14.13-35 危険物6
『ははは』キラッ
「うふふ」キラッ
「……なにあの異界……」
待ち伏せしていた学生たちとの話し合い(?)に出かけたポテンティアとマリアンヌが戻ってくる。2人はとても嬉しそうな様子で、腕を組んで笑っていたわけだが、2人共が美形だったこともあり、異様な明るさが2人の事を包み込んでいたようだ。
嬉しそうに歩く2人の姿を見たワルツは、その異様さを前に、待ち伏せをしていた者たちよりも別の意味で警戒してしまったようだが、2人が親しい知り合いだったこともあり、そのまま彼らの事を迎え入れる。
「どうだった?」
『待ち伏せていた理由を問いかけたところ、やはり僕たちのことが気に食わなかったようで、直接文句を言おうとしていたようです』
「うわ……やっぱり。でも、そんなこと良くそんなことを正直に話したわね?彼ら」
「そこは私の魔法の効果ですわ?」
「うわ……かわいそう。有無も言えなかったんでしょうね……きっと」
無理矢理に口を割らされただろう学生たちの事を慮って、ワルツは嫌そうに目を細めた。
「それで、彼らは?」
『もう、二度と、僕たちには近付かせない……と、話を持っていきたかったのですが、そこは失敗してしまいました』
「え゛っ」
「説得しようとしたら、力加減を間違えてしまいまして、今度は私たちの親衛隊になると言って聞かなくなったのですわ?」
『まぁ、困るわけではありませんし。ははは』
「まぁ、困るわけではありませんものね。うふふ」
「あ、うん……そう……」
一体何をどう間違えて説得したら、敵対的な思考が、真逆を向くのか……。ワルツは内心で頭を抱えるが、詳細を詳しく知りたくなかったらしく、それ以上、話を掘り下げようとはしなかった。
それから一行は、再び学院へと歩き始める。すると数分で校門に到着したわけだが、そこでワルツたちは——、
「「「おはようございます!」」」ビシッ
——なぜか軍隊式の敬礼を受ける事になる。
その様子を見ていたワルツは、ポカーンと口を開けて唖然とした。想像していた展開とは、斜め上の方向に異なっていたからだ。
それでも、ワルツはその場で足を止めない。足を止めれば、文字通りに目の色を変えた上級生たちが、あれやこれやと質問攻めにしてくる——そんな気がしていたからだ。
結果、早足で校門を通過するワルツだったものの、校門前で衛兵代わりに立っていたジョセフィーヌの近衛騎士からもビシッという敬礼と朝の挨拶が飛んでくる。そんな2段構え(?)の敬礼に、ワルツはかろうじて挨拶を返すものの、それはまだ序の口。
ビシッ!
ビシッ!
ビシッ!
「ちょっ……どんだけ効果範囲が広いのよ……」
学院の敷地内を歩いて、特別教室へと向かう間、何十何百という学生が、皆次々に敬礼と挨拶をしてくるという事態に、心底うんざりとしてしまう。
そして、特別教室に到着した時点で、ワルツはすぐさまマリアンヌの方へと振り返って、そして詰め寄った。
「ちょっと、マリアンヌ。これ、やり過ぎ。学院長にバレたら絶対、怒られるわよ」
「あら。でしたら、この際、学院長も——」
「やめておきましょう?他の学生たちも同じよ?絡まれたくはないけれど、そこまでして味方は作りたくないわ?っていうか、なんか学生たちの反応が気持ち悪いのよ。不自然が過ぎるというか、少し反抗的なくらいが丁度良いというか……」
「はあ、そうですか……。ワルツ様がそう仰るのなら、止めておきますわ」
マリアンヌはワルツの言葉に相づちを打つと、空中で何かを掴むような素振りを見せた。どうやら、臭気魔法の展開を止めたらしい。
その様子を見て、ワルツが零す。
「その力があれば、一国を乗っ取ることも、世界征服することも、簡単にできるのでしょうね……」
対するマリアンヌは、首を横に振った。
「いいえ、そう簡単ではありませんわ?世の中には臭気魔法が効かない方もおりますもの。ワルツ様だってそう。もしワルツ様に臭気魔法が効いていたなら、こうして一緒に学院に登校することも無かったはずですもの」
「私たちは……まぁ、そうね。確かに、そういう例外も世の中にはいるのかも知れないわね。あとは、単に鼻が詰まっている人には効かない、か」
「それもそうですけれど、ある一定以上の大きな魔力を持っている方には効きにくい傾向がありますわね。とは言っても、そういった方は殆どいないのですけれどね。でも、きっと、ワルツ様はそのせいで臭気魔法が効かないのですわ?」
「あ、うん……(ごめん、マリアンヌ。私、魔力持ってない……)」
ワルツは余計な事を言わずに、そのままマリアンヌから目を逸らした。そんな彼女の行動が、マリアンヌから見てどう見えていたのか、詳細は不明だが、ワルツが視線を逸らした後も、マリアンヌはワルツに対し、なぜか熱を持った視線を向けていたようである。
サブタイトルなのじゃが、危険物というか、どちらかと言えば危険人物、かの?




