14.13-42 宿題発表 2
「魔法の衝突とは面白いことを考えましたね。しかし、魔法の大小によっては、相殺されたり、片方だけが打ち勝ったりするのではないのですか?」
まったく同じ出力の魔法をぶつけ合うことは難しい事である。原理的には可能かも知れないが、機械が制御するのではなく、人が魔法を緻密に制御しなければならないのだから、困難を極めると言わざるを得なかったのだ。実際、ルシアが、自分の意思で魔法同士をぶつけ合った際には、必ずどちらかの魔法が強くなりすぎて、爆発していたのである。その困難さを知っていたためか、マグネアは思わず問いかけてしまったらしい。
対するアステリアは、特に困った様子もなく、淡々と返答する。そう、彼女はマグネアのその質問を想定していたのだ。しかもその内容は——、
「もちろん、工夫をしております。具体的な方法は申し上げられませんが、魔法の強さ、速さ、衝突時の角度など、可能な限り魔法の条件を合わせて実験を行っております」
——と、テレサの言霊魔法についての説明は明かさないという配慮までしているものだった。
そんなアステリアの発言に、ワルツは目を丸くする。
「(アステリアって、こんなに気が利く娘だったっけ?なんか、思ったよりも聡明な感じがするのよね……)」
物事をハッキリと淀みなく、なおかつ胸を張って発表するアステリアの姿は、ワルツにとっても輝いて見えていたらしい。堂々とした振る舞いというのは、ワルツには無縁なものだからだ。
それ以外の者たちの反応は、人様々だったが、どういうわけかマリアンヌは、ワルツと同じように驚いている様子だった。彼女が驚いていた理由は不明だが、もしかすると、かつて、アステリアのような人物に会ったことがあるのかもしれない。
対するマグネアは、顎に手を当てると、研究者らしく考え込む。アステリアの発言を疑っているわけではない。アステリアの発言を真として捉えて、その上で応用魔法学の発展に繋げられないかと考えたのだ。……もしも各種魔法が同じ条件、同じ強さで放てるというのなら、どれほどの実験が出来るのか、と。
そして彼女は、ふと気付く。
「……!(あぁ、なるほど!自動杖を使えば再現できるのですね!)」
マグネアは内心で、自動杖で作り出した魔法同士をぶつければ同じ実験が出来る、と思い付いた。
その後で彼女は、再びアステリアの方を向く。
「とても興味深く面白い発表内容でした。今後の研究に生かすために、その知見を利用してもよろしいでしょうか?」
どうやらマグネアは、自分の研究の題材として、アステリアたちの宿題の内容を活用するつもりらしい。
対するアステリアは、マグネアに返答することなく、そのままワルツに向かって視線を向けた。流石に自分一人では判断できなかったらしい。
そんなアステリアの視線に気付いたワルツは、冗談交じりに返答する。
「んー、まぁ、良いんじゃない?内申を上げておけば、自動杖の技術を教えて貰えるかも知れないし」
ワルツの素直すぎる発言を前に、アステリアは苦笑を浮かべた後で、マグネアに対してこう答えた。それもストレートに。
「……活用することに問題はありませんが、代わりに自動杖の技術を教えて下さい」
その瞬間、ワルツがギョッとした表情を浮かべる。まさか、自分の適当な発言を、アステリアが活用して代弁するとは思わなかったのだ。
対するマグネアも、目を見開いていた。まるで、自分の内心を見透かされたような気がしたのだ。アステリアたちの発表内容をマグネアが引き継いで研究するには、実験条件を合わせるために自動杖の存在が不可欠。発表内容を活用する対価として、自動杖の技術を提供するよう言われるというのは、あまりにタイミングが良すぎたのだ。
結果、マグネアは表情を曇らせた。
「……考えさせて下さい」
今度はマグネアの方が判断できなかったようだ。自動杖の技術は、レストフェン大公国の国家機密。彼女の意向だけで勝手に決められるものではなかったのだ。
それからも宿題の発表会は続いた。どの発表も尖った内容が多く、マグネアは終始、嬉しそうな様子だった。
しかしやはり、マグネアとしては、アステリアの発表が気になっていたらしく……。教室からの去り際、後ろをチラリと振り向くマグネアの表情は、とても残念そうな色に包まれていたようだ。
騎士科の学生「魔法の分類も筋肉で解決出来ます!」キリッ
学院長「(ちょっとなにいってるか分かりませんね……)」




