6中-01 雨の町並み-前編1
翌日の朝。
避難場所であるデフテリー・ビクセンから、被災した街であるプロティー・ビクセンの魔王城(跡地)へと転移魔法陣を使ってワルツ達は戻ってきた。
今日の天候は雨。
気温は12度。
ミッドエデンからすると随分寒いようだが、高緯度にある町としては、暖かい部類に入るのかもしれない。
そんな散歩をするには、少々厳しい天気の中でも、
「〜〜♪」
魔王シリウス(ユキ)は、上機嫌で傘を回しながらステップを踏んでいた。
テレサと同様、王城での執務が退屈で仕方がないタイプの人間だろうか。
・・・一方、ユキとは違い、仲間たちの様子は芳しくない。
例えばルシアは
「ねぇ、お姉ちゃん?なんか、ユキちゃん、いつもより身長高くない?」
「すこし寒いからじゃない?彼女、暖かいと身長縮むから、今日はその逆ってことだと思うけど・・・」
「ふーん・・・」
いつもは自分よりも身長が低いユキが、今日は一回りほど高かったことに、どこか煮え切らない表情を浮かべていた。
対して、ユリアとシルビアは
「・・・ずーん」
「・・・ずーん」
ワルツと一緒になって食事のマナーを学んでいたために早朝まで起きていたらしく、目の下の隈を作って、眠い顔をしていた。
その上、朝食は部屋での食事だったので、せっかく身につけたマナーを披露できる機会がなかったためか、大いに凹んでいたようである。
昨日までの話では、朝食は政府要人たちとのミーティングを兼ねたものになるはずだったのだが、忙しいユキ(の妹達)のスケジュールが合わなかったらしく、急遽変更となってしまったのである。
・・・まさかユキ(魔王)が、食事会があると勘違いしていた、などということはないだろう・・・。
なお、食事のマナーの勉強会にはルシアも付き合っていたはずだが、彼女に寝不足の兆候が見られないのは・・・途中で布団からの猛攻を受け、あえなく撃沈・・・要するに、早々に眠ってしまっていたからだったりする。
ワルツについては、言わずもがなだ。
さて、ここにはもう一人、冴えない表情の臨時メンバーがいた。
・・・イブである。
彼女も、
「・・・はぁ・・・」
深い溜息を吐きながら、誰よりも残念そうな表情を浮かべ、ワルツ達に付いて歩いていた。
一体どうして、彼女はそんな重い表情を浮かべていたのか。
・・・もちろん、ワルツによってイジメられてショックを受けていた・・・わけではない。
「帰りたくない・・・」
・・・むしろ、ワルツにいじめられていたほうが良かった、といった様子だろうか。
単に、彼女たちと一緒にいることが楽しくて家に帰りたくない、といったようにも見えるが・・・どうやら話はそう簡単でもないらしい。
ところで。
一行は一体、どこを目指して移動していたのか。
・・・今のイブの様子を見ればはっきりと分かる通り、彼女の家(?)である。
正しくは、出会った場所、というべきか。
昨日はやむを得ない理由があったためにワルツ達が彼女のことを保護していたわけだが、彼女の両親のことを考えるなら、いつまでも愛娘を預かっておくというわけにはいかなかったのである。
・・・ただ、現状での問題は、彼女の家がどこにあって、誰が両親なのかが分からないことだろうか・・・。
まぁ、それを探すついでに、ビクセン観光をしようという流れで歩いているわけだが。
「あっ!ここの料理、すっごく美味しいんですよ?」
と、赤い看板にドラゴン、と言った様子の、いかにも中華料理を扱っていそうな店(廃墟)を見て、指をさしながら紹介をするユキ。
・・・だが、彼女の嬉しそうな表情とは裏腹に、瞳に輝きが無いのは気のせいだろうか。
ワルツ達が適当に相槌を打って、更に歩みを進めていくと、
「ここの武器屋は、ビクセン一って評判です。歴代の魔王討伐には、この店の武器が使われているようですよ?」
と、壁が崩れて炉が露出している武器屋(全壊)を紹介する魔王。
どうみても、無理に口元を引っ張って、どうにか笑みを維持しているようにしか見えないのだが・・・。
その後も、火魔法ばかりを扱っている魔具店(半壊)や、綺羅びやかな陶器やガラス細工を飾っている店(中がぐちゃぐちゃ)、それに古めかしい本屋(火事で半焼)を説明していくユキ・・・。
「ちょっ・・・待ってユキ。貴女さっきから、火に関する場所しか説明してないわよ?!」
「えっ・・・?」
死んだ魚のような眼をしながら、ユキが行う町並みの紹介に、ワルツはツッコミという形で終止符を打った。
どうやらユキは、町の中から熱いものや炎が失われていくことに、悲しみを覚えている(?)らしい。
実のところ彼女は、氷魔法よりも火魔法のほうが強かったりするのではないだろうか・・・。
