表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2962/3387

14.13-51 売買 9

 ドエルとの話は終わった。結果は、学院産の木材を市場価値の2〜3倍で買い取るというものだ。詳細については、後日、ジョセフィーヌ経由で報告されることになった。その際、大公たるジョセフィーヌが連絡役となることについて、事情を知らないドエルはとても驚いている様子だったが、事情を聞くような事はしなかった。彼は直感したのだ。下手な事を聞けば、藪蛇になる、と。


 こうして、ワルツたちの公都での用事は終えたと言えたが……。ルシアにはまだ用事が残っていたようである。というのも、元々、彼女が公都に来た理由は、木材を売りたかったからではないからだ。


「あの、ドエルさん」


 ルシアが問いかけると、ドエルは少し驚いたのか、一拍おいてから返答する。


「……はい、何でしょうか?」


「実は、町に来た理由がもう一つあって、かわいいものが無いかを探しに来たんです。あとおすs——」


 ルシアがいらないことを言おうとしているのを察して、テレサが介入する。


「ア嬢?前にも言ったとおり、レストフェンでは、寿司は諦めるのじゃ」


「ん?すし?」


「ほら、ドエル殿が困惑しておるではないか」


「もう、仕方ないなぁ……。えっと、お寿司の話は忘れて下さい。それで……この町のどこかのお店で、かわいいものを扱ってる店が無いか、教えて頂けませんか?あっ、もちろん、ドエルさんのお店で扱っているなら、それを見せてもらえたら嬉しいです」


「かわいいもの……ですか……。例えば、アクセサリーとか?」


「いえ、アクセサリーはテレサちゃんに作ってもらえるので大丈夫なんですけど……なんていうか……その……」もじもじ


 ルシアの歯切れが悪い。どうやら、人形の類いが欲しいと素直に言えないらしい。


 一方、テレサは、ルシアの言いたいことを汲み取っていたようである。しかし、ルシアのためを考えると、自分で要求を口にすべきなのは明らかなので、心を鬼にして(?)、だんまりを決め込んだようだ。


 対するルシアは、テレサの思考パターンが何となく分かっていたためか、彼女のことを睨み始める。しかし、それはテレサの方も同じ。ルシアに睨まれるのは分かっていたので、視線は合わせない。


 その内に、ルシアは苛立ってきたのか、暴挙に出た。


「あ、そうそう!こんな感じのものが欲しいです!」ガッ


「んな゛っ」グイッ


 テレサの尻尾を掴んで引っ張ったのだ。


 その様子をワルツたちから見ると、どう見えたのか……。しかも今朝、テレサは尻尾を無くして、家の中を彷徨っていたのである。そこから推測されることは、ただ一つ。


「(ええっ……ルシア、テレサの尻尾が欲しいの?)」

「(大胆ですね……)」

「(自分の尻尾じゃダメなのかしら?)」

『(爆発さえしなければ、テレサ様の尻尾でも良いのでしょうけれど……)』


 朝のテレサが尻尾を無くした件は、ルシアが原因だった、というものだ。それも、テレサの尻尾を欲して。ちなみにルシアは、意地でテレサに対抗しているだけなので、自分で何を言っているのか理解していなかったりする。


 一方、ドエルの方も困惑していた。獣人が獣人の尻尾を引っ張って「これが欲しい」と言うなど、彼にとって初めての経験だったからだ。いったいどういった意図で、尻尾を欲しているというのか……。


「(まさか、獣人の尻尾を切断して販売していないか、と聞いているのですか?)」


 ドエルがストレートに考えた結果、そんなカオスな想像をしてしまう。


 しかし、それは自然の発想だと言えた。というのも、物好きな貴族の中には、獣人のフサフサな尻尾を収集している者たちがいるからだ。それも、かわいい、美しいなどと言いながら……。


「(獣人の貴族がいないので何とも言えませんが……もしかすると、彼女たち獣人族にも、そういった特殊な趣味趣向があるのかもしれませんね……)」


 ドエルは生暖かい視線をルシアに向けた。


 と、そんな時。


   グググ……ブチィッ!


「あ゛あ゛っ?!」

「あっ……」

「え゛っ……」

『「「「「あー……」」」」』


 ルシアが強く引っ張りすぎたせいか、テレサの尻尾が根元から外れてしまう。その様子を見たドエルは目を大きく見開いて驚いた。たとえ、尻尾の芯が細くデリケートな部位とはいえ、引き千切るなど普通は不可能。いったいどれほどの力で引き千切ったのか、と想像してしまったのだ。


 対するルシアとしては、なにも、テレサの尻尾を引っこ抜くつもりは無かった。ゆえに、彼女は、尻尾を元の場所に戻そうとする。


「ごめん。テレサちゃん。抜いちゃった」てへっ


   ガチッ


「ちょっ?!何をするのじゃ!危ないのう……。無理矢理引っこ抜いたら爆発すると言っておろう!」


「ごめん、ごめん。引っ張りやすかったから、つい……」


 と、普段通りのやり取りを交わす2人だったが、その様子を見ていたドエルの中では、混乱が渦巻いていたようだ。


「(獣人の尻尾は、脱着式だったのですか……?)」


 そんなことを考えたドエルは、その早く回る頭で思考した結果、最終的に、とある結論へと達する。


「(もしや獣人は、人とは異なる種族なのではなく、故意に尻尾を付けているだけの人間なのでは……?)」


 そしてドエルは、テレサの次にルシアへと視線を向けた後、最終的に、アステリアへと視線を向けたのだが……。


「ううう……何度見ても痛そうです…………」ぶわっ


 アステリアはなぜか両手でお尻を押さえており、今にも泣きそうな表情を見せていたようである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