6中-02 雨の町並み-前編2
ユキの一人称(ry
イブと別れた後。
一行はプロティー・ビクセンのメインストリートにあるアップルパイ屋へと来ていた。
「こ、ここも・・・」
竈から出火したのか、真っ黒になってしまっていたアップルパイ屋を前に、ガックリ、と項垂れるユキ。
どうやら彼女は、余程、炎に縁が無いらしい・・・。
いや、一周回って、縁がありすぎるとも言えるだろうか。
「表側のビクセンじゃ難しいんじゃない?例え店舗が無傷だったとしても、直ぐに営業できそうな店とか少ないと思うんだけど・・・」
建物だけでなく、デコボコに変形してしまった路面にも眼をやりながら、そう口にするワルツ。
このままでは荷馬車が走れないので、例え無事な店舗があったとしても材料などの品物が入荷しないために、開店できないことだろう。
そんな彼女の言葉に、
「はぁ・・・そうですよね・・・」
溜息を吐いた後、視線を上げてから、ユキはビクセンの町並みを見渡した。
「・・・」
何も言わずに、赤い傘をくるくると回しながら、破壊されてしまった自分の街をじっと見つめるユキ。
数カ月前に自分が町を出た時と比べて、見る影も無くなってしまったその姿に、果たして彼女は一体何を思うのだろうか・・・。
そんな様子のユキに、何と声を掛けていいのか悩んだワルツは話題を変えることにした。
「・・・街は壊されちゃったけど、人々に活気に溢れているっていうのは凄いことよね。普段通りに、とはいかないかもしれないけど市はちゃんと機能してるし、雨なのに建材を頑張って運んでいる人もたくさんいるみたいだし・・・」
そう、この町は今、急ピッチで再建中なのである。
「はい・・・。確かに、この町は壊されてしまいましたが、デフテリーの方は健在ですから。それに、一般市民に大きな被害が出たわけでもありませんしね」
どこか遠い場所に視線を向けていたユキは、傘を回しながらワルツの方を振り向くと、苦笑を浮かべながらそう口にした。
「じゃぁ、一通りこの町を見て回ったら、デフテリーの方も紹介してくれるかしら?」
「えぇ。もちろんです」
そしてユキは、再びワルツたちの先頭を切って、歩き出したのである。
その後、ユキが紹介して回りたかった火関連の施設・・・ではなく、町の有名スポットが軒並み壊れていることを確認した後、ワルツは徐ろに口を開いた。
「・・・後の用事って言ったら、カタリナのところかしらね?」
この様子だと、観光どころではないので、とりあえずこの街での用事を済ませて、早々にデフテリー・ビクセンの観光に移ること決めたワルツ。
「さーて、カタリナ家はどこにあるのかしらね〜?」
・・・なお、カタリナと言う名前は、姓ではないことを一応記しておく。
『カタリナー?生きてるー?』
無線通信システムを使い、カタリナに呼びかけるワルツ。
すると間もなく、
『死んでます、と言ったらどうするつもりでした?』
カタリナからの返事が帰ってきた。
『それはもちろん、やっぱりー、って答えるしか無いと思うんだけど?』
『では、今度からもう少し返答に困る回答を考えておきます』
『期待してるわ・・・』
『それで、何かあったのですか?』
『いやね?ビクセンが・・・えーと、何でもないわ・・・』
途中で話を有耶無耶にするワルツ。
ビクセンが酷いことになっている、と答えてカタリナに要らぬ不安を抱かせても仕方ない、と考えたようである。
『・・・ビクセンがどうかしたんですか?』
これは何かありましたね・・・、と疑いの色を込めながら、問いかけてくるカタリナ。
『・・・いえ、何てことはないんだけど、どうせだし、カタリナの実家に立ち寄ってみようかなって思って・・・』
『私の実家・・・ですか?』
どうやらワルツは、カタリナの追求を上手く撒いたようである・・・。
『えぇ。ビクセンの王城近くにあるって言ってたでしょ?』
『はい。・・・そうですか・・・私の実家に行くのですか・・・』
そうつぶやきながら、何やら考え込んでいる様子のカタリナ。
『・・・?もしかして、あまり行ってほしくなかった?』
『いえ、そういうわけではないのですが・・・分かりました。では説明しますね』
そんな無線機からのカタリナの声に、ワルツだけでなく、ルシアもユリアもシルビアも聞き逃すまいと耳を傾ける。
・・・そして、ユキも、何やら人の声の聞こえてくる小さな箱に対して、興味深げに耳を欹てた。
そして、カタリナが言った言葉は・・・
『王城の次に高い建物です』
『えっ・・・?』
非常に短いものだった。
『いや、ですから、王城の次に高い建物が私の実家です』
『えっ・・・?』
てっきり、『正門から入って6ブロック進んだ後に左に3ブロック行って右に9ブロック歩いた後・・・』のように、迷路を進むかのような説明を予想していたためか、直ぐに理解できない様子の仲間たち。
『・・・わざと分からないふりをしてません?』
『いえ・・・むしろ、驚いているのよ・・・』
そう言いながら、メインストリートを王城の方に向かって振り向くワルツ。
すると、そこには、今や崩れてしまった王城よりも高くそびえ立つ、古風な建物・・・所謂、教会がそびえ立っていた・・・。
どうやら、巨大生物からの影響を運良く受けなかったらしい。
むしろ、王城よりも遥かにしっかりした作りになっていた、という可能性も否定出来ないが。
『貴女の家って、教会だったのね・・・』
『・・・はい。ですから、勇者様のパーティーでは僧侶をやっていたんですよ』
『そういうことね・・・』
同時に、カタリナがどうして、実家についてあまり説明したくなかったのかを悟るワルツ。
(・・・孤児?それとも司教の娘・・・?)
