14.14-07 仕上げ7
空の彼方から眩い光の柱が降ってくる。その光景は、レストフェン大公国のみならず、遠く離れたミッドエデンどころか、太陽が出ている真っ昼間の地域でも見ることが出来るくらいに眩しいものだった。
ゆえに、ルシアの光柱を見た人々の数は、惑星で暮らす人々の、およそ2割ほどに上り……。後に広がる噂を含めれば、惑星アニアのほぼすべての人々が、レストフェン大公国という国に光の柱が落ちたという話を知ることになった。
それを知った人々、あるいは直接光柱を見た人々は、いったいどんなことを考えたのか。
敬虔な宗教関係者は、神の裁きだと思ったようである。真っ白な魔法は、神の魔法の象徴として受け取られることが多かったからだ。レストフェン大公国近くの国々にいる神官たちは、レストフェン大公国が何か神の意向に背くようなことでもしたのではないかと勘ぐっていたに違いない。
あるいは、経験豊富な冒険者たちは、強い魔物が現れたと考えたようである。彼らが見た光柱は、最早、人が扱えるような規模の魔法ではなく、ドラゴンやニク(小鳥の魔物)などの強力な魔物の中から、魔力特異体が生じ、爆発的な魔法を使えるようになったのだと想像したのだ。ゆえに、隣国の冒険者ギルドなどでは、レストフェン大公国が魔物の攻撃によって、一瞬で灰燼に帰した、などと想像して、騒ぎになったようである。救援隊や調査隊を派遣するかどうかの話にすら発展したようだ。
その他、純粋無垢な子供たちは、空から墜ちてきた光の柱を見て、喜んでいたようである。空から落ちてきた魔法の光は、素直な心で見れば、キラキラと輝くイルミネーションのようで、とても美しかったのだ。いつかは自分たちもあのような魔法を使ってみたい……。慌てる大人たちを余所に、子どもたちは光柱に対して、憧れを抱いていたようだ。
そして、もう1グループ。
「あ〜、あれは、相当荒ぶってますね〜」
「八つ当たりか?誰かに寿司でも横取りされたんだろう」
「いえ。もしもそのようなことがあれば、戦争の始まりを告げる連絡がルシアちゃん本人から飛んでくるはずなので、多分、また、何かをお作りになられているのだと思います」
「怪我人を出さなければ、それで良いです」
「……皆、淡泊かもだし」
レストフェン大公国から遠く、海の向こうにあった国では、そんなやり取りをする者たちばかりがいて……。またいつものことだと、呆れ返っていたとか、いなかったとか。
まぁ、それはさておき。
ルシアの魔法は、その目的通りに、地面に深く大きな穴を穿っていた。直径100mを越える大穴だ。土魔法を使えば一瞬で開けられる程度の穴だが、敢えて光魔法を使うことによって外周部を融解させ、高強度の縦穴を造り上げていたようである。彼女がトンネルを掘ったときと同じ工法(?)だ。
その際、蒸発・爆散した大量の土砂は、ルシアとワルツの重力操作によって、緻密にコントロールされ、宇宙空間へと吹き飛ばされていたようである。ゆえに、公都周辺に土砂が飛び散ることは無く、人々に影響が及ぶことは無かったようだ。
公都の人々に影響が出たことを挙げると、大きな物としては2点。1つ目は、ルシアの光魔法があまりに眩しかったために、一時的に視力を失う者たちがいたことだ。とはいえ、元々、魔法が発動する前に、命の危険を感じて屋内に逃げ込んだ者たちが多かったこともあり、光魔法を直視した者たちはそれほど多くなく……。放っておけば治る程度の、一時的な視力障害だったようである。
もう1つの影響の方も、大きな問題にはならなかった。空から光魔法が降り注いだ際、気温が急激に上昇して、公都でも一時的に35度を越えたのである。
公都の外の話をすれば、局地的に10万度を大きく超えていた。幸い、風向きが良く、公都に熱風が流れることはなかったものの、風下の草原では、あまりの熱気に草木が自然発火するほどで、一歩間違えれば死人が出てもおかしくないほどだった。
ただし、実際には、死人も怪我人も出ていない。ルシアたちは、魔法を使う前に、風下には絶対に近付かないようにと、クラスメイトたちに指示を出していた上、皆で周囲を監視し、魔法に巻き込まれる者がいないことを確認した上で魔法を行使したからだ。
そして最後。光柱が落ちてきたその場所にいたワルツとルシアだが、彼女たちの身には何ら影響は無かった。ワルツは機動装甲を脱ぎ捨てた幼女の姿でも、異常な強度を持ち……。そしてルシアについても、防御面でフルエンチャントされたバングルやアクセサリー、特別なコートなどを着込んでいたので、10万度程度の気温に曝されても、ビクともしなかったのである。
「ちょっと熱いかなぁ……。まぁ、我慢出来ないほどではないけどね?」
「あ、うん……。そう……ね(これでちょっとなんだ……。ルシアが紙防御とか言った人、誰よ?)」
超高温の大気の中、ワルツとルシアは普段通りに会話を交わした。その様子はまさしく化け物。まぁ、それも、エンチャントや超科学による賜ではあったが。
ちなみにリアル化け物は別にいて——、
「ただ穴を掘れば良いだけだというのに、荒野を作ってどうするのじゃ……」ジュゥ……
——立ち入り禁止のはずのエリアの中で、ただ一人、何も知らずに取り残され、普段通りにゲッソリフェイスを浮かべながら悪態を吐いていた者がいたとか……。
かつてArchangeの中には地に堕ちた者がおったとか。
その名をLu……いや、なんでもないのじゃ。
まぁ、ただの与太話なのじゃ。




