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14.13-12 大森林12

「あの……すみません、テレサ様。どなたと話しているのですか……?」


 フィンのことが見えなかったアステリアは、テレサが突然独り言を話し始めたかのように見えていた。最初は冗談かと思ったようだが、テレサの事を観察している限り、相手がいるのは明らか……。しかし、自分には見えず、声も聞こえないというのはどういうことなのか、とアステリアは混乱したようである。もしやテレサは、頭がおかしくなったのではないか、とすら考えたようだ。


 故に、アステリアの本心としては、できれば関与したくはなかったようである。しかし、自分に何らかの話題を振られたときに無視するような形になるのは拙いと思ったらしく、思い切って問いかけたようだ。


 対するテレサは、一瞬、アステリアが何を言っているのか分からなかったようだが、フィンの気配の小ささ——というより、気配の()()を思い出して、アステリアに対して説明する。


「ここに、人がおるのは見えるかの?」


 テレサはそう言って、手を握っていたフィンへと視線を向けた。


 そんな彼女の行動を、何かの冗談かと思いつつも、アステリアはテレサの視線の先に目をやった。それも、何か訝しげなものを見るかのような視線でだ。


 すると間もなくして——、


「お?おぉっ?!」


——と、目を丸くしたアステリアから、女子が出してはいけない類いの驚きの声が上がる。どうやら彼女にも見えたらしい。


「ひ、人が急に現れた?!」


「いや、最初からいたのじゃ?ただ影が薄いだけで……」


 テレサはそう言って、アステリアにジト目を向けて……。そしてふと思い思い出す。


「(そういえば、先日の授業の際、フィン殿の名前は呼ばれていなかったような……)」


 もしや、教師にすら認知されていないのではないか……。いや、そもそも、学生なのだろうか……。そんな疑問に襲われるテレサだったものの、流石に初対面の相手にそのようなデリケートな話を聞くというのもどうかと思ったのか、その疑問を口に出すことは無かった。


 その代わり、別の懸念を口にする。


「のう、フィン殿。一応、聞いておくのじゃが、妾たちのような獣人に……こう……忌避感的なものを(いだ)いておったりせぬか?」


 対するフィンは、テレサの予想とは異なる反応を見せる。


「えっ……なぜ獣人を避けるのですか?」


「なぜって……この国の者たち……いや、この周辺地域の者たちは、獣人のことを嫌っておると聞いたからなのじゃ?それゆえ、フィン殿も、妾に手を引っ張られるのは嫌かと思っての?」


「そんなことは……ないです」


「それなら良いのじゃ。アステリア殿の事も平気かの?」


「大丈夫……です」


 どうやらフィンは、レストフェン大公国の大多数の人々が、獣人に忌避感を抱いていること自体を知らなかったらしい。例えるなら、浮世離れしていると言えるのかも知れない。……色々な意味で。


 一方、アステリアは、ようやくフィンの声が聞こえたのか、再び目を丸くして固まっていたようである。理解出来ない事が起こりすぎて、頭が真っ白になってしまったらしい。


 ちなみに、テレサたちのやり取りは、他のメンバーたちも見ていて、フィンの存在に気付いていたワルツは、一瞥するだけで、すぐに自分の作業へと戻っていったようである。人見知りの激しさが発病(?)したのだろう。


 他のメンバーたちは、アステリアと同じタイミングで、フィンの存在に気付いたらしく、ポカーンとフィンを見て口を開けていたようだ。中でも特に驚いていたのはルシアだ。テレサが突然現れた見ず知らずの少女の手を引っ張っていくという光景を前に、ルシアは無表情のまま尻尾をパンパンに膨らませるという謎行動を見せていたようである。彼女が何を思ったのかは不明だが、何か受け入れ難いものでも見たかのような反応だった。


 対するテレサたちは、身内や他のクラスメイトたちから注目を受けていると気付いていない様子で、そのまま森を抜けて、スタスタとグラウンドの方へと歩いて行った。そこには、既に数本の大木が並べられていて、野次馬も相当数、集まっていたようである。


 野次馬の存在に気付いたテレサは、すかさず幻影魔法を展開した。ワルツほどではないが、野次馬に絡まれるのが面倒だったらしい。


「これで、妾たちの姿は誰にも見えないはずなのじゃ」


 と発言したところで、テレサはふと気付く。


「フィ、フィン殿の姿が見えぬ……」


 手は間違い無くフィンの手を握っているというのに、彼女の姿がまったく見えなかったのだ。アステリアからどう見えていたのかについては、言うまでもないだろう。


 試しにテレサは、幻影魔法を止めてみた。すると、ユラリとフィンの姿が虚空に浮き上がってくる。


「……フィン殿。お主、少しばかり影が薄すぎではなかろうか?」


 いったいフィンは、どういう影の薄さをしているのだろうか……。普通では考えられないフィンの特性に、テレサは思わず頭を抱えるものの、フィンは現状を理解していないらしく……。


「…………?」


 テレサたちの反応を見ても、ただ首を傾げるだけだったようである。


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