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14.14-02 仕上げ2

 地下深くにあったトンネルには、2本の線路が真っ直ぐに敷かれていて、その上には2両の車体が連結して置かれていた。紛うこと無き列車である。昨日の内に、テレサたちが、木材を運ぶために特化した無動力車を追加で製造したのだ。


 どちらの車両にも、魔導エンジンのような動力は無く、動力と言えるものは専ら人力による駆動だけだった。ただし、昨日から少し修正されていて、トロッコにありがちな(?)レバーによる推進機関は撤廃され、自転車のペダルのようなものが8台ほど直列に並んでいたようである。8人で一斉にペダルを漕いで、加速する作りになっているらしい。


 ちなみに、動力用のレバーを撤廃した理由は、やはりペダルを漕いだ方が効率が良いからである。一応、マリアンヌがレバーを操作して動力を発生させるという選択肢は無くはなかったが、隣国の皇女たる彼女が、奴隷のようにレバーを操作するというのは、第三者に見られたときにいらぬ誤解を生む可能性があった。それらを加味すると、わざわざレバーを残しておく必要は無いと言えるだろう。


 というわけで。ワルツは、駅(?)に連れてきた特別教室の学生たちを列車に乗せると、さっそく、力が自慢の騎士科の学生たちにペダルを漕がせることにしたようだ。ジャックに操作方法を伝えると、彼を皮切りに、皆、喜々として自転車に跨がったようである。


 ちなみに、昨日、ペダルを漕いでいたアステリアは、今朝はペダルを漕ぐことなく、ただ観察するだけだった。公都まで辿り着くまでの間、アステリアや他の学生たちは仮設の客席に座り、帰り道か、あるいは何か不都合があった時に、交代する予定である。


 こうして、全員が壁や天井の無い車体だけの列車に乗り、定位置に着いた後。


    ブゥンッ……ズドォォォォン!!


 ルシアが大木を1本だけ、後ろの車両に転移させる。せっかく公都まで行くので、試験的に大木を運んでみるつもりだったのだ。


 その結果、皆が驚いたのは言うまでもない事だが、中でも騎士科の学生たちの目は、まるで死んだ魚のようになっていたようである。まさか、荷台に"重り"が載せられるとは思っていなかったのだ。ただ、彼らの場合は、騎士科の授業の中で、理不尽な訓練を度々受けていたこともあり、立ち直るまでにそう時間は掛からなかったようだ。


「なんだか後ろが重そうだが……出発して良いのか?」


 ジャックがワルツに問いかけると、首肯が帰ってくる。


「もちろんよ?ブレーキを解除するから、騎士科の皆は、無理しない程度に全力でペダルを漕いでね?じゃぁ、出発進行!」


「「「お、おう!(無理しないのに、全力なのか?)」」」


 その掛け声と共に、騎士科の学生たちが、同時にペダルをこぎ始めた。


 すると、ガコン!という音と共に、2両の列車が動き始める。変速機は所謂ローギアなので、加速力は無い。しかし、騎士科の学生たちは必死な様子だ。


「そうよねぇ……これが普通よねぇ……」


 昨日のアステリアとマリアンヌのパワーを思い出しながら、ワルツは件の2人の方を振り向いた。しかし、2人とも加速力を気にしている様子はない。流れていく風を楽しんでいる様子で、車両が遅くても関係無いようだ。


 その内に、ある程度、速度が出たところで、ワルツは1速から2速へと切り替えた。すると、一時的に騎士科の学生たちの顔が険しくなるものの、更にスピードが出ると、その表情もすぐに収まっていく。


 列車が進むトンネルの中は、ルシアの魔力の結晶体であるアーティファクトと、ワルツが魔導インクで描いた発光の魔法陣の効果により、遙か向こう側まで明るく照らし出されていた。雰囲気を例えるなら、地下にある高速道路だ。高速道路と違いがあるとすれば、出口が見えないほどひたすらに真っ直ぐで、上下の起伏もまったく無いこと、線路の有無くらいだろう。


 そのあまりの直線の長さと、整然と並ぶライトを見たクラスメイトたちは、白昼夢でも見ているかのような気分に陥っていたらしく、ボンヤリとした表情でトンネルを眺めていたようだ。この世界にも、魔法を使ってトンネルを掘る技術は存在していたが、規模や完成度がまるで異なっていたためか、内心で衝撃を受けていたらしい。ハイスピアなどは、珍しくニコニコしながら、嬉しそうに左右に揺れていたようだ。


 そうこうしているうちに、最初の駅を通過する。ワルツたちの自宅がある地底に直結した駅だ。とはいえ、停車する理由は無かったので、列車はそのまま通過した。それも一瞬で。


 ただ、駅の姿を見た学生たちの中には、興味がある者もいたらしい。


「ワルツさん?いま通り過ぎた場所って——」


 ミレニアが問いかけを予想して、ワルツが返答する。


「もちろん、私たちの家に繋がる駅よ?あそこで列車を止めて歩けば、徒歩3分くらいで、自宅に帰れるわ?」


「流石ですね……。そこまで計算してお造りになったのですね……」


「んー、実を言うと、偶然よ?公都と学院を真っ直ぐにトンネルを繋いだわけなんだけど、その通り道に偶然近かったから、ついでに駅を作っただけ。ちなみに、学院と公都との間にある村も、偶然直線状に並んでいたから、取りあえずそれぞれの村で駅を作っておいたわ?」


「そ、そうなのですか……。でも、これほどの規模のトンネルや駅って、作るのにかなり時間が掛かったのではないですか?」


「んー、まぁ、そうね。昨日の午後から作り始めて、夜遅くまでは掛かっちゃったわね」


「……あ、はい」


 ミレニアにはそれ以上、口に出来る言葉が見つからなかったようだ。ワルツと自分の認識の差が、あまりに乖離しすぎていて、文字通り話にならなかったのである。


 そして数十分後。トンネルの向こう側が、ライトとは明らかに異なる色で、明るくなってきた。


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