14.13-02 大森林2
村の上空に穴を開けて、村に朝本来の明るさを取り戻した後。ワルツたちは対応を考えながら、早めに登校することにした。村でこれほどまでの影響が出ているということは、学院でも大きな影響が出ている可能性を否定できなかったのだ。
とはいえ、彼女たちが慌てる事はない。慌てたところで、事態は悪化も好転もしないからだ。普段通りゆっくりと朝食を摂って、学院に行く支度をして、そして制服に身を包んで、いつもどおりの時間に出発する。
街道や陸橋は、硬く踏み固められていたためか、草木の成長によって破壊されるようなことはなかった。ただ、ツタや草や枝などが生い茂り、簡単には通れなくなっていたようである。
結果、ワルツたちは、風魔法や重力制御魔法、あるいは物理的な手段を用いて、道を切り開きながら学院への道を進んでいくことになる。ただし、露払いによって歩みが遅くなることはない。
ズババンッ!!
普段通りの速度だ。
「これ、拙い奴かもね……」
「「「「えっ……」」」」
「ポテンティア?とりあえず街道を邪魔している草木を切り開いておいてもらえるかしら?」
『承知しました。実は、既に実施中です。完了まで2時間ほど掛かる見込みです』
「流石、ポテンティアね」
ワルツたちはそんなやり取りをしながら、学院に繋がる陸橋を進んでいくが、ワルツの表情はその景色通りに暗かった。
というのも、普段であれば景色の良い陸橋は、どこまで進んでも真っ暗なままで、空が見える気配は一向になかったからだ。どうやら学院周辺も深い森の中に沈んでしまっているらしい。
そんな事実を突きつけられたワルツは、どうしたものかと内心で頭を抱えていた。伐採するにしても間伐するにしても大量の木をどうにかしなければならず、学院に着いたら着いたで事情を聞かれることになるのは確実で、またハイスピア辺りは現実逃避をしているはず……。解決しなければならない課題が山積していたのである。
ただ、どれもこれも悩んでいたところで解決するものではなかったためか——、
「……ま、決して悪いことだらけというわけじゃないから、ポジティブに考えましょうか」
『「「「「えっ?」」」」』
——ワルツは早々に開き直ったようである。まぁ、彼女の思考に付いていけなかった他の者たちは、ただただ困惑するばかりだったようだが。
◇
小高い丘の上にある学院までやって来ると、流石に空は開けていた。ルシアの魔法が広範囲にわたって影響を及ぼしていたとはいえ、魔法を使った湖から数キロも離れれば、影響は減衰していたのである。
それでも、学院を囲む森の木々は、元の高さの3倍ほどに成長しており、鬱蒼とした森になっていたことに変わりは無かった。そのために、学生たちも教師たちも、早朝から敷地の外を眺めて騒いでいたらしく……。原因についても、噂が回っていたようだ。
そう、彼らにも分かっていたのだ。こんなことが出来る人物——あるいは人物たちは、ワルツたちしかいない、と。
そんな気配を感じ取ったワルツたちは、テレサの幻影魔法を使い、認知されない状態になって教室へと向かった。姿を見られた途端に絡まれるのは、目に見えていたからだ。
そして6人は自分たちの教室へとやって来るのだが、そこには、本来いるはずのない人物が、ワルツたちの事を待っていたようである。
「……おはようございます。皆さん。早速ですが、事情を説明して下さい」
カンカンに憤った状態の学院長マグネアだ。
「(やっぱりこうなるわよね……)」
この展開を予想していたワルツは、ガックリと肩を落とす。
ただ、返答は既に用意できていたようである。
「ごめんなさい!」
ワルツは即刻謝った。そんな彼女の反応に驚きながらも、他の者たちも追従して頭を下げる。
そんな中で、ワルツは、代表して言葉を続けた。
「荒れた森を治そうとしたら、治しすぎてしまいました(とのことです)。その辺の経緯については、同じクラスのミレニアさんやジャックさんも知っているはずなので、確認を取ってもらえれば、嘘は吐いていないことが分かると思います」
事前に事情を聞いていたワルツは、2人の名前を出した。その際、ワルツがハイスピアの名前を出さなかったのは、今回の事件を止められなかったハイスピアに監督者としての責任があると見なされて、厳罰を課せられるかもしれないと考えたからだ。自分たちだけなら、最悪退学になっても、ミッドエデンに帰ってしまえば良いだけだが、ハイスピアが懲戒解雇となると、彼女に帰ることの出来る場所があるのかも、あるいは再就職先があるのかも不明なので、気を遣ったのだ。
ワルツがそのまま頭を下げて、マグネアの言葉を待っていると——、
「はぁ……まったく、困った子たちです」
——マグネアは深く溜息を吐きながら、頭を抱えて……。そして、ワルツたちに向かって、とある問いかけを口にしたのである。




