14.13-01 大森林1
次の日の明け方。
『た、た、た、大変ですよ!!』
という声が地下空間の中を木霊した。ポテンティアが普段出さないような驚きの声を上げたのだ。
地下空間を反響するような彼の声に気付いて、地下空間の住人たちが一斉に家から顔を出した。ワルツも例外ではない。彼女も慌てて家の外に顔を出す。
そして、外にいた——より具体的には、地下空間の出口付近にいたポテンティアに対して問いかける。
「ちょっと、なに考えてんのよ!ポテンティア!今、何時だと思っているの?!」
『まだ早い時間ということは承知していますが、それどころではないんですよ!ワルツ様!とにかく、外をご覧下さい!』
「外?」
外が一体何だというのか……。この時点においても、事態を理解出来なかったワルツは、訝しげな表情を浮かべながらも——、
ズドンッ!
——地面を蹴って、ジャンプし、地下空間の出入り口がある場所までの数百メートルの距離を一気に跳んだ。そして、そのまま地上へと走り出て——、
「んなっ……な、何よ……これ……」
——唖然として言葉を失う。
彼女の視線の先に広がっていたのは、真っ黒な世界だった。日の出間近であるため、外の景色は明るくなっていてもおかしくないというのに、周囲が異様なほど真っ暗だったのである。
とはいえ、太陽が無くなっていたわけでも、惑星の自転が止まっていたわけでも、あるいはワルツたちがいた場所が魔法的な力で空間的に切り取られていたというわけではない。単純に空が見えなかったのだ。
地下空間の出入り口がある村の周辺の森は、ある程度、切り開かれていて、空が見えているはずだった。それが見えなくなっている理由はただ一つ。
「なんでこんなに草木が成長してるの?!」
村の周囲に生えていた木や草が成長して、村をグルリと取り囲み、フサフサの葉で空を覆い隠していたのだ。
「……まぁ、理由は一つよね……」
こんなことが起こるとすれば——いや、出来る人物がいるとすれば、ただ一人。ルシアしかいなかった。
そう確信したワルツは、昨日、ルシアたちと行動を共にしていたポテンティアに事情を問いかけようとするのだが、その直前、本人たちが地下からやって来る。ルシアとテレサの他、マリアンヌとアステリアも一緒だ。
「「「「んなっ?!」」」」
外の景色を見た4人は、ワルツ同様、言葉を失ってた。彼女たちにとっても、青天の霹靂だったらしい。
そんな中で、特異な反応を見せていたのはテレサである。
「まさか……いや……そうなのじゃろうな……」
「テレサ?何か知ってるの?」
ワルツが問いかけると、テレサは普段通りの表情(?)を見せながら、こう答えた。
「此度の件……妾の落ち度かも知れぬ……」げっそり
「えっ?テレサの落ち度?どういうこと?」
テレサには、木々を成長させることが出来るような魔法は使えなかったはず……。それとも新しい魔法が使えるようになったというのか……。そんな疑念を抱きながら、ワルツがテレサの出方を伺っていると、テレサは空を見上げながら説明を始めた。
「……昨日、ア嬢の回復魔法を言霊魔法で中和したのじゃ」
「えぇ、話は聞いているわ?」
「……それが半端だったのじゃ」
「えっ?止めたんじゃないの?」
「止まっておらんかったのじゃ。言霊魔法は声が聞こえる範囲までしか届かぬ魔法。しかし、昨日のア嬢の魔法は、直径が数百メートル以上あったゆえ、端まで声が届かなかった……それが原因だと思うのじゃ……」
「「『なるほど……』」」
と、ワルツ、ポテンティア、それにルシアの声が重なる。流石に、マリアンヌとアステリアの2人は、頭の理解が追いついていなかったためか、ポカーンと口を開けたままだ。
そんな2人に対して、ポテンティアが事情を説明している間。ワルツが「これ、どうする?」とルシアとテレサに水を向ける。すると、そもそもの原因の発端になったルシアが、空を見上げてポツリと呟いた。
「燃やそっか?」
「「「ちょっ……」」」
「ダメ?まぁ、そうだよね。火事になっちゃうし……。じゃぁ……木を全部倒しちゃう?かなりの量の木材にはなると思うけど、置き場所が足りなくなるかなぁ?でなければ、重力魔法でギュッと圧縮しちゃう?」
「いやいやいや、もう少し穏便な方法があるじゃろ?……あるかも知れぬのじゃ?いや、きっとあるはずなのじゃ……」げっそり
「「?」」
「ま、まずは、状況を確認すべきであろう。あ、でも、その前に、村に光が欲しいのう?真っ暗では、村の者たちも生活が儘ならぬゆえ」
「あ、うん。そう、だね……」
一応の責任を感じているのか、ルシアはしょんぼりとした様子で空へと手を向けて——、
ズドォォォォン!!
——巨大な光の柱を作り出し、鬱蒼とした森の中に、大きな空の窓を作り出した。その瞬間、森の天井に大きな穴が開いて、真っ青な空が見えてくるのだが……。空から入ってくる光によって照らし出された村人たちの顔が、青くなっていたのは空の青さのせい——かどうかは不明である。




