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6前前-21 夕食会5

結局、夕食会は、最初に食事に手を付けることを拒んだワルツのために、ユキたちのスケジュールの兼ね合いもあって、時間切れを迎えてしまった。

・・・要するに、イブ以外、誰も食事にありつけなかったのである・・・。


ユキA辺りは、そんなどうしようもないワルツのことを薄々察していたようだが、他のユキ達はそんな彼女のことを、もしかすると『こんな危険な迷宮を抱えている国とは仲良く出来ないと思われた』と、捉えたのかもしれない。

そのためか、途中から、どうにかワルツの機嫌を取ろうとして、明るい話題を提供していたようだが・・・それでもやはり、彼女が食事に手を伸ばさないことに対して、とても残念そうな表情を浮かべていたのであった。


来賓室に戻ってきた後もどこかムッとした(内心で泣きそうな)様子のワルツに対して仲間たちは、何か癇に障ることがあっただろうか、と疑問を浮かべていたが、魔神(マシン)である彼女には自分たちには分からない感性があるのだろう、と納得することにしたようで、誰もそのことについては触れようとしなかった。

・・・なので、戻ってきた後の彼女が、一人膝を抱えて部屋の隅でいじけていても、誰ひとりとして話しかけなかったのである・・・。




それからかれこれ、2時間ほど経った頃。


コンコンコン


未だにそんな重っ苦しい空気が漂う来賓室の扉をノックする音が聞こえてきた。


「あ、今開けます」


いじけているワルツのことを、ベッド影からじーっと観察しているユリアとシルビアの代わりに、ルシアがノックに答えた。

・・・なおイブは、既に夢の中だ。


ガチャッ・・・


ルシアが扉を開けるとそこにいたのは・・・


「・・・陛k・・・ユキちゃん?」


「はい。ユキです」


ユキA(魔王)だった。

どうやらルシアの視線からは、彼女のことが『使者のユキ』に見えているらしい。


「どうしたの?こんな時間に・・・」


「えっと、もし良かったら、これ・・・」


そう言って彼女が差し出してきたのは、少し大きめのバスケットだった。


「・・・一緒に食べませんか?」


そう言って笑みを浮かべるユキ。


恐らく、食事を摂っていないワルツ達がお腹を空かせていると思ったのだろう。

夕食を摂っていない自分もついでに一緒食べようと思って、夜食を持ってきたらしい。


「えっ・・・いいの?!」


ユキの提案に眼を輝かせるルシア。

・・・やはり、食べ盛りの彼女にとって、断食は苦痛だったようである。


そんなやり取りに気づいたのか、今度はユリアとシルビアも反応する。


「・・・良いんですか?ユキさん?」


「えぇ、もちろん。そのために来たんですから」


「いやー、私も丁度お腹が減っていたところなんですよ」


「そうでしたか。では是非、召し上がって下さい。妹が作ったんです」


2人に返答しながら、部屋の中に入るユキ。


・・・一方ワルツは、


「ズーン・・・」


(くち)で今の気分を表現するほどに、凹んでいた。

・・・まぁ、それを凹んでいると表現するかどうかは、また別の話だが。


「・・・あのー、ワルツ様?もし良かったら一緒に食べませんか?」


部屋の片隅で、暗いオーラ(ホログラム)を漂わせながらいじけているワルツに、ユキは声を掛けた。

すると、ワルツはオーラを放ったままの状態で口を開く。


「・・・なんか、すっごく申し訳ない気分になってるのよ・・・今」


「・・・因みに理由を聞いても?」


どこか聖女のような笑みを浮かべながら、ワルツに問いかける魔王(ユキ)


「いやね・・・すっごく恥ずかしい話なんだけど、私、テーブルマナーってのがよく分かんなくて・・・。それで、誰かの食べている様子を真似て食べようと思ったら、みんな食事に手を付けないで私のことを待ってるわけよ。それでにっちもさっちも行かなくなってさ・・・気付いたら食事の時間が終わってたのよね・・・。まぁ、それ自体はいいんだけど・・・問題は、それで皆に迷惑をかけちゃったことなのよ・・・」


