14.13-32 危険物3
「ホント、貴女たちって、仲が良いわよね……」
「えっ?」ぽかーん
「え゛っ……」あぜん
「まぁ、仲が悪いよりは遙かに良いんだけど……」
登校するために、学院へと繋がる真っ直ぐな陸橋を歩きながら、ワルツはルシアとテレサに対して、ポツリと零した。しかし、当のルシアたちは、ワルツの言葉の意味がよく分からなかったらしく、2人ともそれぞれに戸惑っている様子だった。
結果、妙な空気が漂い始めた分けだが、その空気を壊すかのように、ポテンティアが疑問を口にする。
『そういえば、お二人とも、お金はあるのですか?』
「お金なら持ってきたけど……?」
「……ない事はないのじゃ」
『そのお金は、ミッドエデンがある大陸で使えるお金ですよね?こちらの大陸で使えるお金はあるのかなと思いまして』
「んん?ミッドエデンで使ってたお金って、使えないの?っていうか、この前、なんとかって名前の迷宮に行ったとき、テレサちゃんがお金を出してたよね?」
「ラニアの迷宮の?確かに、あのとき出したお金は、ミッドエデンのものだったのじゃ。まぁ、実際に使ったわけではないが、出す分には特に問題は無かったように見えたがのう?」
ミッドエデンやその周辺諸国では、"ゴールド"と呼ばれる貨幣が一般的だった。レストフェン大公国でも、流通する貨幣は"ゴールド"だが、ポテンティア曰く、互換性は無いらしい。
『テレサ様が仰る通り、あのときはゴールドを渡せませんでしたからね……。渡してみたら、実は使えない、という可能性が高いです』がさごそ『これがミッドエデンで使われている金貨で、こちらがレストフェン大公国で使われている金貨なのです。両方とも"ゴールド"という名前なのは同じですが……でも、見て下さい。サイズも違いますし、デザインも違います』
「ホントだ……」
ルシアが興味深げに2枚の貨幣を見比べていると、ワルツも感心した様子でポテンティアの手元を覗き込む。
「1ヶ月くらいレストフェン大公国にいるけど、何だかんだと色々あって、結局、貨幣には触れてなかったから、今まで知らなかったわ。自給自足してるし、無いものがあってもミッドエデンから仕入れているし……」
ワルツのその言葉に、テレサも首肯する。
「妾もすっかり失念しておったのじゃ。どこかに両替商は……無いじゃろうな……」
海洋生物が跋扈する大きな大洋を越えて旅する者は殆どいないためか、レストフェン大公国では国のトップであるジョセフィーヌですら、海の向こうにあるミッドエデンやその他の国の存在を知らなかったのである。ゆえに、両替商がいたとしても、海の向こう側の硬貨を両替できる可能性はほぼゼロ。
「うーん……。どうしよう?テレサちゃん」
お金があっても使えない可能性が高いことに気付いたルシアは、テレサに助けを求めた。
しかし、テレサにもアイディアがあるわけではない。
「どうするかといわれてものう……。ジョセフィーヌ殿に泣き付いてみるかの?」
「それは……ちょっとどうかと思うかなぁ……」
まさか、"可愛いもの"を買いに行くためにお金が欲しい、などと言えるわけがない……。ルシアがそんな事を考えていると、マリアンヌから助言が飛んでくる。
「でしたら、学院で伐採した大木を売られてはいかがですの?」
「「……あっ!」」
『元々は、売るために伐採していたのですから、良いのではないですか?流石に、他の皆さんが協力して伐採したものを売り払うのはいただけませんが、最初にルシアちゃんがデモンストレーションで伐採した木材でしたら、売り払っても誰にも文句は言われないと思いますよ?』
「そうだね。うん!そうする!」
これで、午後からの買い物に出かけられる……。そう考えたのかどうかは分からないが、ルシアは笑みを浮かべた。
その際、ポテンティアが彼女の真横で——、
『(この大陸の貨幣で、50兆ゴールドほど持っているのですが、それを使ってはどうかと提案するのは……まぁ、野暮なのでしょうね……)』
——と、身も蓋もないことを考えていたようだが、彼は自称紳士(?)。余計な事は言わないでおくことにしたようだ。
そんなこんなで話をしながら陸橋を歩いて行くと、太い木々に囲まれた学院の姿が見えてくる。……今日も午前中は伐採作業か……。そんなことを考えながら一行が陸橋を歩いていると、学院の校門にチラホラと人が集まっている様子が見えてきた。どうやら今日も、上級生たちが、ワルツたちの事を待ち構えていたようである。




