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14.13-61 敷設9

「こ、この線路、どこまで敷設が終わっておる?!」


 凄まじい速度で進む人力車両の上で、テレサは、効くかも分からないブレーキレバーにしがみつきながら、ポテンティアへと問いかけた。


 対するポテンティアは、涼しい表情を浮かべつつ、トンネルの向こう側へと視線を向けたまま、こう答える。


『線路の敷設自体は、トンネルが貫通した向こう側まで完了しておりますよ?』


「さ、さよか……。で、では、ワルツたちはどこにおるのじゃ?このままでは轢いてしまうことになるのではないか?」


『お二人とも、こちらに向かってきているようです。あと数分ほどで衝突する見込みですねー』


「ちょっ?!それを早く言うのじゃ!」


 テレサは慌てて後ろを振り向く。そして、喜々としてペダルを漕いでいたアステリアと、同じく楽しそうにレバーを上下させていたマリアンヌに対して——、


「2人とも!ストップなのじゃ!ストップ!」


——と停止するよう指示を出す。2人がペダルとレバーの操作を止めないままブレーキを掛ければ、ブレーキが焼き切れるか、変速機が壊れるか、あるいは車輪が融解して脱線するかも知れないからだ。


 ゴーゴーと風が流れるトンネルの中で、テレサの声は今にも消えてしまいそうだったが、手振り身振りで伝えたためか、どうにか2人には意図が伝わったらしい。アステリアとマリアンヌの操作がピタリと止まる。


 それを見たテレサは、すぐさまブレーキを掛けた。すると、減速により、慣性が前向きに働くわけだが、しっかりとハンドルを掴んでいたアステリアも、レバーを掴んでいたマリアンヌも、体勢を崩すことはない。テレサも似たようなもので、しっかりとレバーを掴んでブレーキを掛けたこともあり、彼女が車体から放り出されるようなことはなかった。加速時に落ちそうになったので、その二の舞にはならないようにと注意をしていたらしい。


 例外はポテンティアだ。前述の通り、涼しい顔をして車体に乗っていた彼は、ブレーキの勢いに負けて、前の方に吹き飛んでいったようである。その様子に、アステリアとマリアンヌは、顔を青ざめさせるが——、


『おっと、踏ん張りが足りなかったようですね』


「「ポテ様?!」」


——前に飛んでいったはずのポテンティアが、なぜか後ろから現れて、2人とも目を見開いてしまう。まぁ、それも、すぐさまホッとしたような表情に変わったようだが。


 一方で、訝しげな表情を見せていたのはテレサだ。


「ポテよ。お主、今、車体から落ちて轢かれなかったかの?」


『まぁ、轢かれましたが、テレサ様もご存じの通り、僕はマイクロマシンの集合体。轢かれた程度で機能は停止しませんので、問題はありません』


「……ホント、G並みにしぶとい奴なじゃ……」


『お褒め頂きありがとうございます』


「いや、褒めていないがの?」


 そうこうしているうちに、車両が停止する。それと同時に、トンネルの向こう側から何かが飛んでくるのが見えてきた。ワルツとルシアだ。


 重力を操ることでトンネルの内部を飛行していた2人は、シュタッと車体の前に着地すると、マジマジとテレサたちの乗る車体を観察し始めた。


「あら?良い感じの車体じゃない。でも、動力は無い……いえ、まさか、自転車やレバーで動く、なんて言わないわよね?」じとぉ


 まったくもってその通りのワルツの問いかけに対し、テレサは首肯した。


「いや、これがまた予想以上に速くての?ほれ、ワルツとア嬢も乗るのじゃ。……では、アステリア殿とマリアンヌ殿?また頼むのじゃ」


 ワルツとルシアが車両に乗ったのを確認した後、アステリアとマリアンヌが、再び嬉しそうにペダルとレバーの操作を始めた。


 ちなみに変速機は最高段だ。本来であれば、ペダルもレバーも重すぎて動かないはずの、トップギアでの発進である。


 にもかかわらず——、


   ガガガガガッ!!


——2人がペダルとレバーを操作すると、車輪が空転して、車体が凄まじい速度で加速を始めた。


 その様子を見ていたワルツも、流石に唖然とした。


「どうなってんの?これ。もしかして、ハイブリッドとか、電動アシストとかだったりするの?」


「いや……純然たるアステリア殿とマリアンヌ殿の筋力なのじゃ」


「意味が分からないわ……」


 車体の重さは優に10トンを超えているのである。にも関わらず車輪が空転するほどの出力となると、そのトルクは、新幹線に搭載されているクラスの大出力モーターと同等かそれ以上であり、もはや、人間が出せるような出力ではなかった。


「妾も意味が分からぬが……まぁ、そういうものと捉えるほかなかろう。世の中には、宙に浮かんでおる者もおるわけじゃし……」


「ん?テレサちゃん、今、何か言った?」


「いんや。何も?」


 テレサは考えるのをやめたようである。考えた結果、辿り着くだろう答えは、ただ一つ。"分からない"しかないからだ。


 こうしてレストフェン大公国の地下には、図らずして、夢の超特急(?)が完成したのであった。ただし、人力だが。


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