14.14-27 仕上げ27
「……テレサ。邪魔です。そこを退きなさい」
テンポの殺意は本物だった。突然、見ず知らずの大狐に攻撃され上、妹のストレラを目の前で踏み潰されているのだ。たとえ、そこに、どんな理由があったとしても、説明を受けていない現状、怒りが収まらないのは当然の事だと言えた。
一応、説明自体は、ワルツが慌てて行おうとしていたようだが、長時間、妹や弟たちを放置してきた彼女の発言が受け入れられるはずも無く……。彼女の発言は、テンポの耳から耳へと、そのまま通り抜けていく。
ゆえに、テンポの事を止められる立場にいたのは、テンポとアステリアの間に割り込んだテレサだけだった。……が、彼女は彼女で、巻き込まれたことに納得がいっていなかったのか、普段通りゲッソリフェイスを浮かべながら、立ちすくんでいたようである。
とはいえ、何もしなければ、アステリアがテンポに殺害されてしまうと考えたのか、テレサは深く溜息を吐いて……。そして、テンポとアステリア、それに、アステリアの足の下にいたストレラに対して、こう言った。
「はいはい。お主ら、"妾が良いと言うまで、そこに立っておるのじゃ"」
テレサがそう口にすると、テンポ、アステリア、それにストレラの3人が、テレサから指示された場所へと大人しく向かう。テレサの言霊魔法の効果だ。完全に機械の身体で出来たワルツやポテンティアたちに効くことはないが、身体の半分が生体組織で出来たテンポとストレラには効果があったようである。100%生物であるアステリアについては、言わずもがなだ。
「んなっ……?!」
『か、身体が勝手に……?!』
「えっ……私、関係無いのに……」
「妾の家を吹き飛ばした罰なのじゃ。そもそも、其方らがワルツの事を馬鹿にしなければ、アステリア殿は怒っておらんかったはずなのじゃ。それとも何かの?反省せぬと言うのなら、妾たちへの敵意と判断して、二人ともここで解体しても良いのじゃが?」
微量の怒りを込めて、テレサはテンポとストレラを睨み付けた。それに対し、テンポは黙り込み、ストレラもムッとしながらも口を閉ざす。テレサが言っていることは正しい事であり、最初に喧嘩の引き金を引いたのはテンポたちであることを、2人共が認めたのだ。
結果、「やれやれ」と肩を竦めるテレサに対し、後ろから声が掛かる。
「でも、テレサちゃん、尻尾の魔力を全部使っちゃったんだから、これ以上、魔法、使えないよね?」
声の主はルシアだ。テレサが"バラす"と口にしていた事が気になったらしい。魔法が使えないというのに、どう"解体"するというのか……。
そもそもテレサは、破壊的な力を行使することは出来なかった。できるとすれば、ルシアに対し言霊魔法を使って、彼女を操って"解体"作業をさせることくらいだ。実際、彼女はそのつもりで、テンポたちに脅しを掛けたようである。
ルシアもそのことを何となく分かっていたからこそ、問いかけたらしい。ちなみに、ルシアとしては、テレサに協力するつもりは毛頭無い。
彼女がそんな事を考えていると、テレサは何やらニヤァと気持ちの悪い笑みを浮かべた。ルシアには隠している事があるらしい。
それからテレサは学生服のポケットの中に手を入れると——、
「ぬっ?!ひ、引っ掛かって出てこぬ……ぐ、ぐぬぬ……!」
——と、なにかを無理矢理引っ張り出そうとして——、
ブチィッ!!
「あっ…………あ゛あ゛っ!!」
——なぜか突然、奇声を上げた。そして、どういうわけか走り出す。完全に意味不明な行動だ。
そんなテレサの後ろ姿を見送りながら、ルシアが首を傾げていると、ワルツがポツリと呟いた。
「あー、あれはやっちゃったわね……」
「えっ?やっちゃった?」
「まぁ、とりあえず、耳を塞いでおいた方が良いわよ?」
と、ワルツが口にした直後だ、
ズドォォォォン!!
テレサが突然爆発したのである。
あまりに意味不明な状況に、皆が唖然としている中、ワルツはポツリと呟いた。
「予備の尻尾をポケットから取り出そうとして、毛か何かをボタンに引っかけたんでしょ。で、無理矢理引っ張った結果、暴発した、と」
そんなワルツの呟きを聞いた者たちは、立ち上がる白い煙を見上げながら、居たたまれそうな表情を浮かべていたようだ。特にルシアは、顔を青ざめさせていて……。
「抱き枕にしなくて良かった……」
そんな言葉を呟いていたようだ。




