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14.13-56 敷設3

   ゴゴゴゴゴ……


 地図は適当だが、ワルツの目測による測量は、寸分違わないものだった。彼女はルシアの光魔法の行く先を上手く調整して、学院のすぐ近くまで長いトンネルを掘ることに成功する。直径は20mほど。大木を運び入れたとしても、3本は平行に並べられそうである。


 強力な光魔法により、トンネルの内部には、蒸発した岩盤の有害な気体が充満していたようだが、ルシアが次に行使した風魔法によって、強制的に押し流されて、ごく短い時間の間に澄んだ空気へと変わっていく。トンネルの入り口から、突風と言えるような空気を送り込んだわけだが、それでもトンネル内の気圧が上がらずに逆流してこなかったのは、穴が反対側まで突き抜けている証拠だろう。


 ワルツは、文字通り出来たてホヤホヤの、壁が未だ熱を帯びたトンネルに近付くと、その側面の強度を確かめるかのように、手の甲でコンコンと叩いた。その音は透き通った高音で、まるで金属同士がぶつかり合うかのような硬い音だ。トンネルの外壁を構成していた岩盤が、かなりの厚みまで融解しており、また蒸気の圧力のせいで強化ガラスのようになっているらしい。ちなみにワルツの手はやわらかいので、甲高い音が鳴り響く原理は不明である。


「これなら、永久に保つ、って訳にはいかないだろうけど、大きな天変地異が起こらない限り、2、300年くらいは、補修無しで使えるんじゃないかしら?まぁ、数百年経つ頃には、レストフェンの工業力も上がっているだろうから、多少ヒビが入っても補修できるようになっているはずよ?頑張ってね?」


 ジョセフィーヌに丸投げするワルツだったが、当のジョセフィーヌからは返答は無い。彼女はやはり驚愕したままで、開いた口が塞がらず、発する言葉も見つけられない様子だった。もしかすると、驚きすぎて、顎が脱臼しているのかも知れない。


 ただ、ワルツとしては独り言に近かったこともあり、ジョセフィーヌからの返答が無くても、あまり気にはしなかったようである。


「じゃあ、ルシア?次はオリハルコンを大量に作ってもらえる?」


「えっ?オリハルコンを?」


「あと、マナと」


「オリハルコンとマナ……あぁ、そういうことね」


 ルシアは事情を察したらしい。姉は、魔道回路を書くためのインクが大量に欲しいのだ、と。


 妹に意図が伝わった様子を確認した後、ワルツはルシアとは別の人物に指示を出す。


「ポテンティア?貴方は線路の敷設を頼むわね?」


『僕がですか?えぇ、喜んでお受けいたします。というか、僕としては、てっきり、ワルツ様が敷設されるものだと思っておりましたが?』


「長距離の線路敷設って、面倒臭いのよ。線路を担いで長距離を移動しなきゃならないし、杭を打って固定しなきゃならないし……。でも、貴方なら並列して作業出来るでしょ?その場で線路を作り出すことだって出来るはずだし……」


『えぇ、分体たちを使えば、一瞬で出来ますね。ただ、トンネルの終端部分から入っていくことを考えると、マイクロマシンの移動速度では、かなりの時間が掛かってしまいます。なので、先に、トンネルの途中に空気穴を開けて頂けませんか?そうすれば、空気穴から分体立ちが入り込めるので、より効果的に作業が進められるかと思います』


「移動しにくいなら、転移魔法陣を使ってみる?」


『魅力的な提案ですが……壁の中や土の中に出ないとも言い切れないので、僕は遠慮しておきます』


 転移魔法陣が安全に使用できるのは、転移魔法陣の機能として、転移先の物体と衝突しないよう位置を修正する機能が搭載されているからである。ところが、ワルツの転移魔法陣は、その機能を無効化して、任意の場所に移動出来るように改造されていたのだ。つまり、ワルツの転移魔法陣は、一歩間違えれば"壁の中にいる"状態になりかねず、極めて危険な魔法陣だと言えたのである。それでも、ワルツが安全に運用できるのは、転移魔法陣を使うのがワルツだからであって、彼女自身の計算能力で転移魔法陣の衝突防止機能を実現しているからだった。よって、ポテンティアがワルツから転移魔法陣を渡されたとしても、彼が無事に転移できる保証は無い。


 対するワルツは、なぜか残念そうだった。


「あぁ、そう……。まぁ、そう言うのなら仕方ないわね。空気穴を開けるから、そこから入ってちょうだい」


『えぇ、そうします』


 というやり取りが終わる頃には——、


「お姉ちゃん、このくらいで良い?」


——ルシアもオリハルコンの生成作業を終えていたようである。ワルツたちが線路敷設についての話し合い(?)をしている最中も、彼女たちの背後で、ルシアは——、


   ズドォォォォン!!

   ドゴォォォォン!!


——と、大量に地面を削っていて、それをそのまま——、


   ゴゴゴゴゴ……!


——と、超高温で熱して、融解し、分離させて……。そして、オリハルコンだけを抽出していたのだ。


 出来上がったオリハルコンの量は、およそ1t程度。末端価格にして、千数百億ゴールドの代物である。


 オリハルコンを傍から見ると、黒ずんだ金属にしか見えないので、まともにオリハルコンを見たことが無いジョセフィーヌたちは、オリハルコンに対してこれといった反応は見せていなかったようである。むしろ、彼女たちの場合は、オリハルコンが云々というよりも、ルシアの精錬作業そのものに対して驚愕していたようだ。ルシアは光魔法だけでなく、火魔法も別格の強さを誇るのだから、その出力に目を奪われてしまうのは仕方のない事だと言えた。


 そんなルシアの作業はまだおわりではない。彼女の風魔法がオリハルコンの塊に襲い掛かり、硬いはずのオリハルコンを、見る見るうちに切り裂いて、粉々に粉砕していったのだ。そして、オリハルコンの粉塵は、水魔法で作り出した魔力たっぷりのマナと混ぜ合わされて、超巨大なミキサーに投げ込まれたように、満遍なくかき混ぜられていく。


 結果、出来上がったものは、5トンにも及ぶ銀色の液体。魔法陣や魔道具を作るために必須となるインクだ。末端価格は変動が大きいために試算は難しいが、その全量を公都で売ったなら、時価総額は恐らく兆の桁を越えるに違いない。まぁ、そこまで大量に売れば、価格崩壊は必須だろうが。


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[良い点] 2967/2969 ・まーた色々狂ってやがる [気になる点] ワルツさんまた他人任せしてる。想定外の事故起きそう
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