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1.1-28 村22

「はぁ……てっきり私は、ワルツとルシアが禁断の――」


「狩人さんが、一体、何を考えてるのか、私は知りませんけど……そんなわけないじゃないですか」


「うん?」


狩人とワルツの会話の内容が理解できなかったのか、首を傾げるルシア。


そんな彼女は、狩人にもらった大きめのシャツを着て、冷たいミルクを飲んでいたようである。

なお、そのミルクも、狩人から貰ったものだったりする。


「あぁ、分かってたさ。最初からな!」キラッ


「……それ、絶対に分かってない人が浮かべるタイプの笑顔ですよね?」


と、狩人へとジト目を向けながら、頭を抱えるワルツ。


それから彼女は、話題を変えるようにして、狩人がここに来た理由を問いかけることにしたようだ。


「それで、こんな夜遅くにどうしたんですか?まさか、家の様子を見に来ただけ、ってことは無いですよね?」


「まぁ、半分は様子を見に来ただけだな。しっかし、あのボロ屋が随分な変わりようだな?さすがは、ワルツとルシアといったところか……」


「……どんな想像をされてるのかは知りませんけど、2人で頑張って、普通に壁板を張り替えただけですよ?ねぇ?ルシア」


「う、うん……(……普通に?)」


「そっか。また、風魔法とか、火魔法とか、良く分かんない高度な魔法を使って、森の木を切ったり、それを使って家を組み立てたり、家具を作ったりしたのかと思ってたよ……」


「「…………」」


「…………やっぱり、そうだったんだな?」


「「…………はい」」


詳しくは語らないものの、狩人の問いかけに対し首肯する2人。

自分たちの力を知っている狩人に対して、わざわざ作業の内容を隠す必要は無かったのだが、それでも彼女たち――特にワルツとしては、隠したかったようである。


そのせいか。

彼女は再び話題を変えるかのように、狩人に対し質問した。


「それで……ここに来たもう半分の理由って何ですか?」


「あぁ、それなんだが……実は……」


そう言って、狩人は一旦言葉を区切ると……。

どこか言い難そうな様子で、2人に対し、こう口にする。


「明日から町に出かけようと思うんだ。それで……2人も一緒に来ないかと思ってな?」


その言葉を聞いて――


「「…………!」」


と、同時に反応するワルツとルシア。

ついさっきまで話し合っていた話題が、狩人の口からも出てくるとは思っていなかったらしく、2人は思わず驚いてしまったようである。


それを見た狩人も、すぐに彼女たちが何を考えているのか、察したようだ。


「もしかして……ワルツたちも、町に行くつもりだったのか?」


「えぇ。ちょっとルシアの服を買いに(空を飛んで行こうかと……)」


「そうか。なら、もしもよければ、私と一緒に行かないか?」


「えっと?」


そう言って、ルシアに視線を向けるワルツ。


それに気づいたルシアは、ワルツが何を言わんとしていたのか感じ取ったようで……。

彼女は迷うこと無く、こう返答した。


「私は構わないよ?歩くの大好きだから」


「なら、私も異論はないわね。歩くの大好きだし」


「そっか。それは良かった。実は私も、歩くのが大好きなんだ」


そう言って、嬉しそうに笑みを向け合う3人。

こうして彼女たちは、翌日から、歩いて町へと向かうことになったのである。



そして狩人が自宅へと帰った後で。


「……ふかふかのお布団!」ぽふっ


ルシアは、ワルツが作ったばかりのベッドの上で、嬉しそうに転がっていたようだ。

なお、念のため断っておくが、布団本体は酒場の店主に譲り受けたものなので、新品、というわけではない。


そんな彼女の様子を、自身のベッドに腰掛けながら見ていたワルツは、苦笑を浮かべつつ質問した。


「なんか、嬉しそうね?」


「うん!明日からお姉ちゃんたちと町に行って、好きなお洋服が買えるって考えるだけで、すっごく幸せ?」


「そう。それは良かったわ?」


と、眼を細めながら、相槌を打つワルツ。


それからもしばらくの間、ルシアは幸せそうにゴロゴロと転がっていたのだが……。

しかし、彼女は急に止まると。

うつむけの状態で枕の上に顔を載せながら、眼を細めつつ、その口を開いた。


「……お父さんもお母さんも、みんな死んじゃったけど……でも、それは終わったことだから……いつまでもクヨクヨしてちゃダメだから……」


「……悲しいときは、思い切り泣いてもいいのよ?胸は……無いから貸せないけど、腕くらいなら貸してあげるから?」


「…………」


「……ん?ルシア?」


と、少々の自虐を込めて、場を和ませようとしたワルツだったが――


「…………zzz」


ルシアはそのまま、夢の世界へと旅立っていったようである。

今日は一日、朝から忙しかったので、疲労が今になって急に襲ってきたのだろう。


「……困ったものねぇ……」


寝息を立てながら、ぐっすりと眠っていたルシアの上に布団を掛けながら、そんな言葉を呟くワルツ。

ただ、その言葉は、乾いた服に着替えることなく眠ってしまったルシアに対して向けられたものではなく……。

何か、もっと大きな心配事を考えて、呟かれた言葉だったようだ。


こうして。

ワルツたちがいた部屋から明かりが消えて……。

彼女たちの忙しかった1日が、ようやく終わりを迎えたのであった。



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