14.13-08 大森林8
双子の姉妹から助言を貰ったジャックは、早速、行動に出る。
「ポテ!ちょっといいか?」
『はい、何でしょう?』
「滅茶苦茶大きなのこぎりって……簡単に用意できたりしないよな?」
ジャックが双子の姉妹から受けたアイディア。それは、巨大な鋸を使って木を伐ったらどうか、というものだった。当然、学院には無い代物だが、ミッドエデン出身の誰かに話しかければ、意外とポンと出てくるのではないか……。そんな双子の姉妹のアイディアに、ジャックは出所不明の確信を持っていたようである。
実際、彼らの予想は正しかった(?)。
『あぁ、なるほど。二人で挽くのこぎりのことですね。そのくらいでしたら……』
ポテンティアはそう口にすると、まるで転移魔法陣でも使っているかのように、何も無い地面から巨大なのこぎりを引きずり出した。ポテンティアのマイクロマシンたちを使った巨大な挽き鋸である。
転移魔法陣(?)が発動する光景には慣れていたらしく、最初の内、ジャックは、「やっぱりあるのか」と苦笑したような反応を見せていたようだ。だが鋸のサイズが2mを越えた辺りで口が開き始め、5mを越えたところで言葉を失い、8mを越えて鋸が完成したところで今度は閉口してしまったようである。鋸が想定よりも遙かに大きかったのだ。
「なんだこれ……」
『あれ?もしかして、ご所望のものではない?』
「いや……多分これでいいんだと思うが……これ、どうやって使うんだ?」
見たこともない巨大な鋸を前に、ジャックの思考は大混乱。ただ彼は確信を持って、こう考えたようだ。……一人で使う鋸ではない、と。それほどまでに巨大だったのだ。
ジャックがそんな事を考えていると知ってか知らずか、ポテンティアが鋸について説明する。
『これは、2人で両端を持って、押したり引いたりして使う鋸です。鋸の両端に取っ手が付いていますよね?この部分を持って、2人が息を合わせて、押したり引いたり繰り返すのです』
「なるほど……じゃぁ——」
一緒にやろうか、とポテンティアに提案しそうになるジャックだったものの、それを既の所で我慢する。ポテンティアには、すでに別の役割があることを思い出したのだ。
「ラリー。ちょっと付き合え」
ジャックは寡黙なクラスメイトに声を掛けた。
対するラリーは、どこか不機嫌そうな様子ながらも、文句を言わずにジャックの所までやってくる。
「……何をするつもりだ?」
「この鋸の反対側を持って、押したり引いたりして欲しい。もう反対側を俺が持つ」
「……なるほど」
ラリーはジャックに言われたとおり、鋸の反対側を持った。そして反対側をジャックが持つ。その際——、
ブォンウォンォン……
——と鋸が撓んで音が鳴る。
「鋸が長くて当てにくいが……よし!じゃぁ、先に俺が引くぞ?」
「ああ」
ラリーの相づちを聞いた後、ジャックは手にした鋸を引っ張った。
ガリガリガリ……
「おぉ!ちゃんと切れてる!」
「……鋸だからな」
『鋸ですからね』
「じゃぁ、次、ラリーが引っ張れよ」
「ああ」
ゴリゴリゴリ……
「……次はそっちだ」
ガリガリガリ……
ゴリゴリゴリ……
最初の内こそ言葉でやり取りをしていたジャックとラリーだったが、次第に両方とも、タイミングを合わせて鋸を挽き始める。
「めっちゃ切れてる!」
ガリガリガリ……
ゴリゴリゴリ……
「ああ……」
ガリガリガリ!
ゴリゴリゴリ!
鋸が行き交う度に、大量の大鋸屑が宙を舞う。その切断速度はもちろん、鋸を使った場合と比較できない程の速度だ。
問題はここからだった。鋸で木を切断していくと、木の自重で鋸が切断面に挟まれて、段々と鋸が重くなっていくのである。その上、幹の太い部分に差し掛かれば、切断距離も増えるので、なおさら鋸は重くなってしまうはずだったのだ。そのためには、鋸の腹面に圧力が掛かる前に、切る方向を変えるなどの工夫を施すのが一般的なのだが、ジャックとラリーはそのまま鋸を滑らせていく。
一見すれば、無謀とも言える行動に見えなくなかったが、その行動こそが、双子のアイディアの大きな狙いだと言えた。というのも、騎士科の学生たちは、例外なく筋力強化の魔法が得意なのである。つまり——、
「うぉりゃっ!」
バリバリバリ!
「ふんぬっ!」
メキメキメキ!
——圧力などお構いなしに、無理矢理、大木を切ることが出来たのだ。鋸が木を切っているとは思えないような音を立てながら、太い大木が豆腐のように切断されていった。




