14.13-10 大森林10
15分後。双子の姉妹の前には——、
「「何……これ……」」
——謎の乗り物が置かれていた。巨大な大木にソリとクローラーを取り付けたトレーラーのような何かだ。ワルツがテレサとポテンティアに作らせたものである。
「何これ、と言われると非常に回答に困るところなのじゃが、一言で言えば……木材運搬用トラック、かの?」
「「トラック?」」
「これを使ってお主たちに木を運んで欲しいというのが、ワルツからの指示なのじゃ。何も難しい話ではないのじゃ?ほれ、妾が使い方を教えるゆえ、見て覚えるのじゃ」
テレサはそう言うと、ハンドルとレバーの付いた座席に座り、膝付近に取り付けられていたロープのようなものをガッと強く引っ張った。
すると——、
ドンッ!ドドドドドッ!!
——車両(?)の前方から、連続的に爆発音が聞こえてくる。
「「五月蠅っ!」」
「ああ?!何を言っておるか聞こえないのじゃ!」
「「ええっ?!何?!」」
「……まぁ、何でも良いが、このレバーが左側のクローラーを制御して、こっちのレバーが右側のクローラーを制御するのじゃ!での!このレバーを両方いっぺんに倒すと——」
ガンッ!ゴゴゴゴゴッ!!
メキメキメキ……!
「こんな感じで走り出すのじゃ!分かったかの?!」
2mほど運搬車を移動させてから、テレサは車両を停止させた。
彼女が操縦した運搬車には、魔道エンジンを搭載されていたようである。先日ラニアの迷宮に出向いた際に、彼女が移動手段として使用していた車両から外して、流用したものだ。
その他、フレームやクローラーなどの金属部品は、つい先ほどポテンティアが加工したもので、元となった材料については地下空間の備品を持ってきたようである。流石に、学院内で精錬作業を行うというのは、皆の支線を集める可能性があったので、気が引けたらしい。
そんな魔道トラック(?)のエンジンを止めたテレサは、車両から降りると、自分よりも背の高い双子の前でニッと笑みを浮かべてこう言った。
「さぁ、今度はお主たちが操縦してみるのじゃ!」
「「えっ」」
「む?嫌かの?そんなに操作は難しくないのじゃが……」
やはり、魔道エンジンの大きな音のせいで、双子に自身の説明が聞こえていなかったのではないだろうか……。そんな不安を感じながら、テレサは双子の反応を待った。一応、自分の作ったものが爆音を生じさせているという自覚は持っていたらしい。
対する双子の姉妹には、やはりテレサの説明が聞こえていなかったらしく、彼女の発言に驚きの声を上げた。
「「ええっ?!」」
ただし、その驚きの声に、困惑の色は含まれていない。
「そ、操作してもいいの?!」
「さ、触ってもいいの?!」
「もちろん良いのじゃ。あまり速くは走れぬが、人を轢かぬように注意するのじゃ?」
「「!!」」ぱぁっ
双子はこれ以上無いくらいに明るい笑みを浮かべて、運搬車に乗り込んだ。その行動に迷いが無かったところから推測するに、やはり自分で運転してみたかったのだろう。
「まず、あの大きな音を出さなきゃだめなんだよね?」
「確か、この紐を引っ張るんだっけ?」
「魔道エンジンのスターターロープなのじゃ。真っ直ぐに引くのがコツなのじゃ?まずは試してみるがよい」
「じゃぁ、私がやる!」ぎゅっ
ポンポンポンポン……
妹(?)の方がロープを引っ張るが、魔道エンジンからはポンポンと小さな音が出るだけで、回転する気配は無い。
その様子を見ていたテレサが「ふふん」と鼻で笑う中、今度は姉(?)の方がロープを握る。
「もっと勢いよく引っ張ってたわ?」
ポンポンポンポン……
「「う、うまくいかない……」」
「まぁ、最初はそうじゃろうな。ほれ、妾に貸してみるが良い」
一旦、姉妹たちを運転席から下ろして、テレサがロープを引っ張った。
その瞬間——、
ドンッ!ドドドドドッ!!
——と一発でエンジンが回転を始める。
「エンジンはこう回すのじゃ!」どやぁ
「「えっ?!」」
「……やはり聞こえぬか……」げっそり
テレサが普段通りの表情を浮かべながら運転席から降りると、彼女に変わって双子の姉妹が運転席に乗り込んだ。
そして——、
「このレバーと」
「このレバーを」
「「同時に押し込むっ、と!」」
ガンッ!ゴゴゴゴゴッ!!
メキメキメキ……!
——双子らしくレバーを2人で操作して、運搬車を前進させ始めた。
「「動いたっ!!」」
「滅茶苦茶嬉しそうじゃのう……何を言っておるのかまったく聞こえぬが……」
ドドドドドッ!
爆音を上げながら動く運搬車にテレサも付き合って……。いよいよ大木の輸送が始まったのである。
その一方で、別のグループも行動を始めようとしていたようだ。大木の伐採作業に付いていけず、手持ち無沙汰に襲われていたのは、双子の姉妹だけではなかったのである。