と、どうしていじけていたのかを暴露したワルツに、


「ふふっ」

「・・・そんなことで悩んでいたんですか・・・」

「事前に言ってくださればよかったのに・・・」

「お姉ちゃん・・・いつも通りでよかったと思うんだけど・・・」

「zzz・・・」


各々、反応を示す一同。

そんな仲間たちに対して、


「・・・だってさ?私たち、(ミッドエデン)の代表として来てるわけじゃない?で、下手なマナーをして、恥をかいたら、つまりそれはそのまま国の恥ってことでもあるじゃない。・・・それはどうかと思ったのよ・・・」


と、もっともらしい言い訳を口にするワルツ。

なお、国のことはあまり関係なかったりする。


・・・そんな彼女に対して、


「・・・ワルツ様は、あのメンバーの正体をご存知ですよね?」


ユリア達がギリギリ理解できないのラインの話を、微笑みながら口にするユキ。


「えぇ。もちろんなんとなく分かってたわよ?でも、あの場の空気じゃねー。そう簡単に、ハイそうですか、って普通に食べられるわけないじゃない・・・」


と、自分に対して不都合な空気しか読めないワルツが言葉を返した。


「そうですね・・・確かに肩書は政府首脳なので、いきなり溶けこむというのは難しいかもしれませんね・・・」


するとユキは少し考えた後、


「・・・分かりました。では明日からは、マナーが気にならない、立食形式にしようと思います」


と、食事のスタイルを変えることを提案した。

・・・とはいえ、スタイルが変われば、マナーの種類も変わるのだが。


ユキの提案に対して、そんな懸念を持ったワルツは、


「・・・いいえ。唯でさえ、私的なことで迷惑をかけてるんだから、気にしなくてもいいわよ。なんとか明日までに、ユリアから完璧なマナーを教わっていくから」


能動的に対処することにした。

・・・一方、


「え゛?!」


ワルツの『完璧なマナー』という発言に、固まるユリア。


「そうよ。最初から、予習しておけばよかったのよね!」


「え゛ぇ?!」


最早、固まるを通り越して、ユリアは泣きそうな顔をしながら、小刻みに震え始めた。

これでユリアのマナーの教え方が悪かったなら・・・まぁ、ワルツのテーブルマナーが大変なことになって、下手をすると、国の恥云々どころの話では無くなることだろう。


・・・というわけで、ユリアは一人で責任をかぶることを避けることにした。


「あ、あの、ワルツ様?私だけだと完璧なマナーは難しいと思うので、後輩ちゃんも巻き込んでいいですか?」


「え゛?!」


「えぇ。もちろんよ?」


「・・・・・・あぁ・・・お母さんにちゃんと教わればよかった・・・」


・・・そして増える犠牲者(シルビア)

なお、ユリアもシルビアも、そしてルシアも、ワルツのテーブルマナーを真似て食べようとしていたことは、彼女たちだけの秘密である。


というわけで、ついでにルシアを含めた一行は、明日の朝食までにテーブルマナーをマスターすることになったのである・・・。




さて。


ユキの持ってきた夜食に、


「あれー・・・この料理、どこかで見たことがあるんだけど、気のせい・・・?」


「確かにそんな気もしますが・・・でも、こんなに美味しい料理を忘れるわけがないので、デジャブみたいなものじゃないですか?」


と、ユリアとシルビアが、ユキFメイドの作った料理に疑問を浮かべながらも美味しそうに食べていた頃。


その隣では・・・修羅場が展開されようとしていた。


「あのー、ワルツ様とルシアちゃん?1つお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「はむはむ・・・ん?何かしら?」


「もぐもぐ・・・ん?」


「・・・もしかして、ビクセンの外の畑を吹き飛ばしたのって・・・ルシア様だったりします?」


『ブフッ!』


・・・彼女の言葉に、食べていたものを思わず吹き出すワルツとルシア。


「ちょっ・・・」


(まさか、食事をしてるこのタイミングで聞いてくるとか、鬼なの?魔王なの?)


