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14.13-48 売買 6

「そのようなことがあったのですね……。えぇ、私の所で買い取りましょう。相場の2倍で如何でしょうか?」


『いえ、その申し出はありがたいのですが、僕たちは値段をつり上げて売りつけるためにジョセフィーヌ様のところにお伺いしたわけではありません。他の方々との公正も考えていただいた上で、手数料も含めて、厳正に金額を決めていただけると幸いです』


 ポテンティアは、学院の周辺地域で起こった出来事説明した。ルシアの魔法によって、木々が大木と化してしまい、その処分に困っている、という説明だ。


 伐採は学院側でやるので、木材の買い取りを頼みたいというポテンティアの提案に対し、ジョセフィーヌは喜んで、首を縦に振ったようである。ただ、彼女の申し出は、ポテンティアの想定とは大きく異なり、相場の2倍で買い取るというもので、レストフェン大公国にとっては何一つとして旨みのない内容だった。


 ポテンティアやワルツたちは、ジョセフィーヌのその発言を予想しており、彼女がもしも相場よりも高い金額で買い取ると言い出した場合は遠慮する、という方針を共有していた。ゆえにポテンティアがジョセフィーヌに対して再考を提案した際に、身内から苦言が出ることはなく……。皆、静かに、ジョセフィーヌの返答を待っていたようだ。


 対するジョセフィーヌも、ポテンティアたちが気を遣っていることは分かっていたようである。彼女としては、ワルツたちに恩義があるために、できるだけ便宜を図りたいと考えていたようだが、恩人たちに負担を掛けてまで考えを押しつけるつもりは無く——、


「……分かりました」


——大人しくポテンティアの説得を受け入れることにしたようだ。


「ですが、相場の範疇の中で、できるだけ高い金額で買い取らせていただきます。ただ、流石に私だけでは金額を見積もることは出来ませんので、業者にお任せする形になりますが、お時間はよろしいでしょうか?」


『えぇ、もちろんですとも』


 ポテンティアが首肯を返す。このとき彼は、また後日、公都に来るように言われるものだと考えていたようである。業者に頼んで見積もりを取ってもらうには、召使いを走らせて商人に連絡を取り、商人のアポを取って、登城の日にちを決め、それからようやく見積もりを取る、と経なければならないからだ。どんなに急いでも明日以降となるはずだった。


 ところが、ジョセフィーヌは驚きの言葉を口にする。


「では、今から業者をお呼びしますので、少々お時間を下さい」パンパン


 どうやら、今日中に片を付けるらしい。権力の成せる業、といったところだろうか。


 彼女が手を叩くと、侍女が応接間に現れて、ジョセフィーヌから耳打ちをされる。指示を受け取っているらしい。


 その後、侍女はその場から姿を消すのだが——、


   コンコンコン


「失礼いたします」


——3分もしないうちに、商人風の男と一緒に戻ってきた。


 そんな男について、ジョセフィーヌが短く紹介する。


「彼がこの城に出入りしている業者です」


「「「「えっ」」」」


 まさか、3分で呼んできたのか……。ジョセフィーヌの紹介を前に、ワルツたちが困惑している中、商人の男は慣れた様子で恭しく頭を下げる。


「ご紹介に与りましたカッパー商会のドエルという者です。本日は、木材の買い取りをご希望と伺いましたが、お見積もりのために、2、3、お話をお伺いさせていただけますか?」


 どうやら本当に商人だったらしい。いったいどういう方法を使って商人を連れてきたのか……。皆、聞きたかったようだが、ポテンティアは敢えて問いかけなかった。彼には予想が付いていたのだ。


『(マリアンヌさんだけが驚いていないところを見ると、お城には、所謂お抱えの商人が常駐に近い状態で登城されているのですね)』


 ミッドエデンであれば、入札制度を導入しているので、お抱えの商人というものは存在しない。しかし、それはミッドエデンが特殊なだけで、一般的な国では、特定の商人が城へと頻繁に出入りしているのである。


 そのことに気付いたポテンティアは、表情を変えることなく、商人とのやり取りを始めた。


『えぇ、よろしいですよ?現物を持ってきましたので、せっかくですからそれを見ながらお見積もり頂いた方がよろしいのでは?』


「おや?実物があるので?それでしたら、すぐにお見積もりが出来るでしょう」


 そんなやり取りを交わした後、一行は、木材が置かれた広場へと移動した。


 そして、ドエルと名乗った商人が、中庭に積まれた木材を見た途端——、


「んなっ?!」


——彼はどういうわけか、これ以上ないくらいに目を見開いたのである。


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