14.14-29 仕上げ29
テレサに言霊魔法の拘束を解いてもらい、自由に動けるようになった後、ストレラは呆れたように、ワルツへと問いかけた。
「ホント、姉さんって、テンポ姉さんと仲悪いわね?」
ストレラから見る限り、ワルツの判断は、見た目通りに幼稚で、苦言を口にするのを我慢出来なかったようである。
対するワルツは、すぐに自分の非を受け入れられなかったのか、あるいはどうしてもコンプレックスを振り切れなかったのか、ストレラの問いかけをそのまま無視する。
「……それで、今日は何をしに来たのかしら?顔を見に来ただけだっていうなら、今の私は、大変機嫌が悪いから、お引き取り願いたいのだけれど?」
やはり、相当、コンプレックスを気にしているらしい。今のワルツは、8歳児のイブと同等か、それ以下の幼女にしか見えないのである。中身は16歳なのに、見た目が8歳児以下という状況がどれだけのストレスを生んでいるのかは、彼女にしか分からない事だろう。
対するストレラとしては、単に姉に会って、普段放置されていることに対する文句を言いに来ただけだったこともあり、返答に苦慮したようである。下手な事を言えば、テンポと同じく転移魔法で強制送還されるからだ。
それと同時に、ストレラは後悔した。……最初に顔を合わせたとき、背丈のことを言わなければ良かった、と。なにしろ、背丈が低いことを気にしているのは、ストレラも一緒なのだから。
とはいえ、嘘を吐いてワルツの機嫌を取るつもりもなかったので、ストレラは素直に理由を口にした。
「最近、姉さんに会ってなかったから、顔を見に来ただけよ?それ以上でも、それ以下でも……あ、いえ、文句は言いたかったわね。少し私たちの事を放置しすぎなんじゃないか、って」
流石のワルツも、毒づくストレラには言い返す言葉が見つからなかったらしい。実際、彼女は、自分勝手が理由で、ストレラたちを放置していたのである。そこを突かれてしまえば、言い返すのは難しかった。
結果、ワルツは——、
「……まぁ、いいわ。何も無いところだけど、ゆっくりしていってちょうだい」
——ストレラのことを追い返すことなく、受け入れることにしたようだ。
そんなわけで、問題は、目の前にあった瓦礫の山へと戻ってくる。つい先ほどまで家だった"何か"だ。アステリアが、テンポとストレラのことを敵だと判断して、家ごと吹き飛ばした結果である。
この頃には、アステリアも、ストレラたちが敵ではなく、ワルツの親しい知人——どころか、姉妹のような存在だというのは理解していたようだ。ゆえに、テレサの拘束が解けたというのに、アステリアはその場に立ったまま、ガクガクと震えていたようである。今にも膝から崩れ落ちてしまいそうな程だ。自分の行動が大失態だった事に、彼女は気付いたのだ。
そしてワルツからチラリと視線を向けられて、アステリアは慌てて頭を下げた。
「も、申し訳ございません!!」
そのまま崩れ落ちてしまうアステリアを前に、ワルツは肩を竦めると、事前に考えていた言葉を口にした。
「まぁ、私たちの事を思って行動してくれたのは分かっているから今回は許すけど、次回からはもう少し、ちゃんと状況を見てから行動してね?あぁ、でも、私の容姿について文句を言う人がいれば、遠慮なく張り倒して良いわ?だけど、家は吹き飛ばしちゃダメよ?作り直すの、面倒臭いから」
とワルツは口にした後で、アステリアの返答を待つより先に、2人の人物へと声を掛けた。
「ルシアとポテンティア?元通りに頼むわ?」
「ん!分かった!」
『では、ルシアちゃんは家の構造そのものを修復してください。僕はそれ以外のものを直します』
声を掛けられたルシアとポテンティアは、すぐさま行動を開始する。しかし、2人はその場からまったく動かない。そのままの位置から家の修復を始めてしまう。
元々、ルシアの土魔法によって建てられていた家は、彼女が視線を向けるだけで、瓦礫からただの土塊に戻り……。ポテンティアが、内部にあった家具などの瓦礫を回収する。その後で、ルシアが再び、建築を始めた。
ドンッ!
「はい、終わり!」
この間、5秒。ルシアの仕事は、瞬き1回分の時間内で完了した。
そこから先はポテンティアの仕事だ。彼は粉砕したり、割れたり、壊れたりしてしまった家具を、マイクロマシンたちを使って、再生していく。修復できたものは、本来あるべき場所に戻して、そして修復できなかったものは廃棄し、新しく新造する。
それはまるで、生物の身体の働きを具現化したかのようだった。新陳代謝を人力で実現するようなものだ。
そして、数秒後、作業が終わりを迎えたとき——、
『ちょっ?!』
——ポテンティアが突然、驚いたような声を上げる。彼は何かトンデモないものが瓦礫の中に含まれていたことに気付いたらしい。
次の瞬間だ。
ズドォォォォン!!
せっかく組み上げた家が、再び爆発四散する。本来であれば、絶対にありえない事だ。ただ一つだけの例外——家の瓦礫の中に爆発物があった可能性を除いて。
その瞬間、皆の視線が、とある人物へと集中するのだが……。その人物が誰なのかは、敢えて言うまでもないだろう。
ただ、彼女は頭を抱えて——、
「じゃから、扱いには気を付けよと言ったのに……」げっそり
——と、嘆いていたようだ。




