14.14-24 仕上げ24
キュピィィィィンッ!!
「あら!核融合も簡単に出来るじゃない!まぁ、そりゃそっか……」
雲が吹き飛んだ空で、今度は眩い光が輝く。長時間直視すれば失明してしまうような光点が、突然空に現れたのだ。
ワルツが操る転移魔法陣により、空で核融合が生じたのである。それも、よく実験で行われるような重水素(D)と三重水素(T)の衝突による核融合(D−T反応)ではなく、超高圧の恒星の中央部で生じるような、重水素と重水素の結合による核融合(D-D反応)だ。
そんな恒星中央部のような超高圧環境が転移魔法陣で実現出来るのかというと、一般的には不可能である。が、転移魔法陣のある特性を生かせば、簡単に超高圧の環境が作り出せることにワルツは気付いたのだ。それも、無限大と言えるような超高圧環境を。
「"壁の中にいる"って、考え方によってはすごい事よね……物理学的に」
同じ座標上に水素を同時に転移させるだけで、水素は重なり合った状態——つまり、圧力無限大の状態にする事が出来るのである。まったく同じ座標上に、まったく同じタイミングで転移させなければならないという制約はあるが、機械であるワルツにとっては容易なことだったらしい。
ちなみに、光エネルギー以外の放射線や熱エネルギーなどは、転移魔法陣によって、宇宙空間へと放出されていたりする。なので、空から降り注いでいるのは、単純に光のみ。ゆえに、生態系に影響は無く、ルシアたちが被爆してしまうようなことも無かった。尤も、その"光"の近くを鳥や魔物が飛んでいたとすれば、眩しさのあまり、一瞬で蒸発してしまうはずだが。
「お、お姉ちゃん、あれ、何?!滅茶苦茶眩しいんだけど……」
「あぁ、ごめんごめん」
ワルツは転移魔法陣を止めた。魔法陣の数は6つ。空中に漂う水素のみを、一定のタイミングで同じ場所に転移させるために4つの魔法陣を使用し、残る2個の転移魔法陣を使い、放射線や熱エネルギーを宇宙に逃がしていたようだ。
そんな魔法陣を止めて、ワルツは説明する。
「中級魔法ってこんな感じかしら、って試していたところよ?転移魔法陣も、使い方によっては、すごく使い勝手が良いわね……。無限大の可能性を持っているって感じ?」
「えっ……あれ、転移魔法陣の魔法なの?!」
ルシアは驚愕した。というのも、ワルツが作り出した光源は、ルシアが誇る最強の光魔法"フレア"よりも遙かに眩く輝いていたからだ。それが転移魔法陣によって実現されているというのだから、理解出来なくて当然だった。
驚く妹に対し、ワルツは説明を続ける。
「一応、転移魔法陣を応用した転移魔法の効果よ?」
「……もしかして、太陽の一部を切り取って持ってきた、とか?」
「あぁ、良い線いってるけど、ちょっと違うわね。まぁ、頑張れば太陽を持ってくることも出来なくないかもしれないけれど、それをやったら、たぶん、この星が壊れちゃうからダメよ?やったら」
「う、うん……」
「さっきのあれは、強いて言えば、空で小さな太陽を作り出したのよ。人工太陽じゃなくて、本物の太陽を、ね」
「え゛っ」
ルシアは再び驚いた。今まで彼女は光魔法で人工的に太陽を作り出していたと思っていたというのに、それが違うと言われて、衝撃を受けたのだ。そして彼女は思った。……今、自分が使っている魔法は何なのだろうか、と。
他のメンバーも、ワルツの転移魔法陣の応用には、驚いていたようである。原理が理解出来たテレサなどは、本気で転移魔法陣を覚えようかと考えるほどだった。
その他、アステリアは、既に消えた第二の太陽をポカーンと見上げたまま固まっていて、何を考えているのかは分からない様子。マリアンヌも、魔力を一切感じさせることなく輝く光点を思い出して、不思議そうな表情を見せたまま考え込んでいたようだ。
そしてポテンティアは——、
『転移魔法陣がすごいのか、それとも単純にワルツ様がすごいだけなのか……』
——なにやらブツブツと呟きながら、転移魔法陣の可能性について思いを馳せていたようだ。




