14.13-06 大森林6
「でも……ハイスピア先生を見習うって言ったって……そりゃ、魔法科の連中は出来るかも知れないけど、俺たちには無理だぞ?」
ジャックは疲れ切った顔を上げながら、ミレニアの提案に反論した。
ところがミレニアの方には、何やら策があったようである。
「実は、ちょっと思い付いた事があるの。昨日の夜、寮に戻ってから……あの魔法の練習で学んだことをお復習いしたんだけど——」
「流石はミレニア……」
「別に一人でやらずに、皆でやっても、実は同じ事ができるんじゃないかな、って」
「……えっ?」
ミレニアの言葉にジャックは耳を疑った。ちなみに、彼の他にもう一人ほど、目を点にして耳を疑っていた者がいたようだが、彼女の事はとりあえず置いておくことにする。
「皆でやっても同じ事が出来る……?」
「理論上は出来ると思うけど、本当に出来るかどうかは、実際に試してみればいいと思うわ?そういうわけだから、魔法科のみんな?まだ魔力が残っているようなら、ちょっと力を借りたいんだけど良い?」
ミレニアの呼びかけで、諦めムードに囚われていた学生たちの一部が顔を上げて、彼女の周囲に集まってくる。皆、ミレニアと同じ魔法科の学生だ。
彼女たちは何やら円陣を組むと、その中で作戦会議をして……。そして最終的には頷き合っていたようである。どうやら、ミレニアのプランを聞いて、皆、"行ける"と判断したらしい。
そのあとミレニアたちは、ハイスピアにも声を掛けて、彼女も巻き込むことにしたようである。彼女たちのプランを聞いたハイスピアも頷いて……。そして、ミレニアたち魔法科の作戦が始まった。
とはいえ、彼女たちは、何か複雑なことをやろうとしていたわけではない。彼女たちが使う魔法は、氷魔法と風魔法のみで、ハイスピアがやっていたように、大木の一部を凍らせて、風魔法で斬りつけるというだけの多純な内容である。
従来の方法と違っていた部分。それは、一言で言うなら"効率"だ。いかなる魔法も"一般的には"連続して放ち続けることはできず、魔法を詠唱することで発動させた後は、しばらく経つと勝手に魔法が止まり……。そして再び魔法を詠唱して発動させる、という手順を踏まなければならないのである。特に、風魔法の場合は、実際にカマイタチのような風が木を斬りつけている時間は極一瞬にしか過ぎず、効率は極めて低いと言わざるを得なかったのだ。
そこでミレニアが思い付いたのが、ルシアから学んだオートスペルの応用だ。ミレニアは、オートスペルを使いこなせるわけではなかったが、どういった応用の方法があるのかは、ルシアから聞いていたのである。
"設置"した魔法をいっぺんに使うのも良し。"設置"した魔法を時差で発動させて連続的に使うのも良し……。今回は、その後者の連続使用に着目して、人力で同じ事が出来ないかと考えたのである。
「じゃぁ、皆?さっき、決めた順で数を数えながら、魔法を使うわよ?私から1番を数え初めて、8番まで行ったら、また1番に戻るって形ね?ハイスピア先生は、氷魔法の行使をお願いします」
そして、ミレニアが詠唱を始めた。
「……1!」スパンッ
彼女の手から、風魔法の斬撃が飛ぶ。
2番目の人物は、詠唱のタイミングが掴めず、ミレニアから少し遅れて——、
「……2!」スパンッ
——魔法を放った。
3番目の人物も、やはり詠唱のタイミングが合わず、少し遅れるものの……。4番目、5番目と経るごとに、徐々にタイミングが合ってくる。
そして2周目。ミレニアから再び始まって、今度は安定したタイミングで魔法の行使が進む。それが段々と早まっていって——、
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「7!」
「8!」
スパパパパパパパパン!!
——4周目を越える頃には、ほぼ連続と言えるタイミングで風魔法の斬撃が飛ぶようになっていた。
その結果、風のチェーンソーとも言うべき斬撃が、大木の凍った部分を凄まじい勢いで削り取り——、
バキバキバキ……!
——ついには、その幹を貫通して、切断することに成功した。
その途端、ミシミシという大きな音が大木から聞こえてくる。自重に耐えきれなくなった木が、徐々に傾き始めたのだ。




