14.13-09 大森林9
そして遂に——、
ギギギギギ……
——ジャックたちの鋸によって、大木が傾き始めた。切断が進んでいく内に、自分の重さを支えきれなくなってきたのだ。放っておけば、ドスンと倒れてしまうところだが、そんなことをすれば怪我人が出るかもしれなかったので、ルシアが重力制御魔法を使って、大木の倒れる速度を調整する。
実際、ジャックとラリーは、大木が倒れゆくことに気付いておらず——、
「「うぉぉぉぉりゃっ!」」
ゴリゴリゴリゴリ……
メキメキメキメキ……
——と、大木の根元で、ひたすらに鋸を動かしていたようだ。もしもルシアが気を配っていなかったなら、彼らのどちらかは、倒れる大木に巻き込まれていたに違いない。
そして、ルシアの介入が入ってから数秒後。
ゴリゴリゴリ……バキッ
鋸がついに幹を完全に貫通して、大木の反対側に顔を出した。
「「よっしゃぁ!」」
ジャックとラリーがガッツポーズを取る。普段寡黙なラリーも、嬉しいときは感情を出すらしい。
2人が大木の切断をやり遂げた後は、人員の交代だ。2人の成功を見ていた騎士科の学生たちが、ジャックたちの所に集まって、次のメンバーを決めていく。むしろ、押し合いへし合いの争奪戦である。
そんな様子を眺めながら、ワルツは隣にいた人物へと問いかけた。
「……ねぇ、ポテンティア」
『はい?』
「鋸って……あんなに切れるものだったっけ?」
『さて……どうでしょう?僕自身は鋸を使ったことがありませんが、あの鋸は僕の分体たちが集まって作られたものですからねー』
「あ、うん……そう……」
ワルツは事情を察した。本来であれば、どんなにムキムキのマッチョだったとしても、幹の径が5mもあるような大木を、ものの数分で切断することなど不可能。いったいどうやって切ったのか、とワルツは疑問を浮かべたわけだが、ポテンティアの思わせぶりな発言を聞いて、おおよその想像が付いたようである。
ようするに、ポテ鋸(?)は、その刃の部分が、ただの刃ではなかったのである。表面からレーザーか何かが出ているらしく、大きな抵抗なく木を切断できるようになっていたのである。なお、チェーンソーのように刃が動いていたというわけではない模様。
「まぁ、ひとまず、これで作業が進む見込みは立ったのだけど……でも、これじゃぁ、グループ分けの意味が無いわよね……」
ワルツは誰に向けるでもなく呟いた。現状、大木の切断に成功したグループは、作業が始まる前に決めたグループではなく、学科ごとに集まって作られたグループであり、皆が平等に伐採作業に取り組めるわけではなかったのである。
特に、ワルツたちを除いた薬学科の学生たちは、大木を切る術を持っていなかったので、ほぼ、棒立ち状態。それでも作業は進むが、今の時間は一応授業中なので、例外なく全員が授業に取り組めるべきだったのである。
『皆さんの得意な部分が生かせているので悪くないと思いますが?』
「それはそうなんだけど……でも、ベストとは言えないわよね?ただ見ているだけになっちゃっている学生たちにとっては、苦行以外の何者でもないと思うし……。やる気が無くて突っ立っているっていうなら、まだ分かるけどさ?」
『では、皆さんに鋸をお貸ししますか?』
「んー、せっかく切断以外にも作業はあるんだから、切断に参加できない人たちには、そちらをやって貰いましょ?」
切断以外の作業——すなわち、皮むき、運搬、製材である。しかし、どれも得意不得意がありそうな体力仕事であり、誰もが出来る内容ではなかった。それゆえに、ポテンティアは眉を顰めてしまうのだが、実はワルツも同じ事を考えていて——、
「まぁ、多少は力を貸してあげても文句は言われないでしょ」
——彼女には何やら考えがあったようである。




