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14.14-28 仕上げ28

「ふぅ、危なかったのじゃ。ギリギリセーフとはまさにあのことを言うのじゃ」シレッ


「いや、誰がどう見ても、ガッツリアウトだと思うわよ?」


 何食わぬ顔で爆発から戻ってきたテレサに対し、ワルツは思わずツッコミを入れた。しかし、テレサを見る限り、怪我らしい怪我はしておらず、ギリギリセーフというのも強ち嘘のようには見えなかった。まぁ、ワルツの言葉通り、テレサは紛れもなく爆心地にいて、爆発に巻き込まれていたどころか、彼女自身が爆発していたように見えていたので、実際にはギリギリセーフなどという言葉とはほど遠い状態にあったようだが。


 ただ、彼女のおかげか、直前まで広がっていた殺伐とした雰囲気は、大分柔らわいでいたようである。テレサが言霊魔法を使ってからというもの、テンポ、アステリア、それにストレラの3人は、ジッと同じ場所で立たされていたわけだが、テレサの身体を張ったギャグ(?)のおかげもあって、皆、段々と頭が冷えてきていたのだ。


 ちなみに、アステリアは元の姿で()()()()()ことになると、他の2人よりも厳しい体勢になるためか、いつの間にか獣人の姿に変わっていたようである。テレサの言霊魔法を受けたとは言え、人の姿に変身する程度には、自由度が残されていたらしい。


 そんなアステリアに、ワルツは何と声を掛けて良いのか分からず、悩んだようである。自宅を火魔法で吹き飛ばしたのは、彼女だからだ。理由は、テンポとストレラに、ワルツが虐められているように見えたからと言うのは既に分かっていて、ワルツとしては自分を守ろうとしてくれたアステリアに対して、感謝の言葉の一つでも掛けようかと考えていたほどだった。


 とはいえ、落ち着いて物事を見定めれば、テンポやストレラたちが敵対的な存在ではなく、単にくだらない罵り合い——あるいは、親しい者たち同士の挨拶をしているというのは分かる——、


「(いや……わかんないかも知れないわね……)」


——分かる()()知れなかったのである。ゆえに、ワルツとしては、アステリアに対し、もう少し落ち着いて物事を見定めるべきだと、忠告しようかと考えたようだ。


 それと同時に彼女は考える。今の自分の容姿をネタにイジられるというのは、かなり腹立たしいことだったのである。変にイジられたくなかったからこそ、ワルツはミッドエデンへと帰らず、ルシアと共にレストフェン大公国へとやってきたくらいなのだ。


 それらを総合的に考えて、3人に対し、何を言わなければならないのか……。ワルツは言葉を決めて、妹たち2人に対して言った。


「テンポ、ストレラ。謝罪して」


 ワルツの今の容姿を馬鹿にしたことをまずは謝罪すべき。そうでなければ、自分もアステリアも納得できず、アステリアを叱る理由を作る事も出来なかった。


 ゆえに、ワルツは謝罪を求めた訳だが——、


「拒否します」


——テンポからの返答は、迷いの無い即答の拒否。彼女は彼女で、ワルツのこれまでの所業について業を煮やしていたらしい。


 そんな彼女に何を言っても仕方ないと思ったのか、ワルツは少しだけ対応を悩んだ後で、対応を決断する。


「……テレサ。テンポの拘束を解いてもらえるかしら?」


「んあ?あぁ、うむ。テンポよ。もう動いて良いのじゃ」


 テレサがそう口にした直後のことだ。悲しげな表情を浮かべたワルツが、テンポに向かって手の平を向けて——、


「残念だわ、テンポ。さようなら」


   ブゥン……


——小型の魔法陣を使った転移魔法を行使したのである。結果、テンポの姿はその場から消えて、いなくなってしまった。なお、行き先はミッドエデンの王城代替施設。その屋上部だ。


 そんな姉たちの様子を見て、ストレラは驚いてしまう。


「姉さん、魔法が使えるようになったの?!しかも転移魔法……。っていうか、テンポ姉さんのこと、どうするのよ?」


 ストレラから見たテンポとワルツのやり取りは、明らかな断絶であり、絶交と言っても良いものだった。そう簡単に関係を戻せるようなものではない。


 元々、テンポとワルツの性格は、真逆を向いていると言えたが、今回のような決定的な断絶と言えるような出来事は無かった。それゆえに、ストレラの驚きは大きく、これから先どうするのだろうかという不安すら感じていたようだ。


 だが、ワルツは気にしていないらしい。


「貴女にも聞いているのよ?ストレラ。謝罪するのか、否か」


「……姉さん、それ、本気で言ってるの?いえ、本気だから、テンポ姉さんを転移させたのでしょうね……」


 容姿についてワルツがかなりのコンプレックスを持っている……。それを察したストレラは——、


「……ごめんなさい。もう、容姿の話には触れないようにするわ?」


——素直に謝罪することにしたようだ。ワルツの目が、本気で怒っているように見えたのだ。


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