「というか、何でそんな店ばっかり詳し・・・いえ、何でもないわ・・・」
恐らく普段から皇帝職(?)を抜けだして、町中の熱そうな店を回っていたのだろう彼女の姿を想像するワルツ。
・・・それからしばらくして、ユキが思い出したかのように大粒の涙を流し始めたのを見届けてから、ワルツは隣で俯いているイブに声を掛けた。
「・・・それでどうなの?自分の家がどこにあるか分かった?」
「・・・ううん」
「そう・・・」
碌に辺りの景色に眼を向けることもなく、否定するイブ。
「んー、困ったわね・・・」
「あの、ワルツ様?もう少し一緒にいちゃダメ?」
「うん、ダメ」
「どうして?」
「どうしても」
「はぁ・・・」
そんな堂々巡りを何度か繰り返すワルツとイブ。
しばらくすると一行は、最初にワルツ達が降り立った場所・・・即ち、彼女たちがイブと出会った場所へと差し掛かった。
「ワルツ様?もしかして、ガイドは要らなかったりしますか・・・?」
再び、光のない眼を見せつつ、ユキが口を開く。
「いや、そんなことはないわよ?今までに行ったことのある場所を忘れないってだけで、一度も行ったことのない場所まで知ってるわけではないんだから」
「そうですか・・・」
そう言いながら安堵の表情を見せるユキ。
そんな彼女に対して、
「・・・?」
「・・・?」
・・・約2名が、何やら難しい表情を浮かべ始める。
何らかの匂いを嗅ぎ取った・・・と言っても過言ではないだろう。
まぁ、それについては後ほど語るとして。
「ねぇ、ワルツ様・・・?」
「ダメよ?」
「まだ何も言ってないのに・・・」
もう何度目になるか分からない同じやり取りをワルツが省略した所で、イブがいよいよ泣きそうな顔になる。
「どうしても?!」
「えぇ、どうしても」
「・・・」
何度言っても同じ答えしか返さないワルツに、いよいよシビレを切らしたのか、
「もう、いいもん!ワルツ様のばーーーか!!」
そんな声を上げて、イブは人々の雑踏の中へと走っていった。
「うん・・・獣が野に帰ったわね・・・」
恐らく、最初から自分の家の位置を知っていただろうイブの背中を見送るワルツ。
「お姉ちゃん、ちょっと酷かったんじゃない?」
ルシアから見ても、ワルツのイブに対する仕打ちはあまりに酷く見えたらしく、彼女は頬を膨らませながら、ワルツに抗議した。
そんなルシアに対して、ワルツは何故イブに対して冷たく接していたかを口にし始める。
「仕方ないのよ・・・。彼女は普通の少女なんだから」
予想した言葉とは違う言葉が飛んできたのか、ルシアは直ぐにハッとして、表情を変えた。
「・・・もしかして、イブちゃんのことを思ったからなの?」
「そうね・・・私たちと彼女は生きている世界があまりに違うからね・・・。何より、誰かに命を狙われてるわけじゃないから、このまま静かに暮らしていたほうが、彼女にとっては安全だしね・・・」
「・・・」
そんなワルツの言葉に、なんと言い返していいのか分からない様子のルシア。
そう、ワルツの仲間たちは、皆、神や天使たちに命を狙われているか、狙われてもおかしくない者達しかいないのである。
「残念だけど・・・」
そう呟いてから、恨めしそうに空を見上げるワルツ。
そこには暗雲と、重力制御によって弾かれている雨しか見えなかったが・・・彼女の視線は、恐らくその向こう側へと向けられていることだろう。
「・・・お友達になりたかったなぁ・・・」
「・・・ごめんね」
「・・・ううん・・・しかたないもん」
そう言って、ギュッとワルツの手を握るルシア。
そんな2人のやり取りに、どこか優しげな視線を向けていたユキが、漂っていた空気を壊すようにして、ワルツの反対側の手を引っ張って言った。
「・・・こういう時は、何か甘いモノを食べればいいって姉が言ってました。なので、これから美味しい熱々アップルパイが売っているお店を紹介しますね」
「そう、すまないわね。気を使わせてしまって・・・っていうか、貴女、長女なかったの?!」
「さっ、行きましょう!ワルツ様!」
そしてユキに引っ張られていくワルツ・・・とルシア。
そんなユキの様子を見て、
「・・・あぁ・・・これは・・・どうしようかしら、後輩ちゃん・・・」
「・・・先輩。新入りには洗礼の義が必要になるらしいですよ・・・?」
ユリアとシルビアは確信した。
・・・ユキが、自分たちのライバルになるということを・・・。
んあー!!
プランA-Eのどれを選ぶか悩んだのじゃが、結局Fで行くことにしたのじゃ!
じゃが・・・少々時間がかかるかも知れぬのう・・・。
恐らく、中編は全部この話で埋まることになるじゃろうな・・・。




