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14.14-01 仕上げ1

 そして次の日の朝。


 学院の敷地の外——具体的には、大量の大木が伐り倒されて、切り開かれていたグラウンドの真横辺りに、今日はぽっかりと大きな穴が開いていた。ワルツたちが作った地下鉄(?)の駅への入り口だ。


 毎日のように地図が書き換わる現状に、しかし、学院長のマグネアは慣れてしまっていたのか、これっぽっちも怒る気は無かったようである。ワルツたちの大工事は、元に戻せないという訳でもなく、誰かが被害や迷惑を被るというわけでもなく、むしろレストフェン大公国の発展に寄与していると言えたので、怒るというのは見当違いだったからだ。


 そしてなにより、彼女自身が、ワルツたちの行動を楽しみにしていたようである。学院どころか、国全体、あるいは大陸全土を探しても、ワルツたちほど無茶苦茶なことをする人物はいないので、一種のエンタテインメントになっていたらしい。


 とはいえそれは、マグネアに限った話。他の学生たちや教師たちにとっては、気が気ではなく、ワルツたちがそのうち間違って学院を吹き飛ばすのではないかと戦々恐々としていたようだ。なお、先日実際に吹き飛ばしかけた模様。


 まぁ、それはさておき。


「というわけで、駅を作りました!」


 朝のホームルームで、ワルツが宣言する。しかし、当然と言うべきか、クラスメイトたちや担任のハイスピアからの反応は鈍い。皆、駅、というものを理解していなかったからだ。


 ちなみに、この世界には駅が存在しないわけではない。一般的には、乗合馬車に乗り降りする停留所が"駅"と呼ばれていた。


 だが、ワルツの唐突な"駅"発言に理解が追いつく訳もなく、皆、困ってしまったのだ。……この娘はいったい何を言っているのか、と。


「まぁ、説明しても伝わらないと思うから、直接見て貰った方が良いわね」


 ワルツは、駅や鉄道について説明するのが億劫になったらしく、皆を連れて、最寄りの駅『学院前(仮)』に行く事にしたようである。


  ◇


 少し話は変わるが、学院の立地は山の上にある。元々は、他国との戦争の際に要所として使うための砦だったらしいが、いつしかその役目も意味を失い……。魔法の実験や研究による安全性の確保や、他国への情報漏洩の防止などを考えて、敢えて険しいこの場所に研究機関を作る事にしたのが、学院の成り立ちなのだという。


 山の上に学院があるために、地下にあるトンネルまでは、かなりの高さがあった。公都に比べてかなり内陸にあったこともあり、基本的な標高も高く、地表からトンネルまでの深さは、およそ550m。偶然にも、ワルツたちの自宅がある場所と同じ深さの場所に地下トンネルが作られていたのである。そう、偶然にも……。


 そんなトンネルには、公都と同じく直系50mの縦穴が開けられ、その外壁に長い螺旋階段と、巨大なガントリークレーンが取り付けられていた。基本的にクレーンの方は、木材を地下に下ろすための装置で、螺旋階段の方は、人が上り下りするためのものだが、クレーンの方には籠が取り付けられるようになっていて、エレベーターとしても機能していたようだ。


 縦穴の上の縁までやってきたワルツたち特別教室の生徒は、歩いて500m以上を下るのは面倒だったので、クレーンに吊り下げられた籠へと乗ったようである。そして、ゴンゴンゴン、と大きな歯車の音を響かせながら、籠が地の底へと降りていくわけだが——、


「これ、落ちないか心配なのよね……」


——ワルツがいらないことを言う。


「「「「え゛っ」」」」


「あぁ、すぐに落ちるかもしれないって話じゃなくて、数百年後とかの話よ?メンテナンスしなければ、落ちるのは当然よね?ま、もしもロープが切れても、安全装置があるから途中で落下は止まるけれどね」


 一時的に籠の中が凍り付いてしまうものの、ワルツの説明によって、すぐに元の空気に戻る。まぁ、それでもハイスピアなどは、高所恐怖症が関係していたのか、籠の縁にしがみついていたようだが。


 そんな中、ミレニアなどの一部の学生たちは、トンネルの外壁を観察しながら、感嘆の声を上げていたようである。


「とっても綺麗な穴ね……。まるで、壁が宝石で出来てるみたい……。いつの間にこんなものを掘ったの?」


 と、ミレニアが問いかけた先は、ワルツ、ではなく、偶然隣にいたポテンティアだった。


 対するポテンティアは、苦笑を浮かべながら返答する。


『実は、皆さんが寝静まった夜に作業を行ったのです。光魔法が地面に当たると、超高温に熱せられて、表面がガラス化して、宝石のように輝くようになるのです』


「と、溶かしたの?!この穴……」


 超巨大な穴が、掘られて作られた穴ではなく、溶かして作られた穴だと聞いて、質問したミレニアだけでなく、他のクラスメイトたちも驚いたような表情を見せていたようだ。その後で、彼女たちの視線が、ポテンティアではなく、一斉にルシアへと向けられたのは、真夜中に誰が作業をしたのか、皆、薄々感じていたためか。


 そんなやり取りをしている内に——、


   ドーンッ……


——生徒たちを乗せた籠は地底へと辿り着いた。

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[良い点] 2937 ・ドーンってなんじゃい [気になる点] そうか駅を知らないのか
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