どちらにしても、あまり人に話すべきことではないことは無いだろう。
故にワルツは、カタリナが自分から話そうとするまで、聞かないことにした。
『良かったわね。貴方の家、無事みた・・・いえ、何でもないわ』
『・・・やっぱり何かあったんですね?テンポに言伝を頼んだはずでしたが聞いていま・・・』
ザザザザ・・・
「あれ?おかしいわね?電波の状況が悪いみたい」
・・・なお、その原因についてはお察しの通りである。
「全く・・・私たちはむしろ救った側なのに、逆に疑うなんて失礼な・・・」
「お姉ちゃん・・・多分、日頃の行いだと思う・・・」
「・・・うん。分かってる・・・」
そしてワルツと共に、沈み込むルシア。
一方、ユキは、彼女たちのやり取りを聞いて、キラキラした表情を浮かべていた。
「そんな小さな箱の中に人が入っているんですか?!」
と仲間たちが持っていた無線機に対して、穴が開きそうなほどに熱烈な視線を向けるユキ。
「何その呪い・・・。えーと、これは無線機。文明の利器ってやつね。離れた場所にいる人と会話できるガジェットで、ミッドエデンの女の子の間で今流行ってるのよ?」
そんなワルツの言葉と共に、ポーズを決めながら、無線機を見せびらかすルシアとユリアとシルビア。
なお、実際に流行っているのは、仲間内だけである。
「・・・ボクもほし・・・我慢します・・・」
一瞬、自分も欲しいと言いかけたユキだったが、どこか苦しそうな表情を浮かべた後で、そう言った。
『えっ・・・』
すると、どこか自慢気に無線機をユキに見せつけていたユリアとシルビアが、彼女の予想外の発言に驚きの表情を見せた後、何やら小声で相談を始める。
「(・・・これが、水竜師匠の言ってた『煩悩』ってやつかなぁ、後輩ちゃん?)」
「(恐らく。・・・もしかするとあれが『できる女の余裕』かもしれませんよ?)」
そんなやり取りをしながらチラッ、チラッとユキに視線を向ける2人。
「あー、ユキ?気にしないで。いつもこんな感じだから・・・」
「そ、そうですか・・・なんか迷惑をかけてすみません・・・」
そう言いながら、ワルツに頭を下げるユキ。
なお、波風を立ててすみません、という意味ではないようである。
どうやら、元監督者としての責任を感じているらしい。
恐らく、今夜辺り、ユリアに対して魔王からの呼び出しが掛かるのではないだろうか・・・。
・・・というわけで。
「ま、カタリナの実家には顔を出さなくても良さそうね」
「いいの?」
「えぇ。今度、カタリナたちと一緒に来た時に、ゆっくりと立ち寄ればいいかなーって」
「・・・そうだね。今度は皆で一緒に来たいね」
今から、ミッドエデンに残っている仲間たちと共にビクセンへとやって来る事を楽しみにしている様子のルシア。
ワルツは、彼女とそんなやり取りをした後、改めてユキに視線を向けて言った。
「それじゃぁ、そろそろデフテリーの方も案内してくれるかしら?」
「はい。もちろんです!」
そしてユキは、嬉しそうに再びワルツの手を握って、彼女のことをリードし始めたのである・・・。
ユキの手の温度についても書こうと思ったのじゃが・・・書くタイミングを失ったのじゃ。




