14.13-40 伐採作業(改)5
ワルツたち、特別教室のメンバーが、大量の大木を伐採したという情報は、当然、学院長であるマグネアも知っていた。当然である。グラウンドに積み上げられた大木は、無視できるような量ではないからだ。
ゆえに、マグネアは対応を悩んだようである。ワルツたちがやり過ぎなのは確か。しかし、伐採するように指示を出したのは自分であり、怒るというのは筋違いで、むしろ、褒めるべきなのではないか……。現時点のマグネアには、怒るべきか、褒めるべきか、あるいは別の選択肢を選ぶべきか、判断が付けられなかった。
結果、彼女は思考を改める。怒るにはどうすべきか、あるいは褒めるにはどうすべきか、その判断材料をワルツたちへと求めることにしたのだ。
◇
午後の授業。今日も、特別講義としてマグネアが教鞭を振るうことになっていたので、彼女は特別教室へと足を向けた。
そして授業を始める前に、早速、ワルツたちへと問いかける。
「ワルツさん。外の大木の山ですが、どうするおつもりですか?……あぁ、聞き方が悪いですね。伐ったことに問題はありませんが、現状のままでは、他の学生たちがグラウンドを使うことが出来ません。スケジュールを教えて下さい。いつ、あの大木をどうするのか、教職員と計画を共有します」
その事務的な問いかけに、ワルツは一瞬、ドキッとした。どうするつもりなのか、と聞かれて、怒られるのではないかと身構えたのだ。
しかし、よくよく話を聞いてみると、スケジュールを聞きたいだけなのだと気付いて、ワルツは落ち着いて返答を始めた。
「まず、大木1本分ですが、乾燥させて製材したものを、今日、公都まで売りに行ってこようと思います。そのついでに、販路の確認をしてくる予定です。本格的な売却は、明日以降になる予定です。スケジュールが決まり次第、報告します」
と、説明するワルツだったものの、マグネアには気になる事があったようだ。
「なるほど。では、本日の結果を明日聞かせて下さい。しかし、どうやって運ぶつもりですか?あれだけの量の木材となると、例え1本でも、馬車でどうにか出来る重さ、大きさではないと思うのですが?ましてや、公都までは馬車でも3日以上掛かります。今日中に売却するというのは困難だと思えてなりません」
トラックも鉄道も無いこの世界において、大量の物資を運ぶには、相当量の馬車を使うか、あるいは時間を掛けて何往復もして運ぶ必要があるはずだった。
対するワルツは深く考え込む。
「(やっぱり、運送の方法についても、ルシアとかポテンティアとか、その辺の協力を仰いじゃいけない感じなのかしら?)」
ミッドエデン関係の力は使わずに、特別教室の学生たちだけで輸送しなければならないのだろうか……。ワルツは、マグネアの言葉の副音声を考えようとした。声に出して確認すればそれで終わるはずだというのに、彼女は自分の首を絞めるようにして選択肢を絞っていく。
結果、ワルツは、カオスな選択肢を選ぶことになる。そこに至る前に、ワルツは前置きを口にした。
「……まず、最初の1本。今日、運ぶ分については、転移魔法で運んでしまおうと思います」
それ自体は、ワルツたちにとっては何と言うことはない発言だったが、世間一般的には転移魔法で巨木を運ぶなど不可能。それゆえか、教室の中にざわめきが広がった。
しかし、本当のカオスはここから始まる。
「明日以降に運ぶ分については、取引を行う町に向かって直通経路を新たに切り開いて、短時間で運べるように工夫する予定です。台車を何にするかは決めていませんが、多分、鉄道になると思います」
シレッと"鉄道"という言葉を使うワルツを前に、再び教室の中がザワついた。鉄道とは何か、直通経路を切り開くとは何か、それを短時間で行うとはどういう意味なのか……。ワルツの言葉の一言一言が、その場にいた者たちには理解出来ない内容だったのだ。
一方、マグネアは、学生たちよりも冷静だったこともあり、ワルツの発言を前にしても、大きく混乱することは無かった。今は"鉄道"という言葉が分からずとも、明日以降になれば明らかになる上、学院に害が無いのは確実だからだ。
ただ、学院にとって大きく影響がありそうな発言については、引っ掛かっていたようである。
「なるほど……ひとつ、質問です。直通経路を切り開くというのはどういう意味でしょう?」
世間一般的には、途中の村に止まることなく、ノンストップで町に向かうことを、"直通"と言うのである。しかし、それは時短のための無茶でしかなく、危険性が増えるばかりで、メリットと言えるものは何も無いはずだった。
ゆえにマグネアは疑問に思ったのである。……そこまでして急ぐ必要はないのではないか、と。
しかし、ワルツの認識は違った。そもそもの意味からして違った。
「えっと、文字通り、取引先の町まで、直線の道を切り開こうと思います」
「……はい?」
ここまで冷静に思考していたマグネアの常識を、カオスが容赦無く蹂躙した。




