」
「……イニシャルがABCなだけの偶然よ?」
「……名付けるのが面倒で、最初は首ごとにABCって呼んでいたものを、あとで名付けたんじゃないの?」
というワルツの指摘を、ストレラはサラッと無視すると、3人のメイドたちの前にしゃがみ込んで、言い聞かせるようにこう言った。
「今朝も言ったけど、ここはメルクリオ王国じゃなくて、みんなの知らない異国よ?自分たちが国の代表だって自覚を持って、行動してね?」
こんな幼い子供たちに、国の代表という重責を背負わせる事などできるわけがない……。などと思うワルツだったものの——、
「はいです!」
「はいなの!」
「はい?」
——ABC姉妹からは、元気の良い返答が戻ってきた(?)。
「いや、別にそこまで気負う必要はないと思うのだけれど……」
「姉さんたちがフリーダム過ぎるのよ。それに、どんな事もそうだけど、一印象は大切よ?」
「そりゃそうかも知れないけれど——」
と、ワルツとストレラがやり取りをしている背後では、別のやり取りが展開されていた。特に、マリアンヌを中心として。
「……あの、ポテ様?」
『はい?何でしょう?マリアンヌ様』
「あの子たちの事なのですけれど……先ほど、ワルツ様が、"ケルベロス"と仰っておりませんでした?」
『えぇ、確かに仰っておりましたね。実は、彼女たちは、元々1体の魔物のケルベロスのなのです。それが人化すると、なぜか3人に分かれて、あのような姿になるらしいですよ?』
というポテンティアの説明を聞いて、マリアンヌはポカーンと口を開けたまま、ABC姉妹を見つめてしまう。彼女の頭の中にいるケルベロスという魔物は、獰猛で、危険で、残忍な魔物であり、人とコミュニケーションが取れるようなフレンドリーな魔物ではないはずだった。
ところが目の前にいる3人姉妹は、どこからどう見ても、聞き分けの良い犬の獣人。ゆえに、マリアンヌはこんなことを思ってしまう。
「もしかして、ポテ様の国にいるケルベロスと、この大陸に住むケルベロスとでは、違う種だったりするのではなくって?」
人とコミュニケーションが取れるばかりか、人語を話すケルベロスなど、この世界にいるわけがない……。頭の中にこびり付いた常識が、マリアンヌの思考を事実から遠ざけてしまいそうになるものの、彼女はもう一人の話を聞いて、認めざるを得なくなってしまう。
「……いえ、マリアンヌ様。あの子たちは間違い無くケルベロスです。3人から、まったく同じ……獣の臭いがします」
そう口にしたのはアステリアだ。正体が大狐の魔物ゆえに鼻が良い彼女には、ケルベロス姉妹が人に化けた魔物だという事を嗅ぎ分けていたらしい。自分と似たような存在だということも、少なからず影響しているのだろう。
結果、マリアンヌが「そ、そうですのね……」と事実を受け入れようとしていると、今度はABC姉妹の方から、マリアンヌたちの方へと近付いてきた。
そして——、
「お初にお目に掛かるです」
「お初にお目にかかるの」
「お初〜?」
ボフンッ
『3人揃って、ポチです』
『3人揃って、ポチなの』
『3人でポチ?』
——彼女たちは元の姿に戻って、マリアンヌたちに挨拶をしたのである。
キャティア(ポチC)の台詞を書くのが難しいのじゃ……。