吹き飛ばしたものが辺りにばら撒かれないように重力制御を使ってまとめながら、半分涙目になってそんな事を思うワルツ。


「えっと・・・なんか、すみません・・・」


ワルツと共に涙目になって(むせ)ているルシアの事を見て、ユキは申し訳ない様子で頭を下げてきた。

どうやら、意図して言ったわけではないらしい。


まぁ、それはさておき。

遂に、ユキに対して、ボレアスを爆撃したのがルシアの犯行だとバレてしまったようである。


「えっと・・・はい・・・ごめんなさい・・・」


せきが治まった後で、今度はルシアが申し訳無さそうに頭を下げた。

最早、言い逃れが出来ない・・・というよりも、バレたら認めるつもりでいたので、必然的なことであったと言えるだろう。


「やはりそうでしたか・・・」


ルシアが認めたことに対して、ガックリと肩を落とすユキ。


「あの・・・償いなら、受けさせてもらいます・・・」


ルシアは目尻に涙を貯めて、俯きながらそう言った。


「・・・ユキ。わざとじゃなかったのよ・・・。ミッドエデンの王都が乗っ取られた時、結界を破壊するために放った魔法が、まさかこんなところまで飛んで来るとは思わなくて・・・」


「えっ・・・」


ミッドエデンの王都からビクセンまでの道程を思い出しながら、ワルツ同様、そんな長距離を魔法が飛んでくるとは思わなかったらしく、驚愕の表情を浮かべた。


・・・いや、むしろ納得したというべきか。


「そうでしたか・・・。あの・・・別に、罪を問うなんてことはないので、安心してくれませんか?ルシアちゃん」


「えっ・・・」


「・・・だって、ルシアちゃんは、スカー・ビクセンを倒してくれたではないですか?あれだけで、一体どれほどの者たちが救われたことか・・・。それに、ルシアちゃんの魔法で、誰か犠牲者が出たわけでもなければ、飢餓に苦しんでいる人が出たわけでもないので・・・」


その上、ルシアの魔法によって生じた農作物への被害は、ミッドエデンが援助として負担する予定なのである。

つまり、ボレアスとしては、畑が荒らされた以上の損害はなく、実質、痛手は負っていないと言えるだろう。


その他、ユキがミッドエデンに来ていた間にボレアスで起ったいざこざや、その結果生じた損害については、例えユキがこの国を離れていなかったとしても、どうにもならなかったことなので、ルシアに直接の責任は無かった。

むしろ、運良く彼女がここにいたからこそ、スカー・ビクセンを倒すことが出来たとも言えるだから、ルシアに感謝こそすれ、憎んだり責任を取るように迫ったりすること自体、ボレアス側としてはありえない話だったのである。


「・・・(ゆる)してくれるの?」


「赦すも何も、元から罪を償ってもらおうとは考えていませんでしたから。・・・強いて言うなら、最初から素直に教えてくれればよかったのに、と思うことはありますけどね」


と言いつつも、果たして自分がルシアの側にいたら素直に打ち明けただろうか、と考えるユキ。

そんな彼女に、


「えっと、ごめん・・・ううん、赦してくれてありがとう、ユキちゃん・・・」


ルシアは涙を拭いた後、礼の言葉を口にするのであった。




それから暫く経って、皆が食事を再開した頃。


「そういえば、いつルシアが爆撃したかもしれないって気づいたの?」


ワルツがユキに対して、問いかける。


「空中に浮いていたスカー・ビクセンに対する1回目の魔力爆弾の攻撃ですね。あんな爆発、後にも先にも、畑を吹き飛ばした魔法でしか見たことなかったですから・・・」


「あぁ、そういうことね・・・」


一般的な魔法使いでは成し得ない、圧倒的な破壊力を持った魔力爆弾なのである。

そんな魔法をバンバン使えるような魔法使いが世界にあふれていたなら・・・この世界は()うの昔に滅んでいたことだろう・・・。


(あぁ・・・だから、古代の魔法文明は滅んだのかしらね・・・)


重力制御魔法や空間制御魔法、魔法爆弾など、今のこの世界では考えられないような魔法技術力を誇っていたという古代の魔法文明。

そんな失われた文明に、ワルツは一人、思いを馳せた。


(ん?重力制御、空間制御、魔法爆弾・・・あれ?・・・まぁいっか)


