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14.13-05 大森林5

 ワルツたちが見せた伐採の手本は、マグネアに見せたものとは異なっていた。マグネアに見せたものは、ルシアが一人で伐採から製材までを担当する場合のデモンストレーションであり、クラスメイトたちと協力して行えるような手本ではなかったからだ。


 ゆえに、ルシアの担当は、彼女にしか出来ない部分だけに限定され、他の部分をクラスメイトたちで分担することになった。ルシアの担当は、木が倒れる際の制御と、木材の乾燥という、2つの作業だけ。その他の伐採、運搬、皮むき、切断の部分は、クラスメイトたちで分担することになった。


 ただ、何事も、いきなりやってできるものではなかったので、ワルツたちは、最初に、その手本を見せるつもりだったようである。


『木を倒すときは、人がいない方に倒してください。事故が起こっては困りますからねー。まずは、そちらの方向に倒します。ご注意下さい!』


   スパパンッ!!


 ポテンティアが空中で指を滑らせるだけで大木に切れ目が入り——、


   ズズズズズ……

   バキバキバキバキ……

   ズドォォォォン!!


——と指定した方向に大木が倒れてしまう。


 それを今度はマリアンヌが——、


「皮むきは、私にお任せ下さいまし!」


   ベリベリベリ!!


——と素手で木の皮を引っ張って、木を丸裸にし……。


 そして丸太になった大木を、ワルツが手で叩いて——、


「あとはこんな感じでグラウンドまで運び入れる、と!」


   ズドゴォォォォンッ!!


——軽々とグラウンドまで運び入れてしまう。


 そこからはルシアの出番だ。彼女はマグネアに見せたように電子レンジ魔法と言うべき雷魔法を行使し、短時間で乾燥させてしまう。どうやら、ただ電磁波を浴びせるだけでなく、時短のために、重力制御魔法を使って、木の周りを真空にするという工夫もしているらしい。


 そして最後の行程。


「良いか?アステリア殿。木を切るのに力はいらぬのじゃ」


「えっ……ちょっと何を言っているのか意味が分からないのですが……」


「繊維に沿って斧を入れれば——」


   パキンッ


「勝手に真っ直ぐ切れるのじゃ」


「へぇ……やってみますね」


   サクッ……


「……いや、そんなに簡単には出来ないのですが?」


 というやり取りのように、テレサが木を器用にたたき割って、製材して完成だ。


 このように、ワルツたちはそれぞれの行程において、手本を見せていったのだが、どの行程も、本人たちにしか出来なさそうな方法で作業を進めていたためか、クラスメイトたちには参考にはならなかったようだ。彼らの口が終始ポカーンと開かれていたのが何よりの証拠である。


 とはいえ、やる内容自体は理解した(?)ためか、皆、作業に取りかかることにしたようだ。事前に申し合わせていた通り、各々グループに分かれて、作業を始める。


 最初の作業は伐採だ。直径5m程はある巨木を取り囲んだクラスメイトたちは試行錯誤を始めた。


 彼らのアプローチは、大きく分けて2種類あった。魔法の使用が得意ではない騎士科の学生たちは斧を持って叩き斬り、そして魔法が使えるその他の者たちは風魔法など切断の効果がある魔法を使って切断する、といった具合だ。


 しかし、その両方ともがうまくいかなかった。一般的な太さの木ならともかく、巨木を切断するには全員で一斉に斬り掛かっても、表面に傷を付ける程度しか出来なかったのだ。


「……無理!」


 誰かが根を上げる。そんな諦めは、質の悪い風邪のように周囲の学生たちの間に広がっていき、ただでさえ低かった皆のモチベーションを一気に押し下げてしまう。


 上手く行くはずがない、と皆の間に諦めの雰囲気が漂う中、教師であるハイスピアは諦めることなく手を動かしていた。今日の彼女は、珍しく心を病んで(?)おらず、生徒たちが諦めそうになっている状況の中でも、自分なりの方法で伐採を試みていたのだ。


 そんな彼女の手の中には斧があって、魔法と併用することで、効率よく巨木を切断しようとしていたようである。


「氷魔法で凍らせて……」パキパキ


   カンッ!!


「斧で砕くっ、と!」


 物質は、凍らせれば衝撃に弱くなるという特性を生かそうとしていたのだ。魔法現象と物理現象を上手く活用すれば、大木でも切断できるはず……。咄嗟にそんな考えに至る彼女は、まさしく学院の教師だと言えた。


 その内に、彼女の行動に追従する者が現れる。


「このままじゃダメね。皆!ハイスピア先生を見習いましょ!」


 委員長気質のミレニアだ。



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