14.13-57 敷設4
ワルツたちはトンネルの前で、ジョセフィーヌたちと別れた。トンネルに入った行き先は、中央学院の近く。しかし、ジョセフィーヌたちは、政務があるため町からは離れられず……。その場で別れざるを得なかったのである。
その際、ワルツたちは、付いて来ようとするジョセフィーヌたちのことを説得したわけだが、話はとても難航したようである。とはいえ、議論になったわけでも、ジョセフィーヌたちが駄々をこねた訳でもない。ジョセフィーヌたちは、ここまでの出来事で驚きすぎていて、半分以上正気を失っていたため、ワルツたちが話しかけてもまともな反応が返ってこなかったのだ。どうやら人は、自身の常識を破壊されると、反応が無くなってしまうらしい。
それでもどうにか物理的な説得を織り交ぜて、ワルツたちはジョセフィーヌたちと別れることに成功した。そして、トンネルに入るや否や、ワルツたちの作業が再開する。
「じゃぁ、私はトンネルの中をライトアップしていくわね」
ワルツはルシアに作って貰った魔道インクを使用して、トンネルの内壁に何本か直線を描き始めた。ランタンの魔道具にも使われている単純な魔法陣で、ただ線を引いて魔力を流すだけで、その線が輝くという代物である。なお、発光の効率は不明だ。エネルギー源は、ルシアの魔力の結晶体とも言えるアーティファクトなので、恐らく数百年ほどは光り続けることだろう。
一方、ポテンティアは、自身の分体たち——具体的には、黒光りする昆虫のような者たちを使って、せっせとトンネルの外から砂鉄を集めて運び込んでいた。線路の材料にするらしい。それをマイクロマシンから放たれたレーザーやメーザーの類いを使って融解させ、3Dプリンタの要領で少しずつ積層して、長いレールを造っていく。
ポテンティアの作業は、傍から見る限り、非常に遅いように見えていた。しかし、同時平行的に数百メートルの範囲内でレールの構築をしていたので、全体的な作業はかなり早いと言えた。10分ほどでキロメートル単位のレールの敷設が完了する早さだ。まぁ、それも、マイクロマシンが出入りできる入り口に限った話だが。
ポテンティアの作業効率を上げるためには、レストフェン大公国中に分散している彼の分体をトンネル内に呼び入れる必要があった。ゆえに、ルシアは、ワルツと共に、トンネル内を高速で移動して、トンネルの所々に風穴を作り始めたようである。ただし、ワルツ自身は空気穴を作っていたわけではない。彼女は、前述の通り、トンネル内のライトアップ作業がメイン。それと平行して、ルシアに対し空気穴の位置を教えていただけである。ワルツでなければ、正確な測量は行えず……。ルシアだけだと、不等間隔な穴開けになってしまうからだ。
その内に、2人の姿が見えなくなる。次の空気穴は数キロメートル先だ。その距離を飛行されれば、残されたテレサたちにはどうすることも出来ず……。彼女たちはワルツたちの事を見送る事しか出来なかった。
「……さて、どうするかの?」
「歩いて帰れば良いのでしょうか?」
「一応、転移魔法は使えますけれど、跳べても精々私一人だけですわ?」
『あっ、僕はどこにでもいますので、何かあれば声を掛けて下さい』
「あぁ、そういえば、ポテのことをお忘れておったのじゃ」
「ポテンティア様がいれば、いつでも帰れますね!」
「(逆に、ポテ様がいるということは、ポテ様の作業が終わるまでは帰れませんわね……。まさか、自分だけ帰って休むわけにも行かないですもの)」
などと言ったり考えたりしながら、テレサ、アステリア、そしてマリアンヌの3人は、頭を抱える。
「あの2人……恐らく、妾たちのことをすっかり忘れておるのじゃ」
「さすがに忘れてるってことは無いと思いますけど……作業の邪魔になるので置いて行かれたのでしょうね」
「手持ち無沙汰、ですわね……。何かできることは無いかしら?」
ワルツたちがトンネルの先まで行って戻ってくるまでの間、自分たちは何をして待っていれば良いのか……。ただ喋って待つという選択肢もなくはなかったが、ワルツたちが作業をしている以上、3人とも、何かをしなければならないと焦っていたようである。
そんな中で、テレサがポツリと呟いた。
「あぁ、どうせじゃから、車両でも造るかの?」
「「車両を造る……?」」
「今、ポテが作っておるレールの上を転がす台車を造るのじゃ。動力車は恐らくワルツたちが作るゆえ、妾たちは引っ張られる側の車両を作れば良いのじゃ。木を運ぶにしても、人を運ぶにしても、台車は必要じゃろ?」
「あぁ、そういうことですか。確かに、乗り物は必要になりますよね」
「ですが、どのような台車を作れば良いのか、分かるのですか?ワルツ様が仰っていた"てつどう"というものが未だによく分からないのですが……」
「ふっふっふっふ……妾を見くびるでないわ。ポテよ。ちょっと手伝って欲しいのじゃ」
『鉄の調達ですね?えぇ、分かります。準備をするので少々お待ちください』
とポテンティアが答えると、見る見るうちにその場に砂鉄が運ばれてきて、小さな山を形成する。どうやらそれが、台車の材料となるらしい。




