14.13-60 敷設8
チュィィィィィン……
キィィィィィィン……
カンカンカンカン……
「ふぅ、出来たのじゃ」
『出来ましたね』
テレサとポテンティアの共同作業により、動力のない鉄道車両が完成した。巨大なトロッコのようなものだ。車体上部にはトロッコのように箱は取り付けられておらず、木材を載せるために平らに作られていたようである。
車両自体は、非常に完成度が高く、レールの上を移動させても、人の手で簡単に引っ張ることができるほどにスムーズに動かすことが出来たようである。車両の完成度が高いためだけでなく、ポテンティアの分体たちが高精度にレールを構築した結果だ。
ただ、どういうわけか、完成した車両を前にしたテレサたちの表情は険しかった。理由は単純。
「車体はあってものう……動力車がなければ、まともに動かせぬ気しかしないのじゃ……」
というテレサの言葉通り、木材を運ぶための車両にはモーターや魔道エンジンなどの動力源が取り付けられておらず、動かす方法は人力のみ。この場から馬車で3日ほどの距離にある自宅付近まで車両を引っ張って移動するというのは、現実的ではなかったのだ。
ただ、それは、車両を作る前から分かりきっていたことだった。ゆえに、テレサたちは、車体にあるものを取り付けていたのだが、テレサとしては、その効果をあまり期待できなかったようである。
彼女はいったい何を取り付けていたのか……。
『自分で作っておいてどうかと思うのじゃが……自転車のペダルとレバーで鉄道を動かすというのは、流石にジョークが過ぎるじゃろ……』
車体に取り付けられていたのは、人力による推進装置で、一つが自転車のようにペダルを漕ぐというものと、もう一つがレバーを上下させることで車輪に動力を伝えるというものだった。
ちなみに、テレサたちは、なぜ、2つも人力推進装置を作ったのか……。もちろん、自分たちで動かすため、ではない。
「アステリア殿とマリアンヌ殿?これを使って、車体を移動させられるかの?」
「「えっ?!」」
テレサはアステリアとマリアンヌに、動力源をさせるつもりでいたのだ。とくに、怪力をもつマリアンヌなら、それなりの動力になると考えたらしい。
「ほら、ただ見ておるだけでは暇じゃろ?じゃから、2人で動かせるように、ペダルとレバーを用意してみたのじゃ。……まぁ、今では後悔の念しかないのじゃがのう……」げっそり
「えっと……使い方は?」
アステリアが問いかけると、テレサが実演する。
「そうじゃのう……アステリア殿は、足腰が強そうゆえ、こちらのペダルの方が良いと思うのじゃ。このようにサドルに跨がって——」ギーコーギーコー「とペダルを回すと、車体が動くのじゃ。実際、少し動いたじゃろ?」
「えっ……殆ど動かなかったように思うのですが……」
「小さな力で大きなものを動かせるように変速機構が入っておるゆえ、最初の内は殆ど動かぬかも知れぬのじゃが、時間を掛けて加速すれば、スイスイ進む……はずなのじゃ」
「はあ……」
一応、アステリアは納得したらしい。
そんな彼女が車体に登って、そしてサドルの跨がったのを確認してから、次にテレサはマリアンヌへと視線を向けた。
「マリアンヌ殿は力があるゆえ、これを手で持って、上下に動かしてもらえるかの?」
「……私も使い方が分からないので、実演してもらってもよろしくって?」
「うむ。こんな感じで」シャコシャコ「上下させるのじゃ。それだけで前に進むのじゃ?じっさい、ほんの少しだけ進んだじゃろ?」
「あまり進んだようには見えませんけれど……そんな簡単な操作で良いのですのね」
「うむ。アステリア殿側のペダルにしても、マリアンヌ殿側のレバーにしても、ワンウェイクラッチで繋がっておるゆえ、休み休み操作することも出来るのじゃ」
「「……?わんうぇい……?」」
「まぁ、ともかく、何も気にせず、操作をして欲しいのじゃ」
と、テレサに呼びかけられても、アステリアもマリアンヌも戸惑いが隠せない様子だったが、一先ずは言われたとおり、ペダルとレバーを操作することにしたようだ。
ギーコーギーコー……
シャコシャコシャコ……
「あっ、ちょっとずつ進んでますね」
「でも、あまり進んだ感じがしないですわね……」
「ふむ……では、すこし変速してみるかの」
テレサはそう言って、変速機に繋がっているレバーを倒した。
「えっと、このロックをこう倒して……あ゛っ」ガコガコガコ!
この時、彼女は、変速機のレバーを倒し間違えたようである。直前の状態が、車でいう1速だとすれば、テレサは間違えて、6速くらいまで一気に押し込んでしまったのだ。
その瞬間だった。
ギュォォォォォンッ!!
車両のタイヤが空転する。アステリアとマリアンヌによって作り出された動力が強すぎたのだ。
明らかに異常な音が上がっているというのに、それでも車輪の空転は止まらない。
「わぁ!加速しました!」
「うふふ!面白いですわね!これ!」
アステリアとマリアンヌが、ハイテンションで、ペダルとレバーの操作を続けていたからだ。
結果、車輪は火花を上げながらレールを削り、それと同時に車体を凄まじい速度で加速させていく。その加速度に耐えられず、テレサは車体から放り出されそうになるが、ポテンティアの手助けもあり、どうにか持ちこたえる。
「ちょっ……まっ!」
ギュォォォォォンッ!!
テレサは声を上げようとするが、車輪から上がる轟音や風の音によって彼女の声は掻き消され……。車両は、見る見るうちに、加速していったのである。




