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14.14-06 仕上げ6

 公都にいた人々は、兵士たちも含めて、町から一歩も出ずに、学生たちの活動を眺めていた。正門の影や、半壊していた市壁の影、あるいは高い建物の屋根に登って、遠巻きに学生たちを観察していたのである。


 それほどまでに、公都民から見た学生たちは、異様な行動をしていたらしい。先日のワルツたちによる処刑騒ぎ(?)も、大きな騒ぎになったが、それすら些細と言えるような出来事が、公都の外で繰り広げられていたのだ。


 学生たち——もといワルツたちが、公都の外で何をしていたのかというと——、


「付近に歩行者なし!」

「こっちもOKだ!」

「こちらも大丈夫よ!」


「じゃぁ、今ね!」


「おっけー」


   ドゴォォォォンッ!!


——と、強力な魔法を使って、地面を穿っていたのである。魔法を使っていたのはルシアだ。彼女が魔法を使うと、瞬きよりも短い時間で、地面に細長い溝のようなものが数キロメートルに渡って出来上がる。


 それは水路だった。地底から木材を引き上げるための水のエレベータを実現するために水路だ。


 ちなみに、水路の水源は、公都近くの川、ではない。公都近くを流れる川から水を横取りするようなことをすれば、公都の人々の生活に影響が出る可能性が高かったからだ。


 ゆえに、ワルツたちが水を引こうとしていたのは、公都からは少し離れた場所にある大きめの川からだった。その川であれば、下流に町はなく、水の流れを変えたところで困るのは魔物や魚くらいのもの。人の生活に影響は出ないはずだった。また、川の流れが変わるとはいえ、水門を閉じている間は、縦穴に水が流れないので、本来の川に水が戻る仕組みになっていた。水路を作ることで、大規模な自然破壊が起こる恐れは無いはずだ。


「水路はこんなものかしら?」


 遠くからちょろちょろと水が流れてくる様子を見ながら、ワルツは次の作業へと取りかかる。


 ちなみに、水門は完成済みだ。ワルツとルシアがクラスメイトたちと協力して水路を作っている間に、ポテンティアとテレサたちが水門を完成させていたからだ。


 作られた水門の数は3つ。トンネル内に水が流入しないようにするための水門と、川から縦穴に水を流し込むための水門。そして、排水のための水門だ。操作はすべて、地上から行えるようになっており、上下に動く水門を金属製の巨大なチェーンによって引き上げるという仕組みである。チェーンは、倍力が出るように滑車の組み合わせが工夫されており、少し離れた場所にある人力の回転櫓を操作することによって、簡単に上げ下げできるという構造だ。その時点からして、レストフェン大公国にとってはオーバーテクノロジーと言えなくなかったが、ワルツとしては隠蔽する必要性を感じていなかったようである。


 水路も出来て、水門も完成した。ゆえに、ワルツたちが次にやろうとしていた作業は、それ以外のこと。


「水を捨てる穴って、どのくらい掘れば良いのかなぁ?」


 というルシアの言葉通り、駅の縦穴を満たした後で、その水を廃棄するための別の縦穴を掘ろうとしていたのだ。


「みんな、地下深くには別の世界があるとか言ってたけど、ホントかなぁ?」


「いや、無いでしょ。もしもそんなものがあったら、地震が起こったときとか危険極まりないし、火山の下がどうなっているのかとかも気になるし……っていうか、海の水とかが地面の亀裂や隙間から入り込んで、海水で満たされているはずよ?きっと」


「まぁ、そうだよね……」


「でも、あったら面白そうよね」


「んー……でも、もしも地下に空間が空いてたとして、そこに人が住んでたりしたら、ちょっとかわいそうかなぁ……。だって、縦穴を掘ったら、一緒に——」


「うん!大丈夫よ!ルシア。絶対にそんなことはあり得ないから」


「そ、そう?」


「そうそう!大丈夫!大丈夫!」


 ワルツはルシアに対して無理矢理そう言い聞かせると、公都からも、トンネルからも、あるいは駅からも少し離れた場所まで移動して……。そして妹に指示を出す。


「ここに大穴を一つ、頼むわ?」


「大きさと深さは?」


「大きさは100mくらいで良いんじゃないかしら?深さが問題だけど……公都の近くに火山を作るわけにはいかないから、マントルまで届かないくらいの深さが良いわね。だから、10kmくらい」


「10kmかぁ……。10kmで止められるかなぁ……」


 と言いつつ、ルシアは空に向かって手をかざした。すると、空に魔力が集まってきたのか、周囲の雲が渦巻き始める。


 その魔法の規模は、昨日、学院や公都に駅を作ったときのものとは比較にならないほどの大きさで、誰が見ても、異常としか言いようのない魔力が集まってきていた。それゆえに、公都で様子を見ていた人々は、慌てて自宅に逃げ込んだり、安全な(?)地下に隠れたり……。ルシアの事をある程度知っているはずのクラスメイトたちですら、地面に伏せて、身を小さくするなど、皆がこれから起こる出来事に身構えたようだった。


 そして——、


「10km……10km……」


——ルシアは呪文のように、目標の深さを呟きながら——、


   キュピィィィィンッ…………ズドォォォォン!!


——と、強力な光魔法を地面へと叩き付けたのである。



さすてぃなぶる?

はて、なんのことか……。

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