14.13-58 敷設6
「妾としては、本当は動力車を作りたいのじゃがのう……。こんな穴蔵の中で魔道エンジンを動かせば、ただひたすらに五月蠅いだけゆえ、自重するのじゃ」
『えっ……テレサ様にも、あのエンジンが五月蠅いという自覚はあったのですか?!』
「し、失礼な……。流石に、周りの者たちから五月蠅い五月蠅いと文句を言われ続ければ、嫌でも分かるのじゃ」
『(あっ……言われないと理解出来なかったのですか……)』
「(あっ……言われないと理解出来なかったんですね……)」
「(あっ……言われないと理解出来なかったのですわね……)」
「……何じゃ?お主ら。その、かわいそうなものを見るようなその目は」
「「『…………』」」(ふるふる)
テレサの魔道エンジンが、断続的な魔力の爆発現象を伴うため、非常に五月蠅いというのは周知の事実だった。ゆえに、ポテンティアたちは、テレサも魔道エンジンの五月蠅さを自覚しているのだと考えていたようだが、テレサの話を聞く限り、どうやら違ったらしい。彼女の耳は遠くないはずだが、鈍感なのかも知れない。
対するポテンティアたちは、その話題にはそれ以上触れようとはしなかった。テレサの機嫌を損ねても何も得は無いからだ。ルシアが特殊なだけで、他の者たちは、テレサの機嫌を進んで損ねようとはしないのである。ルシアの魔法を打ち消して、天候さえ書き換えてしまうような力を持つテレサが、もしも機嫌を損ねたとすれば、何が起こるか分かったものではないからだ。
対するテレサ自身は、自分が怖がられていることに気付いていないらしい。
「……お主ら、何か失礼な事を考えておらぬか?」
『いえいえ。失礼な事など考えておりませんよ。ね?アステリアさん』
「え、ええ!そ、そうですよ!テレサ様はすごいお方なので、私ごときがテレサ様のモノづくりに注文を付けるなど、恐れ多くてとてもではありませんが口を挟むことなどできません!そうですよね?マリアンヌ様?」
「ええ、その通りですわ?まぁ、強いて言えば、テレサ様は、魔道エンジンの実験のやり過ぎで、耳が遠くなってしまったのではないかと心配してしまったくらいですわ?」
「『え゛っ(この展開でそれを言う?!)』」
「……いや、難聴ではないからの?(もしや、普段ア嬢に虐げられておるせいで、妾は皆に、イジられキャラだと思われておるのじゃろうか……)」
マリアンヌの言葉は、一応、気を遣ったものだったものの、他の者たちから聞くと歯に衣着せない物言いに聞こえたらしく、テレサを含めて他の2人も、微妙そうな表情を見せたようだ。
とはいえ、あまり深く考え込んでも無駄だと思ったのか、テレサは思考を切り替えて、ポテンティアに指示を出す。
「まぁ、よいわ。では、ポテよ」
『はい?なんでしょう?』
「台車を作るゆえ、全長30m、横幅3m、高さ30cm程度の、熱々の鉄塊を作って欲しいのじゃ」
『なかなか規模の車体を作る気なのですね……。僕だけでは難しいですが、他の皆も集めれば出来ると思いますので、ちょっと待っていて下さい』
と、ポテンティアが口にすると、トンネル内の至る所から、カサカサという音を立てつつ、何か黒く小さなものたちが、彼の所へと集まってくる。ポテンティアの分体たちだ。レールを作るために集まっていたマイクロマシンたちも、わざわざ作業を中断して、集まってきていたようである。
そんな彼らは、トンネル内に集められた小山の前に集合すると——、
ビィーーーッ!!
——と、いっせいにメーザーやらレーザーを照射し始めた。すると、砂鉄は、一気に赤熱して、ドロドロに融解を始める。
その様子を見ていたテレサは、アステリアやマリアンヌにとっては思わず驚愕してしまうような行動に出る。半分融解していた鉄に手を触れるどころか、「よっこらせ」と鉄の上に足を乗せて、何も無いかのように鉄の上を歩き始めたのだ。
「ちょっ?!テレサ様?!」
「な、何をしているのですか?!」
顔を青ざめさせて声を上げていたアステリアとマリアンヌとは対照的に、ポテンティアとテレサは落ち着いていたようである。そう、テレサは、赤熱した金属に触れても、火傷を負うことはないのだ。機械の身体——それも、コルテックスと互換の身体になった彼女にとっては、数千度の金属など熱くも何ともなかったのである。
そんなテレサは、驚きの声を上げるアステリアたちに対して、「ふん」と意味深な笑みを返した後、赤熱した鉄塊を手で掴んで捏ね始めた。まるで、巨大な粘土を使った工作をするかのように、だ。
そして、作業を始めてから30分ほどが経ち、アステリアとマリアンヌが、落ち着きを通り越して呆れ顔を浮かべ始めた頃。
「車体はこんなものかのう?」
テレサの車両作りの上半分が完成したようである。具体的には、タイヤと台車の部分以外。所謂フレーム部分の完成だ。




