14.13-59 敷設7
テレサたち(?)による車体作成は、上半分を完成させたので、下半分に移る。車輪とブレーキ、それらを取り付ける台車。そして台車とフレームを繋ぐためのサスペンションの部分だ。
が、テレサはこの期に及んで、なにやら悩んでいたようである。
「車輪……車輪のう……。どうせカーブなど無いのじゃから、もっと別のものを使っても良いと思うのじゃがのう……」
『ちょっと!テレサ様?!何を血迷ったことを言っているのですか!』
ポテンティアは察したらしい。テレサが鉄道車両に車輪を付けないタイプ——つまり、浮遊式のものを採用しようとしている、と。
一方、テレサは、真剣に検討していたようだ。
「流石に、反重力システムを搭載するのは無理なのじゃ。じゃが、グランドエフェクトを使うとか、超伝導を使うとかして、車両を浮かべるのはありなのではなかろうか?」
『どれを選ぶにしても、高速すぎて、この国の人々には管理しきれませんって。事故を起こして死者が出る未来しか想像出来ませんよ。終点でブレーキが間に合わずにオーバーランしたらどうするおつもりですか?』
「普通の車輪を付けた鉄道を作っても、似たようなものじゃと思うがのう……。それに、レールのメンテナンスもほぼいらなくなるし……」
『事故を起こしたら元も子もありませんって』
「そうかのう……ふむ。そうかもしれぬ……」
ポテンティアが必死に説得した結果、テレサは普通の鉄道を作ることにしたようである。ルシアに魔力の結晶体であるアーティファクトを作って貰えば、大抵のエネルギー問題は解決するので、車両を浮かべることくらい造作も無いことだった。リニアモーターカークラスの電力ですら、数十、数百年に渡って、まかなえるはずだ。だがそれも、高度な鉄道運用能力があってこその技術だったので、この世界の住人たちの手には余るのは間違いなかった。
「では、普通の車体を作るかの……。ポテは車輪とブレーキと軸受けを作るのじゃ。妾は台車を作るゆえ」
『でも、テレサ様が台車を作る分の材料は、僕が用意するのですよね?』
「当然じゃろ?ここにはワルツもア嬢もいないからのう。せめて、フィンでもいれば、話は別かも知れぬが……」
『(フィン?あぁ、あの、特別教室に来たり来なかったりする女の子ですか……)』
なぜテレサの口からフィンの名前が出てくるのか……。フィンの錬金魔法について詳しくを知らなかったポテンティアは、一瞬考え込んでしまったようである。ただ、その思考もテレサの呼びかけによって中断させられることになったようだが。
「ほれ、ポテ。はよ、鉄を寄越すのじゃ」
『……世の中、どこを探しても、テレサ様のように鉄を強請る年頃の女性はいないでしょうね……』
「ワルツなら言うのではなかろうか?」
『ワルツ様の場合は、強請る前に、自分でお造りになると思いますよ』
と言いつつ、ほどよい大きさの鉄の塊を砂鉄から生成するポテンティア。
対するテレサは、真っ赤に輝く熱々の鉄塊を受け取ると、粘土のように捏ねて造形して……。そして瞬く間に、台車を造り上げてしまう。
その精度は、粘土細工とはまったく異なるものだった。軸受けを嵌めるための穴は、まるで工作機械で加工したかのように美しい円形を描いていて、穴のサイズや深さまでもが、ばらつきなく、すべて均一に作られていたのだ。直接赤熱した金属に触れている時点でお察しだが、何一つ挙げても既に人間業ではない。
作成を始めてから完成するまでのおよそ30秒間。ポテンティアは、テレサの手捌きに見入っていたようである。アステリアやマリアンヌたちも同じだ。熱々の鉄を、手品のように造形していくテレサに対し、驚きが隠せない様子だった。むしろ興味深げに観察していたと言うべきか。
「……お主ら。真似をするでないのじゃ?触れれば火傷ではすまぬからのう」
「「…………」」こくこく
アステリアとマリアンヌが無言で何度も首を縦に振った頃。台車の出来映えを確認したテレサが、ポテンティアへと呼びかけた。
「ほれ、ポテよ。台車の1つは完成したのじゃ。あと、もう一つ必要ゆえ、はよ鉄を出すのじゃ」
『……テレサ様、前から思っていたのですが……実は人間をやめていませんか?』
「人間じゃと?何を言っておる。妾は狐じゃといっておるじゃろうに……」
『(いや、狐は手で鉄を捏ねたりしないと思うのですが……)』
テレサはいったい何を言っているのか……。ポテンティアはツッコミを入れたかったようだが、言ったところで言葉が伝わるとは思えなかったかのか、肩を竦めると、2つめの鉄塊を作り出して、テレサの前に置くのであった。
4月……じゃと……?




