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14.13-21 大森林21

「あぁ……こんなにも調子が良い日は、生まれて初めてですわ!」


 教室での昼食時。マリアンヌが徐に、そんな事を口にした。昨日、カタリナから受けた治療のおかげで、早速、魔力欠乏症が改善した——と彼女は思っているようだが、実際には治療とは無関係だったりする。


 そんな彼女に対し、ワルツが首を横に振る。


「それは多分、プラシーボ効果ってやつね。気のせいよ?気のせい。治療の効果が出てくるのは、今、マリアンヌの身体を構成する細胞が新しい細胞に生まれ変わった後になるはずだから、早くても2週間後とか、それくらいは掛かるはずよ?」


「そうなのですか?サイボウというものがどういったものかは存じませんけれど……ということは、今日みたいに調子が良い日が、これから毎日起こる、ということですのね!」


「中々にポジティブな思考(シンキング)ね……」


 基本根暗なワルツとしては、前向きな状況の中で更に前向きな思考を持つマリアンヌのことが眩しく見えていたらしく、思わず目を細めてしまったようである。


 ちなみに、表情が明るかったのはマリアンヌだけではない。クラスメイトたち全員の顔が明るかった。


 理由は単純。皆、大木を伐採するという作業に参加し、自分の力を発揮できたので、それなりの達成感を持っていたからだ。


 その内、教室の中で弁当を食べていた者は半分以下の人数。それでも皆の表情は明るかった訳だが、例外的に険しい表情を浮かべながら、キョロキョロと周囲を見回すなどして、不審な動きを見せている者が2人いた。


「……教室で食事をしてるわけじゃなさそうだね?」

「食堂派か……。しかし、あやつ、食堂のおばちゃんに相手にしてもらえておるのだろうか……いや、もしや、食堂のおばちゃんを介さずに、直接食事を取って食べておるのか……?」


 ルシアとテレサだ。2人とも、錬金魔法が使える謎の少女フィンがどこに行ったのかを探しているらしい。


 ワルツも、ルシアたちがおかしな動きをしている事に気付いていたようだが、関与することは無かったようである。彼女は直感していたのだ。……関わったら、碌なことにならない気がする、と。まぁ、大して当たることのない直感なのだが。


 しかし、ポテンティアには、2人を無視する理由は無かったらしい。


『お二人とも、どうかされたのですか?』


「えっとね……テレサちゃんとアステリアさんが、幽霊を見たらしいから、退治しようかと思って探してるんだよ」


「ちょっ?!」

「あやつが本当に人間だったらどうするつもりなのじゃ?!」


「んー……退治した後で、回復魔法で元に戻す?」


「……前から思っておったが、ア嬢は思考が過激なのじゃ。フィン殿は、ただ妾たちに力を貸してくれただけだというのに、まるでそれを罪かのように扱うというのは、いただけぬのじゃ?」


『話がよく分かりませんが……誰か、ルシアちゃんの知らない方がいて、その方がテレサ様と仲良くしていたので、ルシアちゃんが嫉妬してしまった、と言うことですね?』


「「はぁ?!」」


 テレサとルシアの声が重なる。それも、抗議の色を含んだ声だ。


「し、嫉妬なんてしないもん!テレサちゃんなんて、錬金術の材料になっちゃえばいいんだよ!」

「……それ、シャレにならないゆえ、冗談でも言わないで欲しいのじゃが?」


『まぁ、嫉妬というのは冗談ですが……誰かを探しているというのは正しいですか?』


「うん。テレサちゃんが言うに、髪が黒色で、腰まであって、前髪で顔が隠れて表情が見えなくて、背がテレサちゃんくらいしかないかくらい低いんだって?」


「……まるで、妾の背が低いと言わんばかりの発言なのじゃが、ア嬢も()して変わらぬからの?」


「いや、私の方が背、高いし!」

「いや、何を言っておるのじゃ?妾が成長しないと、いつから誤解しておった?」


   ガタンッ


「ポテちゃん、どっちが高い?」

「ポテよ。当然、妾の方が高いじゃろ?」


『そうですね……ほぼ同じですが、強いて言えば…………聞きたいですか?』


「「…………」」すっ


 どちらが高いと聞いておきながら、ポテンティアが本当の事を言おうとすると、スッと椅子に座る2人。どちらの背が高いのか知りたいのは山々だが、逆に背が低いと言われるのは嫌だったらしい。


「「ぐ、ぐぬぬぬ……!」」


『まぁ、背丈なんて、これから伸びますよ。……多分ね』


 ポテンティアはそう口にした後、周囲を見回して……。そして言った。


『申し訳ありませんが、僕はそのような方を見たことはありません。もしかすると本当に幽霊かも知れませんね。……僕みたいに』


「「「……えっ?」」」


『ワルツ様はどう思われます?』


 ポテンティアは、ワルツに対して水を向けた。自分だけでは埒が明かないと思ったらしい。


 対するワルツは、食事を取り終えた後、いつの間にか机に突っ伏していて、両手で耳を塞いでいたようである。彼女の場合、満腹でも眠たくなることはないので、我関せずのポーズ、と言えるだろう。


 そんなこんなで不毛なやり取りを交わしている内に、昼食時間が終わり……。午後の授業の時間がやってきた。午後も伐採作業かと思いきや——、


「午後は特別授業を行います」


——ハイスピア曰く、どうやら別の授業が用意されていたようである。

 

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