14.13-41 宿題発表 1
ワルツの説明を聞いて、混乱するマグネアだったものの、どうにか我を取り戻して、彼女なりに納得しようとする。
「……やはり、ミッドエデンの力を使って、森を切り開くというわけですね」
新たな道を作って、地図上で真っ直ぐになるよう道を作るのだろう……。ワルツたちならそれも不可能ではない、とマグネアは考えたようだ。
「んー、ちょっと違いますけど、大体そんな感じです」
実際、ワルツたちは道を作るつもりでいたようである。ただ、その方法はマグネアの想像とは少し異なっていたようだ。そのことをマグネアが知るのは、もう少し先のこととなる。
聞きたいことを聞き終えたマグネアは、午後の特別授業を始めた。内容は昨日に引き続いて応用魔法。今日は宿題の内容を皆で発表し合う予定だ。
宿題は、"属性"という枠組みで分類されている魔法を、別の枠組みで分類できないか仮設を立てて、可能なら実証する、というものだった。ワルツたち以外の特別教室の面々も、ワルツたちと同じように、グループを作って宿題に取り組んでいたらしく、皆、お互いの宿題を指差しながら、どう発表するか最終確認をしているようだった。
そんな中、最初の発表が始まる。
「……では、アステリアさん。発表して下さい」
50音順で最初に名前を呼ばれたのはアステリアだ。ちなみに、50音順で最後に来るのはワルツなので、イニシャルの最初から初めても、最後から始めても、結局、最初に当たるのはワルツたちだったりする。
「は、はいっ!え、えっと私は……ワルツ様、ルシア様、テレサ様、ポテンティア様、そしてマリアンヌ様と協力して宿題を行いました」
最初に当てられるアステリアだったものの、どこかの誰かのように挙動不審にはならず、落ち着いた様子で宿題の内容を話し始めた。アステリアがグループメンバーを読み上げると、マグネアが手元のメモ帳に名前を記入していく。
「私たちが考えた分類は、魔法の属性を見直し、属性という枠組みを整理した上で、再分類を行うというものです。旧来の分類では、火魔法や氷魔法といった主観的な現象による分類が一般的でしたが、私たちは、主観的では無く、魔法の性質に着目して、属性を分類できないかと考えました。例えば、火と氷は、"温度"の方向がプラスかマイナスかの違いでしかなく、"温度"という性質だけを見るなら、まったく同じ魔法だと言えます。逆に、土魔法に分類される魔法は、土を造形する魔法と、土を消滅させる魔法の2つを一緒くたにしています。火魔法や氷魔法と同じように考えるなら、土生成魔法と土消滅魔法という2つの魔法に分類できるはずです。このように、旧来の分類は、正しく魔法を分類しているとは言い難く、矛盾をはらんでいるので、新たな分類が必要だと考えたのです」
アステリアは詰まることなく、スラスラと説明を続けた。そんな彼女の説明の内容にマグネアは目を丸くし……。そしてクラスメイトたちも、思わず聞き入ってしまっていたようだった。
そして、ワルツもまた驚いていた。
「(私じゃあんな風に説明するのは無理ね……)」
コミュニケーションに難のある彼女にとって、人前でスラスラと考えを述べる事は不可能。途中でしどろもどろになるか、言葉が出てこなくなるか、あるいは説明が極端に短くなってしまうのである。ところが、アステリアにはそれがなく、言いたいことを堂々と説明していたので、ワルツは驚いてしまった、というわけだ。
周囲の者たちが驚いている様子を知ってか知らずか、アステリアの説明は段々と深く掘り下げられていく。
「同じ性質を持った魔法を分類するために、私たちは魔法同士をぶつけるという手法を考えました。例えば、火魔法と氷魔法であれば、温度を制御する魔法ですから、ぶつけ合えば相殺されて消えてしまいます。……こちらがその衝突結果の表です。皆さんに共有できないことが残念ですが、結果と考察を要約しますと——」
アステリアが説明した内容は次のようなものだった。
・火魔法と氷魔法は、消滅するので同じ性質の魔法と言える
・転移魔法は転移魔法同士で発動の妨害ができる
・土魔法、水魔法、風魔法は、それぞれを衝突させると発動を妨害できる
・転移魔法と、土魔法、水魔法、風魔法を衝突させても発動を妨害できる
・よって、土魔法、水魔法、風魔法は、転移魔法の一種である可能性が高い
・雷魔法は、どの魔法と衝突させても爆発するので、どの魔法の性質とも異なる
・光魔法は、どの魔法と衝突させても爆発するので、どの魔法の性質とも異なる
それらを要約すると——、
「……となるので、まとめますと、今まで取り上げてきた各種魔法は、温度を操作する魔法、転移魔法、雷魔法、そして光魔法の4種類に分類できると考えられます」
——火魔法、氷魔法、水魔法、土魔法、風魔法、雷魔法、光魔法、転移魔法の8種類の魔法は、見方を変えれば、たったの4種類の性質で説明できる、というわけである。
そんなアステリアの説明を聞いたマグネアは、しばらくの間、ポカーンと口を開けて固まったようだ。アステリアの説明に、相当の衝撃を受けたらしい。
しかし、間もなくしてマグネアは正気(?)に戻った。そして彼女は、キラキラとした表情をアステリアへと向け始めたのである。
性質を考えるのに、まぁまぁ時間を費やしたのじゃ。




