14.13-21 特別授業1
ハイスピアの話によると——、
「学生である以上、一定時間の座学を受ける必要があります。それは、特別教室の皆さんも例外ではありません」
——とのことで、午後は座学の時間に充てられることになった。逆に、実技の授業は省略されて、その代わりに大木の伐採作業が行われるのだという。
そんなハイスピアの説明を聞いて、特別教室の生徒たちは2つの反応を見せることになった。ホッとした者たちと、残念そうな者たちの2種類だ。
ホッとしている者たちは、騎士科や魔法科の学生など、体力や魔力を使って伐採作業を行っていた者たちである。慣れない作業を半日ほど繰り返していたので、肉体の限界を迎えていたのである。
一方、残念そう、あるいは物足りなさそうな表情を見せていたのは、薬学科の学生たちだ。双子の姉妹たちはテレサが作った木材運搬車を操縦していただけなので、特に体力は消耗しておらず……。そしてワルツたちに至っては、いわずもがな。体力的な余裕は、薬学科の学生たちが一番残していた。とはいえ、伐採作業を継続したいかというと、そういうわけでもなく、ハイスピアから座学の授業をすると聞いても否やはなかったようだ。
というわけで、午後からは座学の授業が行われることになったわけだが、その内容は特別教室の授業らしく、少し変わった内容だった。
「昨日もそうですが、これから数日間は、授業スケジュールの変更に伴って、変則的な授業内容になります。そのため、専門の授業をしてくれる先生方の都合も付いていません。なので、次の授業は、学院長のマグネア先生にやってきただきます」
「「「!?」」」
一部の学生が、驚いて目を見開く。ミレニアなどはその代表的な例だ。マグネアの孫である彼女にとっては、マグネアが自ら教鞭を執るというのは初耳のことで、しかも自分たちの講師になるというのだから、余計に驚いてしまったようである。
他の学生たちも驚いていたようだが、彼らの疑問は、ミレニアとは少し異なっていた。
「学院長って、専門は何なんだ?」
「まさか……基礎科目の講師?」
「基礎科目なら、ハイスピア先生が教えてくれるはずだから、それは無いな」
マグネアはいったい何の授業をしようとしているのか……。それが気になって仕方がなかったらしい。
そんな学生たちの反応を見ていたハイスピアは、ただニッコリと笑みを浮かべるだけで、答えを教えるようなことはしなかった。敢えて言わないでいる、といった様子だ。もしかすると、マグネアから止められているのかも知れない。
「まぁ、楽しみにしていて下さい。間もなくマグネア先生が来るはずです」
ハイスピアがそう口にしてからマグネアがやって来るまでの間、教室の中は騒然となる。中には、マグネアがどんな授業をするのか、当ててみようと言い始める学生までいたようだ。
そんな中、テレサたちも、騒然としていたようである。ただし、クラスメイトたちとはまったく異なる内容で、だが。
「やはりおらぬ……」
「それっぽい人は……うん、いないね」
テレサもルシアも、未だにフィンを探していたのだ。食堂から皆が帰ってきた今なら、フィンも教室に帰ってきているはずだと2人は予想を立てていたようだが、どうやらフィンは教室には戻ってきていないらしい。
「ふむ……ちなみに、教室の中には何人おる?」
「何人いるか?なんで?」
「この教室には、25人の学生がおるはずなのじゃ。先日の迷宮探索の際、グループ分けをして、24人おったのは確認しておるのじゃ。そこに新しく入ってきたマリアンヌ殿の事を追加すれば、25人おる。その中にフィン殿が含まれておらぬというのなら、あやつは26人目の学生になるのじゃ」
「……つまり?」
「……教師が認知しない学生……」
「それ、幽霊じゃん!」
「いや待つのじゃ。そう決めつけるのは早すぎるのじゃ。あやつが作ったものが実体として残っておるゆえ、あやつを幽霊とするには、まだ早すぎるのじゃ」
「…………」
取り乱しそうになったルシアは、テレサに宥められて、ひとまず落ち着きを取り戻した。そう、彼女は、幽霊の類いが苦手なのである。
慌てるのは、クラスの中に何人いるのか数えてからでも遅くはない……。そう考えたのかどうかは定かでないが、ルシアが教室を見渡して、学生が何人いるのかを数え始めた——そんな時のだった。
ガラガラガラ……
教室の扉を開けて、マグネアがやってきたのである。




