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14.14-20 仕上げ20

 特別教室の学生たちに授業レベルの確認をした結果、ワルツたちが受けていた授業レベルに合わせると、誰も付いて来られないということが判明した。そのため、授業内容は、急遽、最も授業の進みが遅かった騎士科の学生たちの授業レベルに合わせることになる。


「では、もう少し詳しい授業レベルを知りたいので、簡単なテストをしようと思います」


「「「「え゛ーっ!!」」」」


「お黙りなさい!」ビシッ


「「「「…………」」」」


 抗議の声が上がったので、ハイスピアがピシリと声を張り上げると、皆、キレイに押し黙る。ハイスピアは、ワルツたちから見ると、どうにも頼りない教師に見えていたのだが、一般的な学生たちからすると、ワルツたちの印象とは真逆で、やり手の凄腕教師と思われていたのである。ワルツたちの学力や行動がおかしなレベルにある事も、ハイスピアが大きく関係していると考えられていたりする。……まぁ、実際の所は、敢えて言うまでもない事だが、ハイスピアはワルツたちに振り回されているだけだが。


 では、ハイスピアは無能な教師かというと、もちろんそんな事は無く、彼女はとある技術に長けていた。人の心の掌握能力だ。正体がエルフゆえに、人よりも多少長く生きている彼女は、人というものを、他の教師たちよりも理解していたのである。生まれてからようやく2桁の年齢に届いた学生など、彼女にとっては赤子も同然だ。


「数学が出来ない学生は、その辺の村や町で一生を終える子供たちと違いはありません!あなたたちは何のために学院に入ったのですか?何になりたいのですか?……それを忘れて駄々をこねるだけの子どもに戻るというのなら、即刻、この学院から立ち去りなさい!」


 と、ハイスピアは、文句を言った学生たちを叱責した。


 その姿に、ワルツたちは、珍しいものを見たと言わんばかりの表情を見せる。ハイスピアが怒ったところなど、学院に入ってから初めて見たからだ。


 そんなワルツたちに気付いたのか、ハイスピアもどこか恥ずかしそうな様子だった。彼女にとってワルツたち——特にワルツは、恩師的な存在なのである。恩師の前で生徒たちを叱るというのは、少々、恥ずかしいことだったらしく、ハイスピアの頬に、仄かに紅が差した。


 とはいえ、他の学生たちは、そんなハイスピアの背景など知る由は無く……。また、彼女の指摘通りだったので——、


「「「「す、すみませんでした……」」」」しゅん


——と、皆、一斉に頭を下げた。学級崩壊が騒がれる現代世界では、あり得ない光景だと言えるかも知れない。


 ちなみに、抗議の声を上げたのは、騎士科の学生たちである。一番、授業の進みが遅れているという自覚があったせいか、抗議の声が出てしまったらしい。


 そんな彼らにとって、本来、上下関係とは"絶対"に守らなければならなければならないはずのものだった。騎士——引いては軍人にとって、上下関係とは絶対だからだ。それを自ら破る事になってしまったせいか、皆、絶望したような表情を見せていたようである。


 反省を通り越して、自分たちの発言を悔いていた彼らに対し、ハイスピアは優しい言葉を掛けた。それも優しげな笑みを浮かべながら。


「誰しも、間違いはあります。しかし幸い、私たちは学ぶことの出来る生き物です。今後は自分がどんな人間になりたいのかを考え、言動を慎んで下さい。聡明なあなた方なら、必ず出来るものと信じています」


 ハイスピアは、抗議の声を上げた学生たちを許した。許された学生たちも、聖母のような微笑みを見せるハイスピアを前に、何やら感動した様子で、頭を下げていたようだ。


 なお、その場に居合わせていたはずのワルツたちは——、


「(新造する機動装甲のエネルギー源は、縮退炉だけじゃなく、魔導炉も入れた方が良さそうね……)」

「(結局、昨日はかわいいものが買えなかったなぁ……)」

「(また妾の尻尾がなくなっておったが……やはり原因はア嬢じゃろうな……)」

「(マスターワルツや皆様は、きっとまったく違うことをお考えになられているのでしょうね……)」

「(え、えっと……くくってなんですの?!)」

『(周辺地域の安定を考えると、そろそろ次の手を打たなければいけない時期ですね……)』


——と、それぞれ、すでにハイスピアの話は聞いおらず、違うことを考えていたようである。


 その中でもビクビクとしていたのは、マリアンヌだ。彼女は学院に入ってから、数学の授業はまだ1度も受けていないこともあり、ワルツによる強制学習の授業も受けておらず、また、エムリンザ帝国で第一皇女をしている間も好き勝手をやっていたために、学問らしい学問も身につけることはなく……。下手をすれば、足し算や引き算すら、まともに出来ない状態だった。学院の入学試験に、主要教科の試験が無かったことも、現状に至る原因の一つと言えるかもしれない。


 ゆえに、マリアンヌは人知れず焦った。この際、臭気魔法を使って、テストを無きものにしてしまおうかとさえ考えた。


 しかし、その直前、まるで彼女の懸念を察したかのような声が、ハイスピアから告げられた。


「では、ワルツさん方の学力はおおよそ把握していますので、それ以外の方々に何点か質問しますね?」


 その瞬間、マリアンヌは心の中で歓喜した。そして、ワルツに対して、この瞬間ほど、感謝したことは無かったとか……。

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