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14.13-37 伐採作業(改)2

 そして、30分後。特別教室の学生たちの姿はグラウンドにあった。


 そこには、先に作業を進めていたテレサたちのほか、ワルツたちの姿もあって、ちょうど準備を終えようとしていたようである。そんな彼女たちの手元には、10台の機械が置いてあって、それが伐採のための道具だったようだ。


 その道具は、当然ながら鋸ではない。ミシンのボビンを大きくしたようなドラムが、油圧で回転するようになっているウィンチだ。


 いったい、それを使って何をしようと言うのか……。そもそもウィンチというものを知らない学生たちには、想像することすら難しかったらしく、皆、ザワザワと疑問を口にするばかり。


 そんな中、ワルツが、こんなことを口にする。


「アステリアとマリアンヌ?ちょっと実演するから、手伝ってもらえない?」


「あ、はい」

「ええ、良いですわよ?」


 特別教室の学生たちの中から、2人が前へと歩み出る。


 そんな2人は、ワルツからウィンチを受け取ると、言われたとおりに大木へと向かった。そして、ウィンチに巻かれていたワイヤーを引っ張って……。そして気付く。


「「えっ……糸?」」


 ウィンチには極細の糸のようなものが巻かれていたのだ。


 2人の疑問にワルツが答えた。


「それ、ただの糸じゃなくて、鋼線ね。鉄の糸。本当は、単分子ワイヤーを作りたかったんだけど、扱いが面倒臭いし、危険だし、それに作るのも面倒臭かったから、強化したピアノ線を使うことにしたのよ。弱そうに見えるけど、ルシアが強度面でフルエンチャントしたやつだから、無茶苦茶強いわよ?ワイヤーの端を持てるように金具を付けておいたから、それを持って引っ張ってね?じゃないと、手を切る……っていうか、多分、指が落ちるから」


 と矢継ぎ早に説明するワルツを前に、アステリアもマリアンヌもポカーンと口を開けて固まる。ワルツの言葉が分からず、呪文に聞こえなかったらしい。


 しかし、2人はすぐに我を取り戻して、言われたとおりにワイヤーを引っ張っていく。具体的には、マリアンヌがウィンチを固定して、アステリアがワイヤーを引っ張る、といった分担作業だ。この時点で、2人は何となく、道具の使い方を予想出来ていたようだ。


 それからアステリアは、ワイヤーを引っ張って、大木の周りをグルリと回った。そして1周して、ウィンチの反対側のフックに、ワイヤーの先端を固定する。


「そうそう。それでいいわ?で、後は、ウィンチに付いたレバーを上下させるの。せっかくだから……誰か非力な人にやってもらいましょうか」


 ワルツはそう言うと、後ろを振り向いた。アステリアにしても、マリアンヌにしても、少々常識を外れた筋力を持っているので、デモンストレーションには向かないと考えたのだ。


 結果、彼女は、テレサの方を向いて、なぜか訝しげな表情を浮かべた後、ルシアを通過して、そして、ある人物に目を向ける。


「ハイスピア先生」


 ワルツが視線を向けた"非力"な人物はハイスピアだった。一見する限り筋力が付いているようには見えない彼女なら、学生たちとそう大差は無いと考えたらしい。


「わ、私ですか?」


「えっ……怪力なんですか?」


「えっ……いえ、多分、普通だと思います」


「人選間違えたかな……まぁ、いっか。じゃぁ、ハイスピア先生。このレバーを何度も上げ下げしてみて下さい」


「あ、はい」


 非力と言われてあまり気分は良くないハイスピアだったが、ワルツに言われたとおりに、大人しくレバーの上下を始めた。すると、ウィンチに取り付けられているドラムが少しずつ回る。


「あっ、これ面白い……」シャコシャコ


 殆ど力を入れず、レバーを上下させるだけで、ウィンチはゆっくりとだが、確実に回っていく。そしてついには、鋼線がピンッと張るところまでドラムが回った。


 しかし、それからも、レバーを操作する力に変化は無い。もちろん壊れたわけではない。


   ミシミシミシミシ……


 鋼線が、殆ど抵抗もなく、大木にめり込み始めたのだ。

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