14.13-34 危険物5
先を歩いて行ったポテンティアとマリアンヌが、待ち伏せしている者たちと話を付けるのを待っている間、ワルツは2人の背中を見送りながら、ポツリと零した。
「目立たない方法って、何か無いかしら……」
ワルツのその独り言を聞いて、その場にいた全員が一斉に反応する。
「無理じゃないかなぁ?」
「無理なのじゃ」
「難しいと思います」
「まぁ、無理よね……」
彼女たちの行動は、一つ一つが目立ってしまうのである。目立たないことを考えるなら、何もしないことが唯一無二の選択肢だが、当然、何もしないなど不可能なこと。ワルツも他の者たちも、黙っているなど不可能なのだから。
「もう、何やっても目立つって言うんだったら、いっそのこと、自重しないでやっちゃう?」
「……つまり、学院に、お寿司屋さんを連れてくるってこと?」
「ア嬢。一番自重していることが寿司屋というのはどうかと思うのじゃが?」
「自重しない……。自重しない……?(ってなんだろう……)」
「ミッドエデンから寿司屋を連れてくるのは、やり過ぎかな、と思うけれど、新しい寿司屋を勧誘するのは良いんじゃない?いっそのこと、学院の周りを切り開いて、町を作るとか。どうしてこんな場所に学院を作ったのかは分からないけれど、あまりに辺鄙すぎると思うのよね」
ルシアの発言にワルツが返答すると、ルシアは考え込んだ後にこう口にした。
「じゃぁ、町、作っちゃう?」
彼女の魔法を使えば、学院の周りに建物を作ることくらい造作も無いことだった。それこそ、文字通り一瞬で実現してしまうことだろう。
しかし、話はそう簡単ではなく、問題が起こる可能性は極めて高かった。
「ルシアが町を作ったら、また学院長に怒られちゃうわ?特直接的に町を作るのもそうだけど、おそらく整地したりしてもダメね」
「じゃぁ……間接的にやる?私たちが町を作らなければ良いんだよね?」
「(間接的?あぁ、学生を使って整地するのね。まぁ、道具を渡して森を拓かせるっていうのはアリって言えばアリだけど、でも難しいわね。危険だし、ただ木を切れば良いってだけじゃないし、学院長に知られたら止められるかも知れないし……)」
せっかく、特別教室の学生たちに、大木の伐採作業をさせているのだから、彼らを使って森を拓かせることはできないか……。ワルツは真剣に検討したようである。自分たちだけが目立っているのだから、今回のように絡まれることになるのである。なら、クラスメイトたちにも目立ってもらえば、他の学生たちからの注目を分散させられるのではないか、というわけだ。
「(さりげなく、ポテンティアに伐採作業を手伝ってもらう?それともルシアの魔法を使って支援する?……いえ。出来れば、学生たちだけでやってもらいたいわね。そうじゃないと、風よけにならないし……)」
ワルツは顎に手を当てて考え込んだ。ルシアたちも、深く考えている様子のワルツのことを、ジッと静かに見守る。
そして——、
「まぁ、私たちが手を出さないなら、出来る事なんて限られるわよね」
——ワルツの中で結論が出たようだ。
ルシアが問いかける。
「どうするの?」
「伐採のための道具を作って渡そうと思うの。一人でも簡単に伐採できる感じのやつを、ね」
「「「…………?」」」
「多分、ルシアの力があれば、出来ると思うのよ」
「う、うん……。それは良いけど……何を作るの?」
「一人で伐採できて、安全で、なおかつ静かに伐採できるやつ」
「「「???」」」
ワルツは一体何を言っているのか……。3人ともが困惑している中、ワルツは皆に構うことなく、テレサに手のひらを出す。
「テレサ。無線機を貸して」
そして、テレサから無線機を受け取ったワルツは、とある人物へと呼びかけた。しかし、その内容は、ルシアたちにとって、やはり理解出来ないものだったようである。
「コルテックス。こっちの自宅に、エンチャント用の魔道具を届けてもらえるかしら?」
なぜ木の伐採に、エンチャントが必要になるのか……。ルシアたちは思わず顔を見合わせてしまうのであった。。




