14.13-11 大森林11
見たことも無い重機(?)で大木を運んでいく双子のことを見送りながら、特別教室の学生たちは、うらやましげな表情を見せていた。彼らも、使った事の無い道具を使ってみたかったのである。大きな玩具のように見えていた、と言えるかも知れない。
しかし、現在進行形で鋸を使って伐採している騎士科の学生たちも、魔法を使って木を切り倒している魔法科の学生たちも、それぞれ木を切るという役割があったためか、意識が完全に運搬車の方へと向いてしまう事はなかった。皆、自分の役割に責任を持って行動していたのである。
しかし、全員が役割を持っていたかというと、そういうわけでもなく……。皆が一生懸命に作業を進める中、約3名の者たちは、手持ち無沙汰に襲われていたようだ。
「……暇じゃの」
「私にも何か出来る事があれば良いのに……」
1人目はテレサ。彼女に出来る事は、現状何も無く……。たまにワルツから飛んでくる指示に従う以外の時間は、基本的に暇だった。
2人目はアステリアだ。彼女は変身魔法の他に、火魔法や、爆発性の無属性魔法を遣う事が出来たが、木の伐採を行うという場面においては、特に出来る事はなく……。テレサと共に、ボンヤリと皆の伐採作業を眺めるしかなかったのだ。
そして最後の1人。彼女は薬学科の学生らしい。"らしい"というのは、ワルツたちの知らない人物だったからだ。当然、話しかけた事も、話しかけられた事もない。
というのも、ワルツが単に人見知りの激しさを発揮(?)したから、というわけではない。そのクラスメイトは気配が薄く、意識を強く持って知覚しようとしなければ、その存在自体に気づけなかったのだ。
「(あやつ、幻影魔法でも使っておるのか?)」
身体の大部分が機械に置き換わっていたテレサは、その怪しげな人物に気づけていたらしい。そのクラスメイトの異常な気配の小ささに眉を顰めつつも、テレサは声を掛けることにしたようである。
「すこし……良いかの?」
テレサが問いかけた途端だ。
「?!」びくぅぅぅっ
そのクラスメイトの髪が、ぶわっと逆立った。どうやら話しかけられるとは思っていなかったらしく、酷く驚いているらしい。
そんなクラスメイトのことをテレサが宥める。
「まぁ、落ち着くのじゃ。妾は別にお主のことを驚かせようとしておるわけではないのじゃからのう」
テレサが話しかけていたクラスメイトは、テレサと同じくらいの身長で、決して背が高いとは言えない背丈の少女だった。髪の色は黒で、腰近くまで長く、完全に目が隠れるほどに前髪も長かったようである。一人だけ薄暗い森の中に立っていたなら、人ではない何かと見間違えてしまいそうになるような見た目だ。幸か不幸か、気配が薄いので、大騒ぎにはならなかったが、もしも彼女の存在に気づける者がいたとすれば、おそらく悲鳴を上げるか、驚きのあまり腰を抜かしてしまうに違いない。
ちなみに、ワルツも彼女の存在には気づいていたようだが、敢えて声は掛けていなかったようである。もしも彼女が人間ではないとすれば、騒ぎになるのは明白だったからだ。そういった面倒事が苦手なワルツらしい選択である。
しかし、テレサとしては、流石に無視できなかったようである。気配が薄いからという理由で、彼女を作業から除け者にするなど、イジメに他ならないからだ。
「で、話は出来そうかの?」
テレサが問いかけると、少女は2歩ほど後ずさったところで、胸に当てた手をギュッと握り締めて……。そして、意を決した様子で、テレサに向かって返答する。
「わ……わたしのこと……見えるの?」
「そりゃ、見えるに決まっておるじゃろ。それともお主は見えてないと思っておったのか?……フッフッフ。幻影魔法の使い手たる妾が、お主程度の魔法を見破れぬ訳がないのじゃ」
「わたし……幻影魔法なんて使ってn——」
「まぁ、それは冗談なのじゃ。もしやお主は、妾たちと同じく、手持ち無沙汰に苛まれておるのかの?」
「手持ち無沙汰……?えっと……うん……。わたしには……出来る事がないから……」
「ふむふむ……では、丁度良いのじゃ」
ぎゅっ!
「?!」
テレサは気配のしないクラスメイトの手を握って言った。
「何かできることがないか、一緒に探しに行くのじゃ?」
そう言ってテレサは、名も知らないクラスメイトの手を引っ張った。
「ところでお主の名は?ちなみに、妾はテレサ。単にテレサと呼び捨てにするが良いのじゃ。貴族でも何でもないからのう……多分」
「私は……フィン」
「ふむ。では、フィンよ。参るぞ?」
そう言って一方的にフィンと名乗ったクラスメイトのことを引っ張っていくテレサ。フィンの方も嫌がっているわけではなかったらしく、テレサに引っ張られるまま彼女の後ろを大人しく付いていったようだ。
ただ……。そんな2人の後ろにいたアステリアは、終始、筆舌に尽くし難い微妙そうな表情を浮かべていたようである。……そう、彼女には、フィンの姿が見えなかったのだ。




