14.13-14 大森林14
このままでは、何もしない狐になってしまう……。テレサは内心、焦っていた。自分たち3人以外の全員が、何かしらの作業に従事しているというのに、自分たちだけは何もしていなかったからだ。
第三者から見れば、サボっているようにしか見えず……。だからといって、何か出来る事が無いかと探しても、これと言って手伝えるものは無く——、
「あぁ……妾にも、火魔法とか重力制御魔法とかが使えれば、金属を精錬して、道具を作れるのじゃがのう……。チェーンソーとか、薪割り機とか、パイルバンカーとか……」
——テレサは思わず嘆いてしまった。
するとアステリアが、野生の狐よろしく首を傾げながら、テレサに提案する。
「火魔法でしたら、私、使えますけど……」
しかし、テレサの表情は冴えない。
「アステリア殿の火魔法はちょっと違うのじゃ。お主の火魔法が弱いとは言わぬ。問題はお主の火魔法が爆発するタイプという点なのじゃ。妾は……こう……ジワジワと温めて、金属を溶かすような魔法が必要なのじゃ。お主にそんな魔法が使えるかの?」
「……ちょっと難しいです。なぜか爆発してしまうんですよね……私の魔法……」
最近、アステリアは、魔法を使えるようになったばかりだったこともあり、爆発系の攻撃的な魔法しか使うことが出来なかった。火魔法が使えるからといって、竈に火を入れるようなことをすれば、大怪我をしてしまうのは確実である。
テレサは、凹むアステリアに向かって「まぁ、その内、使えるようになるのを待っておるのじゃ」と言った後、今度はフィンへと意識を向けた。
「フィン殿は、どうなのじゃ?魔法を使えたりするのかの?」
フィンがどの学科の出身なのかを考えながら、テレサは期待せずに問いかけた。テレサはこの時、フィンがどの学科の出身なのか、知らなかったのである。
現状、騎士科の学生8名と魔法科の学生8名が、それぞれ集まって作業をしているので、転校生であるマリアンヌを除けば、あとの残り8人の学生は、全員が薬学科出身のはず……。つまり、フィンも薬学科の学生である可能性が高く、薬学に関する何らかの魔法を使える可能性が高かった。
もしや、と思い問いかけるテレサだったものの、彼女の予想に反して、フィンは何も答えず……。何故かその場の地面にしゃがみ込んでしまった。
「……?何かあったの——」
お腹でも痛いのか……。テレサが問いかけようとした時だった。
バシッ
地面に向けられたフィンの手に、紫電が纏わり付いたのだ。
「「んなっ?!」」
いったい何が起こったというのか……。テレサとアステリアが目を丸くしていると、彼女たちの驚愕を更に深める現象が生じることになる。
バキバキバキ!!
地面から何かが生えてきたのだ。
それは一見すると、土の柱のようなものだった。ただ、グラウンドの土にしては、随分と暗い色をしていて、表面に薄らと光沢があったようである。
そんな柱が地面から30cmほど生えたところで、フィンの手に纏わり付いていた紫電がピタリと止まる。
「テレサがほしかったのは……これ?」
「ま、まさか……」
テレサはフィンと同じようにしゃがみ込み、地面から盛り上がった柱のようなものに手を触れた。
そしてその表面に付いていた土を手で払い落とした後、彼女はただでさえ目を丸くしているというのに、更に目をカッと見開いた。
「き、金属……じゃと?!」
地面から生えていたもの——もとい、フィンが地面に生やしたものは、何かしらの金属。火魔法や重力制御魔法を使わずに、フィンは地面の土から、直接金属を作り出してしまったのだ。
その事実を知ったテレサに、フィンは小さく胸を張って言った。
「わたしが使える唯一の魔法……錬金魔法」
そう、フィンが使ったものは、物質を直接操作して金属を作り出す錬金術の魔法だったのだ。




