14.13-27 宿題3
「あの……一応確認ですが、今度は学院長先生に怒られないよう考えて実験するということで、良いんですよね?」
「うむ。今度こそ、妾が言霊魔法で中和するゆえ安心するのじゃ。アステリア殿」
「そ、それでしたら……」
「でもさ……」
「えっ?何かあるんですか?マスター」
「テレサねぇ……良く事故るからねぇ……」
「……え゛っ?」
テレサとアステリア、それにワルツの間で不毛なやり取りが繰り広げられる。実際、ワルツの指摘通り、テレサは物理的に事故を起こした前科(?)があるため、ワルツとしてはあまり信用出来なかったらしい。
しかし、ワルツ自身、魔法の衝突実験には興味があったので、些細な心配は取りあえず横に置いておくことにしたようだ。
「じゃぁ、表を埋めていくから、魔法をお願いね?ルシア」
「うん、任せて!」
「じゃぁ、最初は、火魔法と火魔法。あ、これから言う魔法は、全部、爆発しないタイプのものを使ってね?」
「うん、分かった。じゃぁ、行くよ?」
ルシアはワルツの言葉に首肯した後、虚空に向かって両手を掲げた。その途端——、
ズドォォォォン!!
——と早速、大爆発を起こす。
「……ルシア?爆発しないタイプの魔法って、言ったんだけど?」
「んー、そのつもりは無かったんだけどなぁ……。多分、空気を一気に温めたから、爆発しちゃったんじゃないかなぁ?」
「なるほど……。まぁ、2つの火魔法をぶつけてるわけだし、余計に温度が上がっちゃったのかもね。じゃぁ、"爆"と」
ワルツは表に"爆"の文字を書き入れた。
「じゃぁ、次、火魔法と氷魔法」
「うん。いくよ?」
ルシアが相づちを打った、次の瞬間——、
ドゴォォォォン!!
——再び空中で爆発現象が生じる。
「……ルシア?本当に、爆発しないタイプの魔法を使っているのよね?」
「う、うん……。たぶん今度は、氷魔法で液化した空気が、火魔法で一気に温められて爆発したんだ思う」
「なるほど……。言われて見ればその通りか……。じゃぁ、"爆"と」
それからも——、
ズドォォォォン!!
ドゴォォォォン!!
——と、爆発ばかりが続いていく。
結局、埋まった表の中身は、9割が"爆"の文字で、爆発しなかったのは、転移魔法を使用した項目くらいのものだった。まぁ、転移した先で魔法が爆発している可能性は否定できないが。
「これ……宿題として出すには、ちょっと拙いんじゃないかしら?殆ど爆発してるし……」
「う、うん……。そう、だね……」
見事に並んだ"爆"の文字を見て、ルシアが申し訳なさそうな表情を見せる。強い魔法しか使えないことに、申し訳なさを感じているらしい。
「これはこれで、マグネアが言っていた"個人の癖"ってやつを証明できるのかも知れないけれど、ちょっと思っていた結果とは違うわね……。どうにかならないかしら?」
もっと弱い魔法で衝突実験を行いたい……。副音声でそう口にするワルツだったものの、その場には、ルシアほど多彩な魔法が使える者はおらず、表が埋まる見込みは立たなかった。
もはや諦めるしかないのだろうか……。そんな考えがワルツの脳裏を過った、その時——、
「仕方ないのう」
——石の上に座って傍観していたテレサが、徐に腰を上げた。
「ア嬢。力が欲しいか?」
「いや、力はいらないよ。十分足りてるから」
「……魔法を制御する力なら?」
「そりゃ、あれば良いなぁ、とは思うよ?」
「ならば、妾に身体を委ねるのじゃ」
「えっ?!ちょっ……ちょっとそういうのは、心の準備が……っていうか、皆の前でそういうこと言わないd——」
「……お主は何を言っておる?」
挙動不審になったルシアに対し、テレサはジト目を向けるが、ルシアの口からは説明が出て来る事はなく、だんまりとしてしまう。
そのままルシアから言葉が飛んでくるのを待つのもどうかと思ったのか、テレサは改めて提案を口にした。
「妾の言霊魔法でア嬢の魔法をコントロールすればいいのではないかという話なのじゃ」
「あっ……そ、そう言う意味ね……」
「他にどういう意味があるのじゃ……。で、言霊魔法で操っても良いか?当然、魔力も貰うがの」
「別にそんくらいだったら良いけど?」
「…………」
言霊魔法を使うというと、普段なら、あーだ、こーだ、と五月蠅いルシアが、大人しく従うというので、テレサの眉間には尚更に皺が寄る。どうやら、ルシアが何かを企んでいるのではないかと疑っているらしい。
「今日のお主、ちょっとおかしくないかの?」
「うぇ?いやいや、普段通りだけど?」
「本当かのう?」じとぉ
「ちょっと何言ってるか分かんないなー」
「……まぁ、良いが」
ルシアの行動が何となく白々しい気がしたものの、あまり追求すると報復攻撃を受ける気がしたテレサは、ひとまず思考を停止させて、作業を始めることにしたようだ。
何をするにしても必要になるのは、ルシアの魔力である。テレサ単体では、1日に3回しか言霊魔法を使えないので、ワルツのノートの表を埋めるほどに魔法を使うためには、ルシアから魔力を吸収する必要があったのだ。
ゆえに、彼女はルシアの尻尾に視線を落とした。普段はルシアの尻尾に接吻をして、そこから魔力を吸収するからだ。
しかし、踏ん切りが付かない。
「も、もふっ…………はっ?!いやいや」
「……何やってんの?」
「強いて言うなら、葛藤なのじゃ……」
「は?」
「まぁ、手で良いか」
テレサはルシアの手を取って、その甲に接吻をしようとする。
すると何故か——、
「えっ、手?キモっ」
——ルシアが反射的に手を引っ込める。
「えっ……ちょっ……キモって何じゃ?!キモって!じゃぁ、尻尾の方が良いというのかの?!」
「尻尾も……いや、まぁ、尻尾なら……」もじもじ
「……ごめん、ルシアとテレサ。時間押してるから、早くやってもらえると助かるんだけど?もう夕方だから」
「あ、うん……ごめんなさい」
「も、申し訳ないのじゃ……?(これ、妾が悪いのかの?)」
ワルツの指摘を受けたルシアとテレサは、結局、ルシアの尻尾経由で魔力を譲渡を行い……。テレサ監修の下で、魔法衝突実験を行うことになったのであった。
気持ちの悪い狐。
……それはそれでアリかも知れぬ……。




