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14.14-16 仕上げ16

 その後、ミレニアだけでなく、他の魔法科の学生たちや、薬学科の学生たち、あるいは——、


「「「ぜぇはぁ……」」」


——公都までの木材の輸送を行ったせいで既に満身創痍になっていた騎士科の学生たちによって、ワルツの排気装置もとい転移魔法陣が起動されていく。


 減圧室からの排気は順調だ。元々、起動に大量の魔力が必要とされる転移魔法陣だったが、たかだか数十センチメートルの距離を、空気という極めて軽い物質を転移させるだけの用途に使うためなら、殆ど魔力は必要とせず、誰でも簡単に転移魔法陣を起動できたのである。満身創痍だった騎士科の学生たちですら動かせるほどの低燃費ぶりだ。


「(これ、電動式の真空ポンプより効率が良いんじゃないかしら?ん?でも……あれ?ちょっと待ってよ?)」


 減圧室に取り付けられた簡易的な圧力計がグングンと下がっていく様子を見ながら、ワルツはふと何かを考える。それからというもの、彼女は、険しい表情を浮かべながら、深く考え込み始めてしまった。


 一方、ミレニアたちは、言われるがままに魔力を注ぎ込んでいたためか、本当に木材を乾燥させられるか分からず、困惑していたようである。しかも、完全な乾燥までは最低2日は掛かるというのだ。一般的な木材の乾燥時間が数年単位であることを考えるなら、"超"が付くほどに高速ではあったが、実際に乾燥した木材を見たことが無かったミレニアたちにとっては、半信半疑のこと。それでも魔力の充填作業が滞りなく続けられたのは、作業自体が極単純で、ただひたすらに魔石に魔力を注入するという内容だったためか。


 その内に昼がやってくる。木材の伐採・加工の授業(?)は午前中までのことなので、今日はその場でお開きとなった。明日は"駅"に減圧室を増やし、並列的に木材を乾燥させるという作業を行う予定である。そうしなければ、学院長に指定された期間内に、伐採から売却までを終えられないからだ。まぁ、マグネアが指示をしたのは、伐採までの話であって、売却までしろとは言っていないのだが。


 まぁ、それはさておき。結局、ワルツが授業(?)と途中で黙り込んでしまったので、授業を締めたのはポテンティアだった。しかしそれでも、ワルツはずっと何かを考え込んだままの様子。彼女は眉間に皺を寄せながら、地面に象形文字、あるいは迷路のようなものを書き込んでいたのである。それも、かなり複雑奇っ怪で、人の手では再現不可能なほどに緻密なものだ。


 無言で地面に文字を書くワルツの事が心配になったのか、ルシアが問いかけるものの——、


「お姉ちゃん……?授業終わったよ?」


——やはりワルツからの反応は無い。


 すると、今度はテレサが問いかけるが——、


「ワルツ?何を考え込んでおるのじゃ?」


——しかしワルツは眉一つ動かさなかった。


『ワルツ様?食事の時間が遅れますと、皆が困りますよ?』


 ポテンティアが話しかけるも、やはり反応は無く……。


「……マスターはもしや、具合が悪いのでは?」

「どうかしら?何か重要な事を考えているようにも見えますし、いじけているようにも見えますわね……」


 アステリアとマリアンヌの発言にも反応しなかった。


 仕方がないので、一行は、その場で食事を摂ることにしたようだ。クラスメイトたちは、食堂に行ってしまったが、ワルツたちは弁当を持参していたので、その場で食べることが出来るからだ。


 地上から数百メートルの地下で弁当を食べるための風呂敷を広げて、そこに皆で陣取り……。そしてルシアが、大好きな稲荷寿司を火魔法で温めて食べようとした——そんなときの事だ。


「あ゛あ゛っ?!」


 ワルツが突然、奇声を上げたのだ。


『「「「?!」」」』びくぅ

「はむっ……おいし!」しれっ


 その突然の叫びのような声に、約1名を除いて皆が一斉に反応する。ワルツの身にいったい何が起こったというのか、皆が心配したのだ。もしもこの場に、彼女の妹であるテンポがいたなら「あぁ、遂に壊れたのですね」などと口にしていたに違いない。


 しかし、どうやら、そういうわけではなかったようだ。


「分かったわ!そういうことなのね!」


「何が?」もきゅもきゅ


 おかしくなった姉(?)を前にしても、気にせず寿司を咀嚼していたルシアが問いかける。


 するとワルツは何を思ったのか、魔法陣用のインクを空中に浮かべて、空中に転移魔法陣を描きながらこう言った。


「私、気付いちゃったのよ。ぶっちゃけさ……転移魔法陣さえあれば、すべての魔法が再現できるんじゃないか、って」


『「「「「……はい?」」」」』


「さすがに、回復系の魔法と精神制御系の魔法は無理だけど、火魔法、氷魔法、水魔法、土魔法、雷魔法、風魔法、光魔法、闇魔法なら、再現できると思うのよ」


 ワルツはそう言いながら、空中に浮かべた転移魔法陣に、青いクリスタル——ルシア製のアーティファクトを埋め込んだ。


 その直後——、


   ドゴォォォォッ!!


——という轟音を上げながら、転移魔法陣の中央部から炎が吹き出てきた。どうやらワルツは、転移魔法陣の特性を操作することで、各種魔法を再現する方法を思い付いたようだ。


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