何かを気付きかけて・・・しかしワルツは、食事を優先するあまり、考えることを止めた。

どうやら、彼女にとっては大したことではなかったらしい。


「それにしても、ルシアの魔力爆弾が、魔法を無効化するはずの大河の上空を超えるなんて・・・やっぱり、相当強かったんでしょうね・・・」


口で咀嚼をしながら、いつも通り喋るワルツ。


「・・・そ、そうですね。ですけど、他の魔法は消えていたので、同じく消えていたとしてもおかしくないと思うのですが・・・」


ワルツがどうやって話しているのか、聞くかどうか悩んだ末、ユキは見なかった(聞かなかった)ことにしたようである。


「一応、大河上空で減衰したやつが、ビクセンまで来て爆発したんじゃない?」


「はあ・・・なら、普通に爆発していたなら・・・」


「・・・ダメよ?ユキ。もしものことを考えても、際限ないんだから・・・」


「そ、そうですね・・・」


まぁ、考えたところで、結果は1つしか無いのだが・・・。


そんなやり取りをしながら、夕食会とはまるで異なる雰囲気の夜食会(?)を堪能した後、徐ろにワルツはユキに対して問いかけた。


「・・・それで、ユキがここに来たのって、まさかと思うけど、食事をするためだけではないわよね?」


もしもそうだとするなら、相当暇な皇帝(魔王)ということになるだろう・・・。


「えっと・・・食事だけだと拙かったですか・・・?」


『えっ・・・』


・・・どうやら、本当に暇だったらしいユキに対して、ワルツとルシアが驚愕した。

すると・・・


「あの・・・今のやり取りに何か驚くところはありましたか?」

「・・・何か、私たちに隠してません?」


ユキが魔王であることを知らないユリアとシルビアが、何やら()()()()()を感じ取った様子で反応する。


「いや、ナンデモナイワヨ?」

「うん、ナンデモナイヨ?」


「・・・怪しい」

「怪しすぎますね・・・」


「・・・」


・・・そんなワルツたちのやり取りを、楽しそうに眺めるユキ。


「はいはい、この話はここで終わり!ほら、食事が終わったんだから、ユキもさっさと部屋に戻りなさい」


そんなワルツの言葉に、


「・・・そうですね」


ユキは、どこか楽しい時間が終わって、家に帰る子供のような表情を見せた。


その後で、素直にワルツの言葉に従った彼女が、バスケットの中に皿などの食器を戻しながら、帰る支度をしていると、急に、ハッ、とした様子で口を開く。


「あの・・・明日はどうなされるのですか?」


「え?明日?・・・そうね・・・特に会議とかが無ければ、街の中を観光して歩こうかと思ってたけど・・・?」


するとルシアが口をはさむ。


「カタリナお姉ちゃんの家とか見て回ったりしたいね?」


「そうね。ちゃんとカタリナの家族が無事かどうかも確認しないとね。・・・場所分かんないけど」


無線機で直接聞けば分かるかしら・・・などと思っていたワルツに、どういうわけか、満面の笑みを浮かべたユキが声をかけてきた。


「あ、あのっ・・・もしよろしければ、ボクが街の中を案内します!」


『えっ・・・』


再び、ユキに対して驚愕の視線を向けるワルツとルシア。

・・・それはそうと、ユキはカタリナの家の場所も分かるというのだろうか・・・。


「あの・・・ユキさんとコントしてるんですか?」

「・・・やっぱり、何か隠してません?」


「いや、そんなことはない・・・っていうか、ユキ!貴女、仕事はどうするの?!・・・いや、替え玉とかたくさんいそうだけどさ?でも流石に、町が酷いことになってるのに、出歩くっていうのは拙いんじゃない?」


再び湧いて出たユリアとシルビアの疑問を無視して、ユキに問いかけるワルツ。


「大丈夫です。妹達がなんとかしてくれますので。それに、辺りを見て回ることも大切な仕事なので」


「・・・はぁ・・・何でかしら・・・今のユキが、故郷の姉さんに被って見えるのは・・・」


そう言いながら頭を抱えるワルツ。

どうやら、ユキF辺りの姿を、元の世界にいた頃の自分の姿と重ねているらしい・・・。


・・・まぁ、それはさておき。

こうしてワルツ達は、ビクセン観光をするにあたって、究極のガイド(暇な魔王)を手にすることに成功したのである・・・(?)。

今日中に6前前を終わらせたくて頑張って書いておったら、時間が無くなってしまったのじゃ。

というわけで、明日から、6中じゃ。

・・・主に連れられて、旅に出なければならぬがのう・・・。

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