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14.13-07 大森林7

 倒れゆく大木を眺めながら、ジャックはポツリと呟く。


「そりゃ、魔法を使える連中には色々と出来るんだろうけど、同じ事をするのは俺たちには無理だろ……」


 彼の呟きを、他の騎士科の学生たちも聞いていて、皆、自分たちには大木の伐採など不可能だ、と半ば確信のような諦めすら抱いていた。斧を使って全力で切り込んだところで、その深さは精々5ミリメートルほど。5メートルの太さがある大木を切断するには、単純に1000回以上切り込まなければならず……。太さも加味すると、実際には、1万回どころか、数万回は切り込まなければならなそうだった。それも、まったく同じ場所を寸分違わず、同じ角度で。


 その上、全力で切り込まなければならないのだから、尚更に不可能。仮に、機械並みの精度を持つ斧使い(?)がいたとしても、全力で斧を振るえる回数は、1日に精々百数十回程度。限界を超えて斧を振るえば、筋力も関節もおかしくなるのは確実である。


 ゆえに、騎士科の学生たちは絶望の渦に囚われていたわけだが、ジャックもまた絶望していたのかというと、そういうわけでもなかったようである。彼の意識が向いていたのは、魔法科の学生の方でも、騎士科の学生の方でも無く……。彼ら騎士科と同じように無力さを感じていた集団に向けられていた。薬学科の学生たちだ。


「あいつらもなんか出来ねえかな……」


 ジャックはそうポツリと零すと、顔を知っている薬学科の学生たちに話しかけた。教室唯一の双子の姉妹だ。


「なぁ、ちょっと良いか?」


「「……ナンパ?」」


「んなわけあるか。この絶望的な状況でナンパするやつがいたら、むしろ尊敬するぜ。そうじゃなくて、薬学科の観点から、何か出来る事は無いかって聞きたかったんだ。見りゃ分かると思うが、騎士科はお手上げ状態だ。あー、参ったぜ!」


「奇遇だね?」

「私たちもお手上げよ?」


「…………だよな。だよなー」


 早速、ジャックの案は暗礁に乗り上げた。とはいえ、彼の口が止まるわけではない。


「薬学科だったら、木に穴を開けるような薬とか、やわらかくする薬とか持っていないかと思ったんだけどなー」


 そんなジャックの言葉に、双子が反論する。


「そんなものを使ったら、木が使い物にならなくなっちゃうよ。土壌も汚染させるだろうし……」

「馬鹿なの?」


「ぐっ?!ず、随分とストレートに言うんだな……」


「「でも——」」


 双子の声が重なる。


「方法が無いわけじゃない」

「ようするに、森や木を汚染しなければ良いのよ」


「そんな方法があるのか?!」


「「ドーピング!」」ビシッ


「……あ、うん。それは無しで……」


 騎士科の学生たちを薬漬けにし、痛みも疲れも感じない状態にさせて、ひたすらに切り込めば良いのではないか……。ジャックには、そんな副音声が聞こえたようである。


 薬学科の学生は怖い。近寄らないようにしておこう……。ジャックが、薬学科の学生たちについて、総評を決めようとしていると、双子の姉妹が不思議な質問を投げかけてきた。


「「ねぇ、ナンパの人」」


「ナンパじゃねぇ……ナンパしてねぇ……」


「ま、どっちでも犯罪だから、どうでもいいんだけど」

「なんで騎士科の人たちは伐ろうとしないの?」


「えっ?犯罪……じゃなくて、そりゃ伐る方法が分からないから悩んでるんだが?」


 ジャックが素直に現状を説明すると、双子の表情に尚更の疑問が浮かんでくる。


「ちょっと意味が分かんないね?」

「伐れるんだから伐れば良いのに」


「は?」


「「ってことは、やっぱり、ナンパ?」」


「違うわ!……じゃなくて、どういうことだ?」


 双子は一体、何を考えているのか……。ジャックが困惑していると、双子の姉妹は、ある意味当然と言うべきアイディアを口にした。


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